おぎぬまXのキン肉マンレビュー【コミックス第38巻編】~新章突入! かつての『キン肉マン』を倒すためにゆでたまご先生が選んだ方法~
今回のJC38巻からこのレビューもついに24年ぶりに連載再開された『キン肉マン』新章へ突入! シリーズ最高傑作編との呼び声も高い「完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)編」はプロローグから激アツです!!
●キン肉マン38巻レビュー投稿者名 おぎぬまX
★★★★★ 星5つ中の5敵はかつての己自身!? キン肉マン新たな闘いへ『週刊少年ジャンプ』時代の最終シリーズ「キン肉星王位争奪編」の漫画連載が終了したのが1987年のこと。そこから24年という時を経て、再開された同じ無印『キン肉マン』の新シリーズ......それが昨今のアニメ化でも話題沸騰中の「完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)編」です。
今回レビューさせていただく第38巻は、その記念すべき新章のプロローグともいうべき初刊に当たるわけですが......まず〝かつての最終回の続きからそのまま始める〟という仕掛けからして、胸の高鳴りを抑えることができません!
思えば、ゆでたまご先生は過去にシリーズ作『キン肉マンⅡ世』という作品を生み出されたことで、その後しばらくブームになったいわゆる「二世モノ」と言われる新ジャンルを切り拓かれた実績をお持ちです。
他にも、「超人募集」「キャラクター人気投票」といった読者参加型企画、キャラクターの強さを数値化した「超人強度」などなど......これまでに発明した斬新なシステムは数え切れません。
そして、今回のこの試みもまた、誰もが思いつきそうでありながら、手をつけていなかった盲点のジャンルでした。もちろん、ただ単に漫画の続編が刊行された前例はあるでしょう。しかし、そういった続編は必ずタイトルに『新』とか『2』などといった単語が付くはずです。
『キン肉マン』ほどの大人気かつ長寿作品である漫画が、一切タイトル変更をせず、かつての続刊となる38巻から刊行再開する......というその背景には、〝別物〟という言い訳を自ら封印した、ゆでたまご先生の覚悟がひしひしと伝わってくるのです!
しかし、そうなると我々〝肉ファン〟は当然のことながらシビアな視点で、物語のクオリティをジャッジすることになります。「人生で一番で好きな漫画は?」という問いに対して、『キン肉マン』と答える人間――かくいう僕もそのひとりですが、新章再開にハードルを限界まで上げきった読者の期待に応えなくてはならないのです。
あえてメタ的な視点で申し上げるなら、新たなるキン肉マンの本当の敵とは......かつての己自身が築き上げてきた〝伝説〟なのではないでしょうか。これはどんな悪行超人よりも厄介な、とんでもない強敵です!
そこを考えると、この復活を決めた際のゆでたまご先生の覚悟の重さたるやいかほどのものだったのかと想像してしまうのですが......しかし! 先に結果を申し上げると、僕らのそんな心配は杞憂に過ぎなかったといえるほど、そのそびえ立つ高いハードルをこの新章は軽々と超えてきた!
その衝撃がこの章には大前提としてあるのですが、まずは各巻のレビューということで、大声で叫びたい気持ちを一旦抑えて、クールに物語を振り返っていきたいと思います!
さて、冒頭の見開きページ、かつての様々な名場面が大きなキン肉マンの背後に描かれるとともに「超人とはなんぞや?」というテーマの語りから話は始まるわけですが、それはキン肉マンの祖父であるキン肉タツノリの言葉であることが数ページ後にわかります。
何気ない導入に見えますが、果たしてゆでたまご先生はこの時点でどこまでの構想をお持ちだったのか......恐ろしいことにこれが後々、とてつもなく大きな意味を帯びてきますので、特に初見の皆さんにはぜひ憶えておいていただきたいポイントのひとつであります.
