ロシア辺境を父と娘が漂流する「グレース」、本編映像と著名人コメント公開
ロシア辺境を舞台に、移動映画館で日銭を稼ぐ父と思春期の娘による旅の日々を描き、2023年カンヌ国際映画祭監督週間に出品されたイリヤ・ポヴォロツキー監督作「グレース」が、10月19日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国で順次公開される。野外上映シーンの映像と著名人のコメントが到着した。
〈コメント〉
ソ連というひとつの文明が終わった後の世界。峻厳な自然の広がりにかろうじて残っている道を、ぼろぼろのバンでよろよろと進んでいく父と娘。タルコフスキーやソクーロフが描いてきたあの永遠のように停滞する時間が、ひとに重くのしかかる。原題のблажьは愚かな気まぐれを意味する。貧しくも圧倒的に美しい風景のなか、人間のいとなみはあまりにも取るに足りない。それでも生きている。
──上田洋子(ゲンロン代表、ロシア文学・演劇研究者)
ヴィム・ヴェンダースと青山真治をふたたび出会わせたこのロシア製ロードムービーは、『PERFECT DAYS』のありえたかもしれないもうひとつの道程を見せている。
──阿部和重(作家)
ロシアの地方を旅すると本作のような景色をよく目にする。歴史が停止したような街と、ひっそりと生きる人々。それは絢爛なモスクワやサンクトペテルブルグとは真逆の景色だ。父と旅する少女は、そんな記憶喪失したような景色を写真に撮り続ける。忘れたくない光景があることが、いつか希望になると信じるかのように。ロシアはいつも無愛想だが、時折こんな繊細な映像が生みだすから、つくづく世界はわからないと思う。
──佐藤健寿(写真家)
車に閉じこもり、刹那に活きる父親と、新しい人生を歩み出す娘。ロシアのフロンティアを巡るこの映画は、戦争の始まる前に、どこかでこの30年を振り返っているようにも思える。監督の心の中のドキュメンタリーともいえるだろか。
──前田弘毅(東京都立大学人文社会学部教授)
ロシアの新鋭監督が、誰も見たことのない世界を見せてくれる。コーカサスの辺境から北極圏の海へ。見慣れない風景の中をオンボロ自動車が走り、思春期の少女が成長していく。はるかな魂の辺境を突っ切っていくようなロードムービーだ。ここには戦争の予兆のような不穏な気分と旅が切り開く未知の世界への微かな期待がないまぜになって、恩寵のように漂っている。
──沼野充義(ロシア文学者・東京大学名誉教授)
配給:TWENTY FIRST CITY 配給協力:クレプスキュール フィルム
記事提供元:キネマ旬報WEB
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