離島インフラを襲ったJAL"マイル修行僧"問題の深層
イチオシスト

宮古島と多良間島を結ぶ便は小型機のため、乗客数は50人程度に限られている
離島路線を支えるはずの「熱心な客」が、皮肉にも島民の生活を脅かす存在に? 背景にあるのは、飛行機に乗った回数に応じて「一生モノの特権」が得られるJALの新制度だ。
このルールの隙を突き、効率を求める人々が多良間島の短距離便に殺到し、島民の通院や仕事に支障を来したのだ。制度の死角が生んだパニックの正体に迫る。
【離島に押し寄せた〝修行僧〟たちの目的は?】2026年が幕を開けて間もない1月から2月にかけて、航空業界や旅行ファンの間でひとつの「異変」が大きな議論を巻き起こした。
それは通称「マイル修行」と呼ばれる極端な飛行機の搭乗行動で、SNSやネットニュース、さらには一般の報道番組でも大きく取り上げられた。
その内容を簡単にまとめると、以下のようになる。
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沖縄の離島、宮古島と多良間島(たらまじま)を結ぶJALグループのRAC(琉球エアーコミューター)の路線で満席が続き、宮古島に仕事や通院で向かう住民が利用できなくなった。
この路線は単なる移動手段ではなく、島民にとっては食料品の買い出しや急病時の通院などを支える「生命線」。
それが連日、満席となり、本当に飛行機を必要とする住民が座席を確保できない事態が離島の日常を脅かした。
要因はJALに乗ってマイルをためる、いわゆる〝マイル修行僧〟が、多良間島に用事もないのに飛行機に乗り、宮古空港―多良間空港間をとんぼ返りするからだ。
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一般的に国内外の大手航空会社(フルサービスキャリア)には、飛行機に乗るたびに距離に応じた「マイル」がたまり、それを無料の航空券(特典航空券)と交換できる仕組みがある。
しかし、なぜこの路線に修行僧たちが集まるのか。通常のマイル獲得を目的とするなら、その効率は極めて悪い。宮古―多良間間の短い区間でたまるマイルはマイル加算100%運賃でもわずか39マイル。無料航空券への引き換えに最低限必要な4500マイルをためるには、この路線に110回以上は搭乗しなければならず、とうてい現実的ではないからだ。ではなぜか?
「今回問題になった路線の利用者の目的は、実はマイルではないんです」
そう解説するのは、JALのヘビーユーザーであるカーエレクトロニクス評論家の会田肇氏だ。
「今回の修行僧たちの目的は、マイルとは別に搭乗実績で得られる『ステイタス(優遇資格)』です。現在、JALの制度は生涯実績の『Life Status プログラム(LSP)』(図表①)と、1年ごとの実績で決まる『FLY ON プログラム(FOP)』の2本立てですが、多良間便はその両方の獲得に極めて好都合なのです」

なぜ好都合なのか。会田氏が続ける。
「まずLSPは、累計1500ポイントでJALグローバルクラブ(JGC)に加入できる永続的な優遇が得られます(図表②)。通常、国内線1搭乗は5ポイントですが、2月はキャンペーンで搭乗ポイントを倍の10ポイントに引き上げました(2月末で終了)。
羽田―那覇(2時間半)でも、宮古―多良間(25分)でも同じ10ポイント。さらに『株主割引』を使えば1回6000円弱と安価なことも、修行僧を呼び寄せる決定打となりました」

だが、たとえ効率が良くても、わざわざ離島まで足を運ぶのは手間がかかるはずだ。なぜ、あえて離島便なのか。
「鍵を握るのは、離島路線特有の『機材の運用』です。こうした路線では1機の飛行機が島々を往復するピストン輸送が一般的。到着後、今降りたばかりの機体に再び乗り込み、次の島へ向かう......ということが可能です。
つまり、空港の外へ一歩も出ず、一度降りた後再び同じ機体に乗り続けるだけで実績が爆発的に積み上がる。例えば那覇を起点に島々を巡れば1日12回もの搭乗が可能(図表③④)で、一気に120ポイントを稼げます。これは年間120回搭乗で最高峰ランクとなる『FLY ON プログラム』の回数稼ぎとしても、驚異的な効率です。
しかも同じ機体で移動するため、前の便が遅れても『乗り継ぎに失敗する』リスクがゼロ。この圧倒的な効率と安心感が、修行僧を離島へ引き寄せたのです」


