関税もイラン攻撃も話題にしちゃダメ! 高市vsトランプ会談「踏んではいけない3つの地雷」
イチオシスト

今回の会談に潜む3つの"地雷"は「中国関係」「関税問題」そして「イラン戦争への対応」だ
衆院選に圧勝し、首相就任後初の訪米。"祝賀外交"になるはずの旅が、イラン開戦で一転、緊張の舞台に――。トランプ大統領との日米首脳会談に高市早苗首相はどう臨むのか。米中が対立し中東情勢が揺れ動く中、踏んではいけない"危険ポイント"とは?
【〝第1の地雷〟は「中国に関する発言」】3月19日、米ホワイトハウスで予定されている日米首脳会談に臨むため、首相就任後初めて訪米する高市早苗首相。トランプ大統領との首脳会談は、昨年10月のトランプ訪日時に続いて2度目となる。
前回は少数与党の首相という立場だったが、今年2月の衆院選では、トランプから「(高市氏は)強く賢く、真に祖国を愛する指導者だ」と、現職の米大統領から異例の応援を受けて圧勝。アメリカ側も高市首相を国賓として迎える意向だという。
衆院選の圧勝で政治基盤を固めた高市首相にとって、今回の訪米は〝サナエ外交〟の晴れ舞台。本人も「政治生命をかける意気込みで臨む」と語っているが......。
「このタイミングでの日米首脳会談は文字どおりの難問山積。簡単ではありません」と語るのは、現代アメリカ政治が専門の国際政治学者で上智大学教授の前嶋和弘氏だ。
「まず前提として理解する必要があるのは、トランプ大統領にとって今回の日米首脳会談は、その直後、3月31日から4月2日まで北京で行なわれる米中首脳会談の〝前座〟に過ぎないという点です。
トランプはこの米中首脳会談で、懸案であるレアアースの安定的な輸入や米中貿易の改善など、国内向けに自分の実績としてアピールできるようなディールの成果を習近平国家主席から引き出したいと思っている。
そう考えると、今回の訪米で高市首相がやるべきことは明確です。トランプが中国とのディールのために台湾問題で安易に妥協しないように念を押すこと。それが最大のミッションになります」
もっとも、トランプが〝表面上は〟前向きな対応をしてくれる可能性もあるという。
「トランプ側からすると、日米関係や米韓関係も中国との交渉カードの一枚です。米中首脳会談を有利に進めるには、中国にとって切実な台湾問題を巡り、日米韓の結束を示して『俺たちは一体だぞ』と圧力をかける必要がある。
そのため、トランプが台湾防衛について前向きな発言をする可能性はあります。それを引き出すことができれば、高市首相としては訪米の成果として国内にアピールする材料にはなるでしょう」
しかし、そうなっても、トランプの言葉をそのまま信じていいのかは別問題だ。
「そうやって手持ちのカードの価値を高めた上で、最終的に自国の利益を優先し、台湾を中国に差し出すというカードを切らないとは限りません。
そもそもトランプ政権の関心は、西半球の支配へと移りつつあります。そこにイランとの戦争が始まったことで軍事的リソースの限界も見え始めており、東アジアへの関心は以前よりも下がっている。

