BYDオートジャパン・東福寺厚樹社長が語る「長澤まさみのCM起用」「新型シール」「今後の戦略」
BYDオートジャパン・東福寺厚樹社長
日本上陸から1年、3車種のEVで市場を席巻する中国BYD。そのキーマンが販売会社、BYDオートジャパンの東福寺厚樹(とうふくじ・あつき)社長である。というわけで、自動車研究家の山本シンヤ氏が直撃し、進撃の秘密に迫った!!
■長澤まさみのCM起用舞台裏――10月4日、JAIA(日本自動車輸入組合)が発表した今年4~9月のEVの輸入新車販売台数は1万1414台(前年同期比4.1%増)。その中でBYDは1095台(前年同期比60.8%増)でした。日本ではいろいろな意味で注目される中国車ですが、この数字を率直にどうご覧になりましたか?
東福寺 過去最高とはいえ、まだまだというのが正直なところです。ご存じのように日本市場での輸入車の割合はとても限られています。
――昨年の日本市場での新車販売台数は405万101台でした。そのうち輸入車の販売台数は24万4844台。つまり、輸入車の割合は全体の約6%です。その上、日本市場はほかの市場と比べるとEVが主流ではない。それを踏まえたら上出来でしょう。
東福寺 確かに消費者の中でBYDの認知が高まっている手応えは感じています。
――その要因のひとつに、今年4月から女優の長澤まさみさんを起用したテレビCMが挙げられると思います。大きな成果があったのでは?
東福寺 おっしゃるとおり。長澤まさみさんのCMは、今年4月からパリ五輪開催前の7月中旬まで放映しました。その後、少しお休みをして、9月から再放映しています。CM効果もあり販売店への来場者数は最大2倍ほどに増加しました。
女優の長澤まさみを起用したCM効果もあり、日本市場におけるBYDの認知度は爆上がり。来店客も爆増したというからハンパない
――長澤まさみさんに白羽の矢を立てた理由というのは?
東福寺 幅広い層にBYDを認知してもらいたかったのがひとつです。もうひとつは、BYDのメイン購買層は30~40代。いわゆるファミリー層の"財政"は往々にして奥さまが握られている。そこで、女性にも好感度が非常に高い長澤まさみさんにお願いをしたわけです。
――世の奥さま方にBYDを訴求する狙いもあったわけですね。確かに「ありかも、BYD!」というコピーは絶妙でした。押しつけではなく謙虚な提案が消費者に刺さった気がします。
東福寺 正直なところ、日本市場では"中国製EV"を耳にすると、眉をひそめる人が多いと思います。しかし、長澤まさみさんのCMでその印象は変わりつつあると思います。
――今後も日本市場の"BYDの顔"は長澤まさみさんなんでしょうか?
東福寺 実は当初、長澤さんサイドにオファーした際、スケジュールが合わず断念。
――そうだったんですか。
東福寺 しかし、どうしても諦めきれず、2度目のオファーでなんとかCM撮影にこぎ着けられました。可能であれば、今後も長澤まさみさんの力をお借りしたいですね。
■机ひとつで始まった日本市場との戦い――基本的な話で恐縮ですが、東福寺社長はいつBYDに入社されたんですか?
東福寺 21年です。面談時、BYDジャパンの劉学亮(りゅうがくりょう)社長から「自動車業界の100年に1度の変革期にEVという最先端なものに関わる。こんな面白い仕事はないでしょう」と言われたのを覚えています。
――BYDは携帯電話やPC用バッテリーなどを主要商品にし、05年から日本での事業を開始。15年からはEVバスも輸入販売しています。
東福寺 実はBYDオートジャパンの立ち上げ当初は、バス部門の中に私の机がポツンとひとつだけという状況だったんです(笑)。
――この短期間にどのようにしてBYDオートジャパンを軌道に乗せたんですか?
東福寺 まずは知り合いに片っ端から電話とメールで連絡しました。そして実際に会ってBYDの可能性を説きながら仲間を募りました。
――結果、23年1月にSUVのアットスリー。同年9月にはコンパクト型ハッチバックのドルフィン。そして今年6月にはセダンのシールを発売しました。特に日本市場におけるBYDのフラッグシップのシールは、日本では縮小傾向のセダンながらも、8月の登録台数で日本市場の輸入EVランキングで初の首位に立ちました。
東福寺 お客さまにシールをシッカリ見て、触って、そして乗っていただけた結果だと思っています。
今年6月に鳴り物入りで日本市場に登場したBYDのフラッグシップEVセダンが、この新型シール(価格528万~605万円)
――日本市場にEVで参入した米テスラや韓国ヒョンデはオンライン販売ですが、BYDはリアル店舗でビジネスを行なっています。これは大きな強みだと思いますが。
東福寺 リアル店舗に関しては、「郷に入っては郷に従え」の考えですね。今後は25年末までに100ヵ所以上の販売店を構えるのが目標。現時点で33店舗ありますが、試乗や購入に関する相談や購入後のアフターサービスの受け付けが可能な開業準備室を含めますと、合計58拠点になります。
――すでに目標の半数を超えているわけですね。ちなみに東福寺社長は三菱自動車、フォルクスワーゲンを経てBYDに入社されました。これまでのキャリアや知見を駆使したとは思いますが、机ひとつからこの短期間で58拠点の展開は容易ではなかったはずです。店舗を増やす訳は?