ちなみに先ほど、会田氏の話に出てきた株主割引とは、JALが一定の株数を持つ株主に無償で発行する株主割引券を使うもので、正規運賃(フレックス運賃)の半額での搭乗が可能だ。
かつては金券ショップで1枚5000円程度で売られていたが、現在は割引運賃の充実やタイムセールなどでその価値が形骸化。価格は店舗によっては1枚200円程度まで暴落している。
「株主割引であれば、当日でも割引になる上、変更も自由です。これが今回の〝離島修行〟に拍車をかけたとも考えられるでしょう」
修行僧〟は不届き者なのか?
こうしたさまざまな要因が重なることで、JALの修行僧が宮古―多良間路線に集まり、冒頭で紹介したニュースのように「島民が乗りたくても乗れない」事態になってしまったというわけだ。
このニュースを取り上げたテレビなどでは、修行僧を「用もないのに自己満足のために飛行機に乗り、島民の生活を乱す不届き者」とする扱い方が目立っていた。
しかし、航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏は、修行僧を一方的に悪者にする論調には異を唱える。
「今回の騒動の本質は、JAL側のキャンペーン設計における配慮不足にあると考えられます。批判の対象となった修行僧ですが、彼らは航空会社が定めたルールに従い、正当な運賃を払って搭乗しています。その行為自体を一方的に非難することはできません。
また、『用もないのに乗る』という指摘がありますが、航空ファンの価値観は多様です。例えば新路線の初便に乗るためだけに海外へ飛び、そのまま折り返してくることを喜びとする層も存在します。彼らにとって〝修行〟とは、コストと時間をいかに効率化して目標(ステイタス)を達成するかという、一種の『知的ゲーム』に近い側面があるのです」
また、この修行僧が飛行機に乗ることで支払われる運賃が離島便の維持に少なからず貢献していることも事実だ。
「航空各社は、自治体の支援を背景に住民向けの『離島割引』を設定しています。公的な補助を受けつつ、なんとか採算を保っているのが離島路線の実情です。
そうした路線にとって、一般向けの運賃で搭乗する修行僧のような存在は、路線の維持を支える重要な顧客という側面も持ち合わせています」
多良間島の人口は約1000人。宮古島まではより運賃の安いフェリーも1日1往復していることを考えると、住民だけの利用では、1日2往復(4便)、各定員50人の飛行機の座席の半分を埋めることも実際難しいだろう。
「JAL側は、このキャンペーンによって宮古―多良間線にこれほどの利用者が集中することを予測できていなかったのでしょう。事態を重く見たJALは、期間中にもかかわらず『多良間便をポイント2倍の対象から外す』『手数料なしでキャンセルを受けつけ、おわびのマイルを付与する』といった異例の対応に追われました」
【SNS時代の「拡散前提」での制度設計】鳥海氏は、修行を取り巻く環境の変化も影響しているだろうと指摘する。
「効率的なルートを探す『修行』自体は昔からありましたが、かつては愛好家たちがブログなどでひっそりと情報を交換する程度でした。
現在はインフルエンサーやYouTuberが再生数稼ぎのために〝お宝ルート〟として即座に動画で拡散します。
情報が瞬時に共有される現代では、特定路線への集中がかつてないほど起きやすい。航空会社側には、こうしたSNS時代の拡散力を前提とした制度設計が求められています」
では、離島路線を例にとった場合、住民の利便性と修行僧がもたらす利用増を両立させるには、どうすればいいのだろうか?
「例えば島民割引を一般客の予約分とは別枠で確保し、出発の数日前までは一般の予約が満席でも島民なら予約できるなどの仕組みを取り入れるといった方法が考えられるでしょう。
また、修行僧による利用を過熱させないために、離島路線はそもそもLSP2倍キャンペーンの対象から外すという方法もあったと思います。
かなり昔の話になりますが、JALはFOPについて『マイル100%加算運賃での搭乗で、1区間当たり2000ポイントを加算する』というキャンペーンをやったことがありますが、そのときには100マイル未満の区間マイルの路線は除外されていました。
今後のLSPやFOPを加算するキャンペーンでも、こうした仕組みを採用すればいいのではないでしょうか」
修行僧の過剰な集中は今回のように島民生活に大きな影響を与えるが、適度な搭乗により路線が黒字で維持されれば、離島の住民、そして離島の自治体と、ウィンウィンの関係を築くことができる。
次回のキャンペーン実施時には、そうした方策をぜひ練ってほしいところだ。
取材・文/植村祐介 写真提供/PIXTA
記事提供元:週プレNEWS
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