そして最初に登場するのは、キン肉マン......ではなく、テリーマンとミートなのも意外なところです。まずは彼らが「キン肉星王位争奪編」後のこの世界の様子、これまで争ってきた正義超人、悪魔超人、完璧超人の三属性の間で不可侵条約が締結される運びとなったことや、地球を離れ新大王としての公務に追われるキン肉マンの近況についてもおぼろげに語ってくれます。
正義超人代表・テリーマンに加えて、悪魔超人代表・アシュラマン、完璧超人代表・ネプチューンマンが三属性不可侵条約に調印を行なった
さらに委員長からは、主だった正義超人たちがメディカル・サスペンションという体力回復装置に入っていて不在であることも。
こうしてすっかり平和になった世の中の様子が描かれる新章第1話ですが、その最後のページになってようやく、敵らしき超人が空から降ってきます。それがあのビッグ・ザ・武道(ブド―)と似た容姿を持つストロング・ザ・武道ら新手の完璧超人軍団、その名も「完璧・無量大数軍(パーフェクト・ラージナンバーズ)」でした。
不吉なことはいつもテリーのひもが教えてくれる......
そこから平和な世界は一転、彼らは正義超人たちに難癖をつけて、その場で大暴れします。この展開をリアルタイムで読んだときの感覚として、僕は正直それまでの『キン肉マン』とはどこかちがう......〝異質な怖さ〟を抱き始めていました。
というのは、どうも彼らの目的が漠然としていて、あえて明確にハッキリと語られていない気がしてならなかったのです。
開幕戦を託した選手は、テリーマンという最適解完璧超人の残党が不可侵条約に納得いかず暴れている、というのはもちろんわかるのですが、単にこれだけだと鳴り物入りで始まった新章の敵が動き出す動機としてあまりに弱い。
もし本当にそれだけだと、逆にキン肉マンたちがそこに闘いの意思を向ける理由はただの暴徒鎮圧ということになってしまいます。しかしこれまでの闘いを振り返ると、バラバラになったミートを助けるとか、王位を奪いに来た邪悪神のたくらみからこの世を守るとか、もっと絶対的な闘う理由が常にあり、それが『キン肉マン』という作品の大きな特徴のひとつでもありました。
それらと比べると、何か異質にぼやけたこの導入の怖さ。もっとも彼らが動いた真の動機は、過去最大級のあまりに壮大すぎる話だったということが、後になってから徐々にわかってくるのですが......。
とにかく今は、この事態を正義超人がなんとか収めるしかない。しかし、ここで先のメディカル・サスペンションというフリが効いてきます。なぜなら、キン肉マンをはじめとする正義超人の主力組はほぼ不在。マトモに闘えそうなのはテリーマンとジェロニモしかいないにもかかわらず、その片割れのジェロニモすら一瞬で排除されてしまう容赦のなさ。
しかもこの後、敵を束ねるストロング・ザ・武道が、これまでのボスキャラと完全に違うというのがわかるシーンが描かれます。なんと組み合った超人タイルマンを人間にしてしまうんですよね。瞬殺とかノーダメージみたいなわかりやすい格付けではなく、明らかに普通の超人ではない能力を有している。それなのに自分は何者だと語りもしないこの不気味さ。
「人間にぃ」の「ぃ」に危機感を感じる
人間離れ――いや、超人離れした能力を持つ敵の親玉と、10体を超える不自然なほどに多い敵陣営。正義超人ファン感謝デーに集まったチビッコのように、ウッキウキでページをめくっていた読者たちは「どうやらこの新章が、ただの復活お祭り編ではなさそうだぞ......」と緊張感を抱いたのではないでしょうか。
結局、彼らに立ち向かえそうな正義超人は、現時点ではただひとり。正義超人軍テリーマンと、先陣としてその実体を見せた7名の完璧超人軍による対抗戦が開幕します。圧倒的不利のなか、しかしそのひとりがテリーマンというのはなんとも不思議な心強さも感じます。
対する最初の相手は"完裂"の異名をとる256cm/423kgのマックス・ラジアル。巨漢ハンターとも称されるテリーマンにはうってつけのマッチアップでしたが、新章1発目のこの試合、何より僕が驚かされたのは、息つく間もないほどのテンポの良さでした。
目まぐるしく入れ替わる攻守、技の応酬、逆転に次ぐ逆転のアイデア、往年の時代から連綿と続く『キン肉マン』らしさてんこ盛りの大勝負だったにもかかわらず、終わってみると試合開始から決着までわずか3週!?
