新たな映像クリエイターの発掘と支援を目的としたプロジェクト。 心揺さぶる短篇で世界の映画祭目指す!

講談社シネマクリエイターズラボ×ショートショート フィルムフェスティバル & アジア
昨年、ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(SSFF & ASIA)2023で第1期受賞者が発表された「講談社シネマクリエイターズラボ」。1年間を経て完成した5作品がついに6月の映画祭でお披露目となった。さらに、アワードセレモニーでは第2期受賞者を発表。現在、絶賛制作中の3作品は2024年末までの完成を目指し、2025年から国内外の映画祭への出品を開始する。最終目標は米アカデミー賞短篇映画部門、短篇アニメーション部門の受賞。世界中に届く映像作品にするべく、講談社は各クリエイターに伴走し、制作を進めていく。
世界を、誰かの心をInspire する、Impossible(=ありえない!)な想像を超えたStories(物語)を一緒につくりたい――と、出版業界最大手の講談社がSSFF & ASIAの全面協力を得て2022年に開始した、世界の映像クリエイター支援プロジェクト「講談社シネマクリエイターズラボ」も今年で3年目を迎える。同コンテストではショートフィルム企画を世界公募し、受賞者に1000万円の予算を講談社が提供。受賞者には担当編集者がつき伴走、映像を制作し完成させ、国内外の映画祭での受賞を目指す。
第1期の応募数は1103件(うち海外200件)にも上り、優秀賞4企画、特別賞1企画の計5作品が受賞した。第2回はその数を上回る1126件(うち海外241件)の応募企画が集まり、3人のクリエイターが受賞を果たしている。そして、6月4日~17日(オンラインは4月25日~6月30日)に開催されたSSFF & ASIA2024の会場、表参道ヒルズ スペース オーにて記念すべき第1期受賞5作品が上映。それに先立ち、初日に開催されたSSFF & ASIA2024クリエイターズパーティにて、完成発表が行われた。100名を超える映像クリエイターに囲まれながら、壇上にあがった5人の監督はそれぞれ制作を終えた感想や作品に込めた思いを語った。
また、クリエイターズラボの神保純子プロデューサーは「ほぼ企画書だけで応募できる夢のようなプロジェクト」であり、「講談社が全力をあげてサポートする」と改めて説明。ついで7月1日には、講談社の「物語」を世界に伝える新ブランデッドフィルムの企画・制作を全世界から募集する新たなプロジェクトも発表となった。最優秀企画には賞金300万円、制作費最大3000万円が用意される。ますますの盛り上がりが期待できそうだ。
第1期受賞5作品 制作発表&作品紹介

選考から作品完成までを振り返って―:(シネマクリエイターズラボ 永盛拓也)
2022年6月に産声を上げた講談社シネマクリエイターズラボ。「プリプロダクション」の意味も分からないところから「映像の担当編集者」の歩みがはじまりました。
国内の実写2作品は、3月に脚本開発をスタートし、8月にオーディション。美術や衣裳の打ち合わせを経て、10月に撮了。海外の実写2作品もオンラインで幾度も打ち合わせ。特別賞のアニメーション作品は、締め切りギリギリまで絵コンテの修正を重ね、いずれもクリエイター・担当編集者ともども大満足の作品に仕上げることができました。
作品をよりよくするため、制作チーム一丸で最後まで一緒に悩み抜きました。互いに全力を出し合ったクリエイターさんには尊敬の念と感謝しかありません。映像制作の現場感はまだ勉強中。ただ、長年にわたり作家と向き合ってきた講談社の経験は、物語を紡ぐ脚本開発にも画作りにも生きてくるという手応えを得られた1年間でした。積み重ねた知見を生かして、さらにクリエイターのお力になれるようこれからも全力を尽くします。
「Warmth in a Puddle」崎村宙央監督(特別賞)
音響制作:株式会社bpm 出演:橘内良平 上映時間:10分
2001年生まれ。映像作家、アニメーション作家。手描きアニメーション・3DCG・実写を融合させた唯一無二のヴィジュアルスタイルを持つ。