東福寺 テレビCMで認知されても、やはりクルマに乗っていただかないことには何も始まりません。乗っていただければ、BYDの良さは必ずわかりますので。
――100ヵ所以上の販売店舗を目指す背景には、サービス面での安心感はもちろんのこと、BYDのクルマに触れる機会をもっと増やしたいという狙いがあるわけですね。
東福寺 付け加えると、例えば乗り換えの場合は今乗っているクルマとBYDの比較が販売店でできますからね。
三菱自動車、フォルクスワーゲンのキャリアを持つ東福寺社長だが、入社当初はBYDの仕事のスピード感に驚かされたという
――そもそもBYDはバッテリーメーカーとして1995年に中国・深圳市で創業しました。自動車事業に参入したのは03年です。注目はBYDが開発したブレードバッテリー。日本に導入された3車種はもちろん、実は中国市場で発売中のトヨタbZ3(なんとBYDと共同開発!)にも搭載されています。
東福寺 ブレードバッテリーはリン酸鉄リチウムイオン電池を採用しています。安全性の高さが強みですが、これまではエネルギー密度が低いことが欠点でした。
しかし、BYDは研究を重ね、技術を磨き、構成をシンプルにして限られたスペースに多くのセルの搭載を可能にして弱点を克服しました。BYDのクルマの航続距離の長さは、このブレードバッテリーのおかげです。
――僕は取材で深圳市にあるBYD本社に行った際、ブレードバッテリーの安全性をアピールする実演に驚きました。太い針を突き刺しても発火しない。この技術力の高さは日本の販売店などで実演すべきだと思いました。
東福寺 販売店で動画は流していますが、間違いなくインパクトはあるので、なんらかの形でやってみたいですね。
――BYDはレンタカーにも力を入れているそうですね。
東福寺 実は17年からEVバスで沖縄県のエコツーリズムの支援を行なってきました。そして、今年の8月29日には沖縄のレンタカー会社にフル充電で476㎞走行可能なドルフィンロングレンジを130台提供しました。
――離島は面積が小さいので、「航続距離を気にせずEVを活用できる」という声もよく耳にします。
東福寺 加えて離島はガソリン代が高い。ランニングコストの面でも離島とEVの相性はいいので、ほかの地域でもトライしてみたいですね。
――今後の戦略についても教えてください。BYDの今年上半期の世界新車販売台数は161万台超です。その内訳はPHEV(プラグインハイブリッド)が88万1000台(前年同期比39.5%増)で、なんとEVの販売台数を上回っています。
東福寺 そうなんです。
――現在、日本市場はHEV(ハイブリッド)が主流ですが、本国で売れに売れているPHEVを日本に導入するご予定は?
東福寺 もちろん、日本市場の需要を見極めながら検討は常にしていますよ。
――僕はBYDのPHEVに試乗していますが、潜在能力が非常に高いと感じました。
東福寺 恐れ入ります。
――最後の質問です。昨年のJMS(ジャパンモビリティショー)でBYDのハイブランドであるヤンワンとデンツァの最新モデルを展示して大きな話題を呼びました。それらの日本導入はいかがです?
東福寺 まずはあれこれ欲張らず、BYDブランドで足場を固めることが第一だと考えています。毎年1車種以上の新型を継続して投入する方針です。ぜひご期待ください。
●東福寺厚樹(とうふくじ・あつき)
1958年生まれ。早稲田大学卒業。81年、三菱自動車工業に入社。国内・海外事業を担当したほか、米国と豪州に駐在。2011年からフォルクスワーゲン グループ ジャパンでネットワーク開発を担当。16年にフォルクスワーゲンジャパン販売の社長に就任。21年8月、BYDジャパン執行役員兼乗用車事業本部長として入社。22年7月から現職
撮影/山本佳吾 写真提供/BYDジャパン
記事提供元:週プレNEWS
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