イスラエルの攻撃を受けて炎上するイランの首都テヘランのシャフラン石油貯蔵施設。最高指導者ハメネイ師の死亡も報じられ、中東情勢は急速に緊迫している
そんなトランプから台湾問題について踏み込んだ発言を無理に引き出そうとすれば、高市首相自身が昨年11月の『存立危機事態発言』のように中国を過度に刺激してしまう危険もある。
そうなると、本音では米中関係を重視するトランプに、はしごを外されかねません。これが今回の日米首脳会談で高市首相が踏んではいけない〝第1の地雷〟です。
昨年、高市首相の発言で日中関係が急激に悪化した際、トランプは助け舟を出すどころか、『同盟国も友人とは言えない。同盟国は中国以上に貿易で米国から利益を得てきた』と語ったことを忘れてはいけません」
【関税もイラン攻撃も話題にしちゃダメ!】前嶋氏が指摘する〝第2の地雷〟は「関税問題」だ。
今年2月、アメリカの連邦最高裁は、トランプ政権の相互関税を憲法違反と判断した。一方、これに納得しないトランプは、相互関税の代わりに別の法律を根拠とした10%の関税を課す大統領令に署名している。
「昨年の日米交渉で合意した巨額の対米投資は『相互関税』を前提にしたものでした。しかし、その相互関税が違憲とされた以上、本来なら投資に関する日米間の合意も見直すべきだというのが筋です。
それこそ、一部の日系企業のように、本来は米国側が負担するはずの関税を、日本企業が実質的に支払っていたケースでは、その分の還付を請求してもいい立場だと言えるでしょう。
しかし、実際にそんなことをすればトランプの逆鱗に触れるのは明らかです。正解は話題にも出さないことですが、高市首相は『日本は約束した対米投資を粛々と実行します』とアピールすることに徹するかもしれません」
さらに難しいのが、イラン攻撃への対応だ。アメリカとイスラエルによる先制攻撃には、明確な国際法違反だと各国が批判し始めた。そんな中で高市首相はどのようなスタンスで向き合うのだろうか?
「こちらも結論から言えば、可能な限り触れないようにするしかないでしょう。
国際法違反に当たるという非難は正論ですし、アメリカという大国による国際法違反を放置すれば、国際法による秩序の根底が崩れてしまうという指摘も間違っていません。
しかし、日本が正論で批判したとしても、トランプがそれを受け入れるとは考えにくい。むしろ日本に不利益な対応を取られかねず、高市首相としてはできる限りこうしたデリケートな話題を避けるしかない。
一方で、ここでもトランプの機嫌を気にしすぎて、あからさまにイラン攻撃を支持するような発言をしてしまうと、慎重にトランプ政権との距離を測りながら、国際法秩序を守ろうとしているEU諸国などとの関係が悪化しかねないというジレンマもある。これが〝第3の地雷〟です」
【トランプ大統領が自衛隊を要求したら】アメリカ在住の作家・ジャーナリストの冷泉彰彦氏も、今回の日米首脳会談を「その後に控える米中首脳会談の前哨戦」ととらえ、そこに向けた米中双方の思惑を前提に考える必要があると指摘する。
「米中首脳会談は年内だけで4回も予定されています。それだけ両首脳にとって、この会談への期待が大きいということです。
アメリカの政局でいうと、今年11月の中間選挙に向けた予備選が本格化する7月までが重要で、トランプとしてはそれまでに党内の支持を盤石なものにしたい。そのため、全4回の中でも最初となる3月末からの米中首脳会談で、大きな成果をアピールする必要があります。
一方の習近平も、不動産バブルの崩壊で国内経済は厳しい状況です。最近は側近とみられていた幹部が次々と粛清されていて、背後には激しい権力闘争のにおいがあります。
特に目立つのが『台湾問題』への傾倒です。軍事侵攻の可能性も排除しないという台湾統合への強硬姿勢をどこまで示せるかが、中国国内の権力闘争の大きなポイントになっているように感じます」

昨年10月の会談後のトランプ大統領と習近平国家主席。今年も4回の米中首脳会談を予定している
高市首相は、日米首脳会談が、そんな米中両国のダイナミックな波の中にあるということを理解した上で、トランプとの会談に臨む必要がある。
さらに冷泉氏は、もうひとつの懸念として「イラン戦争への日本の対応」を挙げる。
「中東情勢は急速に不安定化しており、事実上のホルムズ海峡封鎖が長期化すれば、日本も含めた世界経済やエネルギー安全保障に深刻な影響を与えることは間違いない。
トランプ大統領は『ペルシャ湾で米国の艦艇が護衛し、民間の船舶がホルムズ海峡を安全に航行できるようにする』と言い出しました。
しかし実際には、米海軍の艦艇だけで民間船舶の護衛や機雷掃海をすべて行なうのは困難です。そこでアメリカが『おまえの国も参加しろ』と、日本の海上自衛隊を含め各国に艦艇派遣を要請する可能性があるわけです」
そのとき、日本はどうするのか。
木原稔官房長官は3月11日の記者会見で、ホルムズ海峡が事実上封鎖されたことを巡り政府の認識を問われ、「現在の状況が存立危機事態に該当するといった判断は行なっていない」と述べた。

中東情勢の緊迫を受け、米ロサンゼルスのガソリン価格は1ガロン5ドルを突破。原油輸送の要衝であるホルムズ海峡の封鎖は、いずれ日本にも大きな影響を及ぼす
しかし、ホルムズ海峡の封鎖は安倍晋三政権時代の安保法制の議論の中で具体例として示された存立危機事態の一例でもある。
それを、集団的自衛権の行使を可能にする条件として憲法解釈まで変更した以上、仮にトランプ政権から「海自の船をよこせ」と求められれば、日本が断るのは容易ではない。だが、それは日本の自衛隊が戦下のペルシャ湾に入り、イラン軍と交戦する可能性があることを意味する。
「もちろん、今回の日米首脳会談でトランプからそういう要請が出るかはわかりません。しかし、間違っても高市首相の側から『日本も海上自衛隊を派遣します』なんてことを言うのは避けてほしいですね」
それってもはや〝地雷〟じゃなくて〝自爆〟では?
取材・文/川喜田 研 写真/時事通信社
記事提供元:週プレNEWS
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