「自身から見える世界の生きづらさを幻想的なアニメーションで表現。自分の頭の中にあるものを引っこ抜いて鏡に映したみたいな作品で、かみ砕いたり理解したりするのではなく体感してもらいたい。水溜まりに落ちるところから物語は違う展開に。水溜まりは現実世界と自身の内面世界をつなぐ穴みたいなものとしてイメージした。最初は実写で作りたいと思っていたが、自分で演技した動画の上にアニメーションの線を乗せたとき、頭の中に浮かんでいた作りたい作品のイメージと合致。なるべくしてこの形になったと感じている」
「美食家あさちゃん」瀬名亮監督
制作:AOI Pro. 出演:池田朱那、菅田愛貴 上映時間:15分
受賞監督は、選考時には19歳の大学生。2022年「Hulu U35クリエイターズチャレンジ」にて制作した処女作『はじめてのよあそび』がグランプリを獲得した。
「かわいいものが大好きで、かわいくなりたいと願う気持ちはすごく素敵なものだと感じているので、それを物語という形で取り出してみたかった。できてみるとすごくかわいいけれど、ホラー映画のような怖さも。もともと小説家志望だったので講談社は憧れの存在。担当編集者、スタッフの方々が親身になって私の意見を尊重してくれたのもありがたく、いろんな方と話しながら撮れた。特に主人公の女子高生と同世代だったこともあり、感情の表現がしやすい現場だった。何よりもこの作品を作れたことが自分にとってプラスとなった」
「SAGE /賢人」マックス・ブラスティン監督
制作:ニュー・プラネット・フィルム&メディア(ロンドン) 出演:レスリー・ジョセフ、レア・コーハン、ポール・サンガン 上映時間:5分
ロンドンの映像制作会社「ニュー・プラネット・フィルム&メディア」のオーナー兼創設者。学生時代に制作した「Before Midnight」が英国全国学生映画祭で最優秀フィクション映画賞を受賞。本作は出品開始直後からイギリス、ドイツ、アメリカなどの映画祭にノミネートされた。
「敵意と憎悪を克服する“ 言葉が持つちから”をテーマとした短篇映画。『愛している』と口にするだけで、身体に化学的な変化が起きる。このアイデアを困難な状況に対する精妙な魔法のように描いた。1テイク、ノーカットに挑戦し、25回目でやっと納得するテイクが撮れた。チームとして努力しないと1テイク作品はなかなか完成できない、時間にも限りがある。そういう意味では講談社のサポートもあり、最高の経験ができた」
「A Dream for My Daughter /父と娘が見た夢」マウリシオ・オサキ監督
制作:LUPI FILMS 出演:Mony Ros、Sopheanith Thong、Socheata Svay 上映時間:24分
日系ブラジル人三世の映画監督。ニューヨーク大学ティッシュ芸術学部で映画製作のMFAを取得。大学院在学中に監督した「MyFather’s Truck」は第63回ベルリン国際映画祭を含む100以上の映画祭で上映され米アカデミー賞のショートリストにも選出された。
「小さいときから映画が大好きで溝口健二監督、黒澤明監督の映画を見て育ち、多大な影響を受けた。それらの作品にインスパイアされてこの脚本を書いた。モデルはヴェトナムの友人。不正規移民のアジア系の人たちがイギリスに入国するために荷物用のコンテナに積み込まれて移動、コンテナの中に閉じ込められて亡くなった事件に着想を得た。この映画を通して、密航の犠牲となった若い魂に敬意を払い、心から冥福を祈りたい」
「私を描いて」喜安浩平監督
制作:ROBOT 出演:小林桃子、滝澤エリカ 上映時間:19分
1997年、広島大学教育学部美術科卒。98年より「ナイロン100℃」の劇団員として活動し、2000年に自身が作・演出を手掛けるユニット「ブルドッキングヘッドロック」を旗揚げした。13年「桐島、部活やめるってよ」で日本アカデミー賞優秀脚本賞受賞。
「脚本家として俳優として長らく映画には携わっているが、本格的に映画を撮ったのは初。頭からつま先まで、映画を作る喜びを全身で味わうことができた。本作は芸術や表現の暴力性にまつわる話。自身が発信するものは誰かを傷つけてしまう可能性があると、登場人物は怯える。だが、そのリスクを負って何かを破壊しないとその先の自由が手に入らないと言い聞かせながら作っている。それを若い女子高生たちに託して表現した」
