イラン戦争が日本企業に及ぼす3つの「深刻な影響」 半導体や医療など広範囲から嘆きの声
イチオシスト

ホルムズ海峡の通航危機と、イランによる周辺諸国の重要施設への攻撃、そしてサイバー攻撃により、グローバルサプライチェーンは大きく揺さぶられている
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「イラン戦争の影響」について。
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「ヘリウムが入らなくて......」
ひさびさに会った半導体業界の関係者が嘆いていた。数ヵ月前は業績の絶好調に沸いていたというのに。
米国とイスラエルのイラン攻撃に端を発する戦争の影響は、原油とLNGの高騰にとどまらない。イランは報復としてカタールのヘリウム生産所を攻撃した。
半導体用ヘリウムは世界で実質2ヵ所でしか生産しておらず、そのひとつだ。しかも液体ヘリウムはマイナス260℃以下で輸送せねばならない。ホルムズ海峡を迂回(うかい)するルートだと45日以上かかり、気化してしまうため、回収は事実上不可能だ。
半導体のほか、医療(超電導マグネット)、ロケット燃料タンクの加圧、量子コンピュータなど広範囲で供給難となる。冒頭の半導体業界関係者は取引先・商社と協力し、奔走している。
ほかにも、ほとんど報じられていない企業への影響を3つ挙げておく。
①フォース・マジュール(不可抗力条項)
いま現場では、取引先からのフォース・マジュール宣言に怯(おび)えている。簡単にいえば「戦争や地震が起きたら供給できないからね」という契約上の条項だ。
日本企業間の契約ではこれは明確ではなく、あの手この手で供給途絶を防ごうとするが、海外企業との契約では「不可抗力」の事例が明示されている。「供給ムリっす」という通知レターが舞い飛ぶ。「簡単に諦めんなよ、努力して供給してよ」と訴訟に持ち込んでも、手間と時間だけがかかる。そんなことよりブツを手に入れなければならず、代替先模索地獄が広がっている。
②BCP(Business Continuity Plan=事業継続計画)の再考
イラン革命防衛隊がAWSのデータセンターを攻撃した理由を「米軍の分析に使われるClaude(クロード)などのAIがホストしている」からだと述べたのは衝撃的だった。これからは製造工場だけでなくサーバー、データセンターも地政学に飲み込まれる。全企業がクラウドBCPを検討せねば、世界のどこかで有事が起きると業務が止まる。
また、今回の事態でいよいよ原油ルートの二重化に迫られている。オマーンのサラーラ港経由ルートの検討が始まった。原油の質はちがうが、米国もシェールオイルを大量採掘して日本に売ってくれないかなあ。
③保険への態度変化
戦争開始前の2月下旬から、イランのハッカーによって米国企業等へのネットワークにバックドアが仕掛けられた事例が観察されている。開戦を予期していたか、あるいは備えていたのか。
そして開戦後、イランは物理的な反撃に加え、二国とその同盟国へのサイバー攻撃で応戦した。対象は行政・立法府だけでなく、エネルギー・金融・医療関連企業の広範囲にわたる。
しかも保険の約款により、補償を受けられないケースがあった。一般的に保険会社は国家間の武力紛争時には免責されるためだ。でも、イラン国家主体のハッカーか、民間のハッカーかなんてわかるの?
リスクは増えた。これから日本がどんな政治的選択をするか不明だが、イランからサイバー面で狙われれば、企業には地政学的な金銭負担が重くのしかかるかもしれない。両国の関係は悪くなかったのになあ。
現場の企業人は、ヘリウムさえあれば不安を高い声で笑い飛ばせたのに......と思っているにちがいない。
写真/共同通信社
記事提供元:週プレNEWS
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