売春防止法の改正議論が本格化。「買う側」への罰則で「売る側」は守られるのか?
イチオシスト

深夜の歌舞伎町で、路上に佇む若い女性に話しかけるスーツ姿の男性。この後2人はラブホテル街へと消えていった
3月25日、売春防止法の見直しに関する法務省の検討会が始まった。「買う側」への処罰規定のない同法の改正について有識者を交えた議論が行われ、今秋の臨時国会か、来年の通常国会での法改正を目指すとみられている。
「近年、社会問題となっている新宿・歌舞伎町などでの路上で、いわゆる"立ちんぼ"を行う女性たちの摘発が相次ぐなか、『買う側の罰則がないのは不公平』などと法改正や見直しを求める声が高まっていました。これを受け、高市首相が就任早々、平口法務大臣に指示したことで検討会が設置されました。女性初の首相でありながら、支持を得られていないフェミニズム層に訴求する狙いもあるという見方もあります」(大手紙社会部記者)
【買う側にも売る側にも罰則なし】しかし「買う側と売る側の不公平の是正」という法改正の前提は、脆弱さも孕(はら)んでいる。
「『買う側と売る側の不公平』が取り沙汰されていますが、そもそも売買春自体は、いずれの側にも罰則はありません」

個人売春の舞台となっている大久保公園。ここで春を売る女性の中にはホストクラブや過度な推し活による搾取の被害者も少なくない
そう話すのは、性関連の法律に詳しい加藤・轟木法律事務所の代表弁護士、加藤博太郎氏だ。
「売春防止法は人身売買や搾取の防止を目的に、管理買春を取り締まるための法律として1956年に施行されました。そのため、管理買春や場所の提供には厳しい罰則が設けられている一方で、二者間の売買春自体は禁止こそされていますが、処罰の対象とされていない。処罰の対象とされていないということは、摘発や逮捕もされないということです」(加藤氏)
では、新宿の大久保公園周辺などで春を売る立ちんぼは、一体なぜ逮捕されているのか。
「彼女たちが取り締られているのは売春行為そのものではなく、『勧誘』や『客待ち』です。これらは、公衆の面前で売春の相手を勧誘したり、売春の意思があることを不特定多数に明示して公共の場所に立ったりすることで成立します。買う側と売る側の公平を期すとすれば、こうしたに対応する買う側の行為のみを罰則の対象とする必要がある。
例えば、公衆で売春するよう声をかけたり、金額を聞いたりする行為のみを処罰対象とすることなどが考えられます。しかし、買春行為自体まで処罰対象としてしまうと、売春に対しても処罰規定を設けなければやはりアンバランスになってしまう」(加藤氏)
【買春の罰則化は女性にリスクも?】ただ、世界を見渡せば、買春行為を暴力加害と規定して取り締まる一方、売る側の罪は問わない国も存在するという。再び前出の社会部記者。
「買う側のみを処罰対象とする法制度は『北欧モデル』と呼ばれ、スウェーデンやフィンランド、フランスなどで導入されています。日本の一部女性人権団体などからも、この北欧モデルの導入を求める声が上がっており、検討会でも取り上げられるものと見られます。事実、北欧モデルの採用によって、路上売春が減ったという報告もあります。
しかし、『地下に潜っただけ』という反論や『売春従事者の危険が増した』という指摘があることも事実です。また、『個人間の合意に基づく行為に、司法が踏み込むべきではない』と言った批判もあり、国際的にも賛否が分かれています」(大手紙社会部記者)

買う側への罰則新設は、売る側を守ることにつながるのだろうか‥‥
加藤氏は、買春のみへの罰則導入について別の見方からこう危惧する。
「買春にのみ罰則が設けられるとすれば、その非対称性が美人局に悪用されることが多いように考えられます。売買春に及んだのちに、売る側が『警察に通報されたくなかったら100万円用意しろ』などと相手を脅すのです。性関連の犯罪の容疑者となることは、社会的スティグマが非常に大きく、家族や会社に知られたくない一心で、多くの人はやすやすと脅迫に屈してしまうでしょう。
このことは、買う側だけでなく売る側にとってもリスクになり得る。犯罪組織が美人局を目的に、女性を管理して売春をさせるようなケースが蔓延ることが想定できるからです」(加藤氏)
売春防止法の改正議論の必要性については、肯定的な立場だという加藤氏。しかし、「買う側への罰則の新設ありきで議論が進んでいることには違和感も覚える」とも明かす。
「売る側と買う側への罰則を平等にするなら、売る側の勧誘や客待ちに対する罰則を撤廃し、摘発でなく保護を行うというのもひとつの方法でしょう。そもそも、個人売春目的の勧誘や客待ちをしただけで逮捕されるというのは、女性を保護するために施行された売春防止法の趣旨にも反しているという見方もあります」(加藤氏)
政治的意図に左右されず、社会的弱者に寄り添った法改正になることを望みたい。
文/吉井透 写真/吉井透、photo-ac.com
記事提供元:週プレNEWS
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