第2期「講談社シネマクリエイターズラボ」受賞結果発表
第2期は2023年8月1日から11月30日まで募集。応募数全1126企画(日本885、海外241)のなかから受賞3企画(日本2、海外1)を決定した。受賞クリエイターには講談社の編集者が担当につき、年内の完成を目指してショートフィルムの制作をスタートする。
「Little Pains」Milda Baginskaitė監督(実写/イギリス)
11歳の少女ソフィーは母親を亡くしたが、現実を受け入れることができず、葬儀当日、おもちゃのピストルを持って墓地に向かう……幼くして喪失の痛みに向き合うこと、悲しみは乗り越えることができること、を描く。監督・脚本のMilda Baginskaitė 氏はイギリス在住のリトアニア人。2019年、New York International Children’s FilmFestivalにて短篇が上映、バルセロナ短篇映画祭2019にて最優秀新進監督賞を受賞。
「エンパシーの岸辺」石川泰地監督(実写/日本)
結婚を約束した相手に浮気をされた女が、浮気相手(ルームメイト)を衝動的に殺害。死体をキャリーケースに詰め込んで海へ捨てに行こうと車に乗り込むと、死んだはずの彼女が話しかけてきて――。死んだのはいったい誰だったのか、そもそも悪かったのは誰だったのか。今年、テアトル新宿で特集上映が組まれた期待の若手監督・石川泰地が、映画ならではの画づくりにこだわったロードムービー。叙述トリックにきっとあなたも騙される。
「朝のとき」古山俊輔監督(アニメーション/日本)
少年テトの空想と、現実を生きる人々の空想が織りなす文学的ファンタジーアニメーション。光と生きることをテーマとする。ベッドに乗って学校に行くテト、カモメにモーニングを頼む灯台守、夜空に機関車を走らせる引退した鉄道員、怪物に乗ってやってくるレグルスの王、三日月の夜だけクロワッサンの店を出すパン職人、親友を亡くした登山家が山で見たものとは……。これまで多くの企業広告を手掛けたアニメーション・ディレクター古山俊輔が本当に作りたかったアニメーション。
選考総評:シネマクリエイターズラボ 神保純子
第1期1103件を上回る1126件の企画が世界53カ国、14 ~76歳のクリエイターから寄せられました。すべてではありませんが、日本発の企画には「短篇ならでは」の発想と内容の作品が多く、海外発の企画には大きなテーマのどこをどうやって切り取るのか、短尺で表現するのか、に挑戦した作品が多かった印象を受けました。
講談社のパーパスである「Inspire Impossible Stories」を体現するための「誰もみたことがない物語」であることはもちろん、映画祭受賞を目指す、というミッションに照らし合わせると一点突破ではむずかしいことは明らかなため、「新しい映像表現」「メッセージ性」「ドラマ性」を兼ね備えた3企画が選ばれたのは必然といえます。
募集中の第3期においても、映像クリエイターの皆さんの「挑戦」と「飛躍」を支援していきたいと思っておりますので、思いのこもった企画のご応募をお待ちしております。
(「キネマ旬報」2024年10月号より転載)
第3期「講談社シネマクリエイターズラボ」受付中
“企画コンテスト”なので、応募は企画書・経歴書のみでOK。応募条件は25分以内を想定した映像作品であること。25分以内ならば3分でもあり。アニメ、CG、実写問わず、ジャンルは⾃由。ミックスも歓迎。
※シネマクリエイターズラボ最大の特徴は、受賞1 企画ごとに講談社の担当編集者がつくこと。漫画・小説・エンタメ系コンテンツの担当・映像化経験が豊富な担当編集者が、脚本の打ち合わせから制作会社のセレクト、撮影立ち会い、映画祭の出品、その後のキャリア展開に至るまで、クリエイターに全力で寄り添って伴走する。
応募締切 11月30日(土)
詳細は、講談社シネマクリエイターズラボ公式サイトをご覧ください。
公式サイトはこちら
記事提供元:キネマ旬報WEB
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