【サッカー日本代表 板倉 滉の「やるよ、俺は!」】第26回 W杯最終予選・豪州戦で見えたもの、11月アウェー2連戦への決意
豪州戦、積極的なディフェンスと果敢な攻撃参加を見せた板倉
北中米W杯アジア最終予選では圧巻のディフェンスを、独1部ブンデスリーガにおいては今季初得点を記録。勢いに乗る板倉滉が、サウジ&豪州との激闘を振り返る。そして11月シリーズへ向けた展望を最速独占激白!
■3戦未勝利の地、攻略成功の理由おかげさまでコンディションが好調だ。いや、調子が戻ってきたというべきか。直近、所属先のボルシアMGではハイデンハイム戦(10月19日)で逆転勝ちにつながる同点ゴールを決められたし、今月行なわれた北中米W杯アジア最終予選の2戦ともそれなりに動けた。
昨シーズンはケガや手術、回復後すぐに試合が続き、万全の状態ではないままプレーをしており、どこか鈍さを感じていた。今シーズンは、ブンデスリーガでいいコンディションを維持したままゲームに臨めている。プレーのアベレージも確実に上がってきた。
だからこそ、代表での試合もしっかりと役割を果たせている手応えがある。前回のカタール大会の最終予選とは違って、自分の立ち位置が変わっていることもあり、責任感はより感じつつも、前回より確実にプレーのキレは増している。
先日のアジア最終予選、アウェーのサウジアラビア戦(10月11日)について。これまでアウェーでの対戦成績は3戦全敗と、日本代表にとって相性は最悪。
会場のキング・アブドゥラー・スポーツ・シティの風通しは悪く、熱がこもる上に、5万人以上の相手サポーターによる独特のプレッシャーといった理由から、メディアも自分たちも厳しい戦いを覚悟していたが、実際のところバーレーンほどの暑さではなく、さほどやりにくさは感じなかった。
サウジアラビアを率いるマンチーニ監督は、システムをそれまでの3バックから4バックに変更してきたが、僕らはこのことに関して、特に慌てることはなかった。集中して試合に入り、スタジアムが放つ圧をものともせず、メンバー全員が自信を持ってプレーできていた。
それもあってか、前線の選手たちのアグレッシブさ、特に守備への貢献は、センターバック(CB)である僕から見てもすさまじいものがあった。とにかく皆、サボらないし、ここは下がらないといけないという場面での判断力も的確で、ボールを奪われたときの攻守の切り替えも素早かった。
ファウルしてでも止めないといけない場面で体を張る献身性もあった。右サイドにいた(MF堂安)律なんかは特に。サイドにピン止めされてしまう場面もあったが、攻守共に1対1でしっかり勝って局面を打開してくれた。
前線からの守備が機能した結果、僕らは多くのチャンスを得て、14分という序盤で(MF鎌田)大地が押し込んで、早々に先制点を取ることができた。
前線の選手たちの守備意識があれだけ高いと、当然ながら僕ら守備陣も非常に守りやすい。9月の中国戦、バーレーン戦、そしてこのサウジアラビア戦を無失点で抑えられたのは彼らの守備力があってこそだ。
2点目、セットプレーからの(FW小川)航基によるゴールは、中国戦で(MF遠藤)航君が見せた、先制のヘディングゴール同様、完全にデザインされたものだ。
セットプレーは普段から、コーチの(前田)遼一さんが「セットプレーで、相手はこのポイントが弱点。そこを狙っていこう」とさまざまなバリエーションを考えてくれている。僕らはそれを練習で実践し、本番に向けて形にしていった。
僕自身も守備だけでなく、45分に(MF南野)拓実君へ縦パスを一本入れたように、常にタイミングをうかがっていた。拓実君がフリック(ダイレクトでボールの軌道を変える)して、それを受けた(FW上田)絢世がシュートまで持っていったが、こういったパターンも攻撃のオプションにしていきたい。
意表を突くことで相手の注意を引きつければ、そのぶん別のスペースが空いて、新しいチャンスが生まれていくはずだ。
今年1月のアジア杯、準々決勝のイラン戦での敗北から、僕らは多くを学んだ。メンタルも相当鍛えられた。あの経験があったからこそ、未勝利だった地で勝ち点3をもぎ取ることができたのだと思う。
アウェーの圧をものともせず、サウジアラビア戦を戦い抜いた板倉
10月15日のオーストラリア戦は、埼玉スタジアムが満員と聞いて奮い立った。ホームだし、3戦続けてクリーンシート(試合の最後まで失点しないこと)を達成していたので、もちろんこの試合でも無失点で勝つことを目標にしていた。
でも一方で、ここまで無失点をキープできたからこそ、万が一、失点してしまったときにメンタルがブレないよう、チームとして崩れないようにする必要があることは肝に銘じていた。
オーストラリアは僕らと同じ3-4-2-1の布陣で臨んできた。ただ、基本的には5バックでコンパクト、非常にタイトな印象を持った。特に中央の堅さは後ろから見ても明らか。だからといって、弱気になって引いているわけではなく、高い位置に最終ラインを設定して、個々の身体能力を存分に発揮していた。
この日は、航君が出場せず、(MF)守田(英正)君がキャプテンを務め、守備的な役割を担っていた。相手は3枚でハメてくるだろうと予測して、こちらは場面ごとに守田君が下りてきて、4バックになることで対応した。