この大事な初代シリーズ復帰戦。熱狂的な肉ファンが新シリーズを〝認めるかどうか〟の試金石となったかと思いますが......まさか、現在の超絶作画と、ジャンプ連載時を彷彿させるオーパーツ的な試合構成術が組み合わさった、第一戦目にしてシリーズベストバウト級の名勝負になるとは誰が予想できたでしょうか!! これぞ『キン肉マン』! これぞ超人プロレス!と全ての読者を熱狂させた魂の一戦でした。
今となっては大成功したと断言できる新章復活劇にあたって、この試合の果たした役割は相当に大きかったのではないでしょうか。ありがとう、テリー!
しかし、その大役を果たしたテリーマンはもはやボロボロ。これ以上闘えるのか?......というところでようやく、待ちに待った主人公のキン肉マンが助っ人に参上するのです!
とはいえ、敵はまだまだ大量にいる上、頼みのロビンマスクやラーメンマンたちは未だ間に合う気配なし。それでも構わず、完璧・無量大数軍たちは新たな闘いを求めて既に全世界に散らばった。マジでどうなるんだ......というところで、この巻の最大サプライズ!
ステカセキング、ブラックホールらまさかの悪魔超人軍乱入をもって次巻、大混迷の激アツ団体対抗戦へと物語は突き進むのですが......特筆すべきはラストでこれほど怒涛の急展開を迎えてまだ、この巻では敵の真の目的が見えてこない!? 物語の全貌が明かされていないのです。
それを踏まえてあえて斜に構えた言い方をしますと、かつての作風が「キン肉マンGo Fight!」であったとすれば、今の作風は「キン肉マンWhy Fight!?」なのではないでしょうか。かつての『週刊少年ジャンプ』時代の勢いそのままなぞらえているようでこの新章、読者に考察の余地を残し続ける今風の作り方をも同時にされているのは実に興味深いところです。
登場する超人たちが皆、どこを目指して闘っているのか、目的地が一切わからない!? この新たな時代に蘇(よみがえ)った『キン肉マン』が闘う理由とは......⁉
そんな見えない先の展開を予想していく楽しさ、物語に翻弄される喜びを、皆さまと共有できるようなレビューを次巻以降も続けていこうと思っております。
今回は記念すべき新シリーズ1巻目ということで、かつてない長文になってしまったことをお詫び致します。
それでは引き続き、毎月の更新にお付き合いの程、どうか皆さま、何卒よろしくお願いいたします!!
こんな見どころにも注目!この巻で僕が密かに大好きなのがこの一コマ。自害を決意したマックス・ラジアル最期の瞬間を同胞として見守る完璧・無量大数軍の面々、という非常に冷酷冷徹にしてシリアスな場面ではあるのですが......。犬やらロボやら魚やらがこんな画角で、並びで、表情で、なんの違和感もなく同時に入ってくる絵面は、他作品では何が起ころうと絶対にありえないと思うのです! しかし、どれほど時代を超えようと、それを平然とやってのけて通用するのがこの美しき『キン肉マン』世界。こんなに素敵なワンダーランドをイチから構築して完成させたゆでたまご先生のスゴさを、全世界のクリエイターはもっと知るべきだと僕は本気で思います!
●おぎぬまX(OGINUMA X)
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家、小説家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン。ミステリ小説シリーズ『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』、『キン肉マン 悪魔超人熱海旅行殺人事件』が好評発売中
漫画/おぎぬまX 構成/山下貴弘 ©ゆでたまご/集英社
記事提供元:週プレNEWS
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