(DF谷口)彰悟さんと守田君のふたりで相手FWのデュークに対して2対1の状況をつくるようにしていた。
僕が意識していたのは、DFの役割を担っている以上、カウンターやロングボールを警戒して、満遍なく相手のチャンスの芽を潰すことだった。もちろん、場面によっては攻撃の起点となって、積極的に前線につなぐことも考えていた。
前線の選手は皆ボールをどんどん受けに来てくれるし、ポジショニングも良いので、出し手としては好都合。いい所にパスをつけようと準備していた。
実は試合前に(MF三笘)薫から「(球を)持ったタイミングでダイアゴナル(斜め)を見ておいて」と声をかけられていた。右CBの僕がボールを持ったところで、対角線上の左サイドの前線にいる彼にパスを出してくれ、というわけだ。
試しに出した序盤の1本は、相手が5バックで並んでいたこともあり、あまり効果的ではなかったけど、ハーフタイムに薫と再度話し合い「がっつり対角というよりは、出すタイミングを遅らせて若干斜めに出すぐらいがいいかもね」といった細かい修正をした。
試合を通して、僕は比較的フリーだったので、前が空いていれば、すかさずボールを運んでいった。反省点としては、もうちょっと高い位置を取っても良かったし、もっとほかにできることはあったようにも思う。
守備陣については、クロスを上げられても、基本的には対応できていたし、真ん中もしっかり抑えられていた。ただ、クロスの出どころ、相手の起点となる選手を確実に潰しに行くとか、そういった課題はしっかり確認した上で今後修正が必要になるだろう。
57分の彰悟さんのオウンゴールはしょうがないものだった。言ってみれば〝事故〟のようなもので、僕らDFにとってはいくらでもありえることだ。普段の練習であれば、彰悟さんも難なくクリアできる。
でも、W杯への切符がかかったアジア最終予選の張り詰めた緊張のもと、あのような相手の単純なクロスだからこそ、僕らDFはめちゃめちゃ気を使ってプレーしようとする。
彰悟さんもそんな意識だったはずだ。僕ら守備陣は10本中1本決めてチームを勝利に導く前線の選手と違って、10本のうち9本クリアしても、1本ミスしただけですぐに失点につながってしまう宿命にある。
だからこそ、ミスした後に引きずることなく、気持ちを切り替えて頑張れるかが肝心だ。そういった意味で彰悟さんは崩れることはなかった。
守備面では、守田君にもずいぶん助けられた。IQの高さが半端じゃない。すべてのプレーが、〝サッカーを知り尽くしている選手〟のそれだ。薫にも同じことがいえる。小学生の頃から同じチームで一緒にやってきているが、インテリジェンスを感じる。
オーストラリア戦は航君が不在で大丈夫なのかという声が多かったようだが、(MF田中)碧をはじめ人材は豊富だし、みんな試合に出たくてギラギラしている。
DFもケガ人が多く人手不足といわれていたが、僕らは同じメンバーで難しい試合も無失点に抑えてきた。もちろん、トミ(DF冨安健洋)とかが帰ってくればうれしいけど、この先も臆することはない。
ひとつ付け加えておけば、(DF長友)佑都君にはいつも感謝している。出場機会がなくとも、選手入場の際には最後尾について、ピッチへ出ていく瞬間「行ってこーい!!」と、誰よりも大きい声で雄たけびを上げて送り出してくれる。
これは恒例化していて、僕らは毎回背中越しに佑都君の雄たけびを待ちわびている。「そろそろ来るぞ来るぞ」と。確実にチームの雰囲気が良くなるし、テンションも上がる。本当にありがたい存在だ。
ブンデスリーガ第7節、チームの逆転勝利を呼び込む得点を決めた板倉
11月のインドネシア戦(11月15日)と中国戦(同19日)は、どちらもアウェーゲーム。各自、クラブと代表の両立で疲労も蓄積してくる頃だろうし、中3日という過密なスケジュールで、難しい試合になることは覚悟している。
中国は、埼玉スタジアムで大勝したときと同じチームとは思わないほうがいいだろう。ホームであれば、サポーターの声援を受けて、勢いに乗り、ラフプレーの連続も想定しておく必要がある。
また、インドネシアについては、今まで僕らは対戦経験がないので、特に警戒している。オランダから国籍取得した選手も多く、オランダのエールディビジでプレーしている選手も相当いる。
つまり、アジアといっても、ヨーロッパ的なサッカーをするチームだということだ。ゲームの入り方からしっかり見直さないといけないと思っている。
サウジアラビア戦では、アウェーの洗礼を克服することに成功したが、オーストラリア戦では、先制されたときのビハインドという状況からどう粘って食らいつき、勝ち点をもぎ取るのか、もう一度課題を突きつけられた。同点に追いつき、勝ち点1を獲得できたことはポジティブにとらえたい。
振り返れば、僕らはW杯カタール大会(2022年)でドイツ、スペイン相手に逆転勝利を成し遂げた。でも、優勝を目指すならば、ゲームを完全に支配して、勝利をつかみに行く姿勢をつくらなければならない。そして何よりも粘りも伴った勝者のメンタリティが必要不可欠だ。
板倉滉
構成・文/高橋史門 写真/JFA/AFLO
記事提供元:週プレNEWS
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