スポーツ界に続々浸透。「パジャマにしては高価」なリカバリーウエアの「投資効果」は?
イチオシスト

日本人は睡眠時間が短く、それも「睡眠の効率アップ」に対する欲求の一因に? ただし多くの有名リカバリーウエアは上下セットで1万円超。「パジャマ」にしては高すぎる(写真はイメージ)
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「リカバリーウエアの『投資効果』」について。
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私の前職では社食で朝昼晩が各200円で食えた。美味(おい)しく、メニューの改善も定期的に実施されていた。創業者の思想は「従業員には安価で腹いっぱい食わせろ」。投資対効果はじゅうぶんにあるようだ。まずいとヤル気をなくす。
全社員に数十万円するハーマンミラーのアーロンチェアを導入した企業がある。腰痛をなくして生産性を上げ、離職率を下げ、訴求性を上げるためらしい。
また、缶詰の味が向上したのは、前線で戦う兵士の士気高揚を目的に研究費を投じたためといわれる。なるほど、経済主体の投資には合理的な理由があるんだね。
先日、妻からリカバリーウエアなる服をもらった。身につけると非常によく眠れる。リカバリーウエアにはさまざまな定義が存在し、着圧式のものと遠赤外線放射素材を埋め込んだものがあるが、私がもらったのは後者。人体が放出する熱エネルギーを再放射して血流改善と疲労感の軽減をもたらすのだ。
正確な統計はないものの、リカバリーウエアの市場規模は伸びている感がある。みなさんのまわりでも購入例が増えているはず。
日本メーカーのベネクスはサッカーのレアル・ソシエダや卓球のTリーグにウエア提供、テンシャルはなんと野球の侍ジャパン、WBCのスポンサーだ。企業スポーツにも進出している。
経済主体から見たリカバリーウエアへの投資理由はなんだろう。
たとえばイングランドのラグビー代表チームは選手に着せている。それは実利的な理由からで、まず遠征移動時の身体的負担の軽減。エコノミークラス症候群までいかずとも、身体のこわばりはパフォーマンスに決定的な影響を及ぼす。
次に移動中や遠征中の睡眠改善。深い睡眠は翌日の試合に好影響を与える。筋肉の回復も期待できる。疲労は試合中の判断ミスに直結する。失点はチームの敗北につながり、さらにスポンサード収益の低下につながる。
だから多少高価なリカバリーウエアだろうが、結果から換算すると安い投資というわけだ。おなじく消費者も快眠の効果を実感しているからこそ、購入の価値を感じているはずだ。
ただし冷静に付け加えておくと、遠赤外線放射素材等を織り込んだリカバリーウエアに対する批判は激しい。着るだけで筋肉層の深部にまで生理学的な変化が起きるわけないし、効果とされるものは統計学的には誤差だ、と。
米国では健康効果を謳(うた)うことはきわめて慎重に管理されており、「着用時間によっては局所的な血流促進効果があるかもしれない」というていどだ。
「高価なパジャマ」「プラシーボ効果」と似非(えせ)科学よばわりする主張もある。米国等ではインフルエンサーが対価を得ていたことを隠して宣伝し、批判が高まった。
「よく眠れる」と感じた私が調べてもそういう情報に行きつくんだから、科学的根拠は様子見段階というところだろう。因果の関係が逆なのかもしれない。リカバリーウエアを買い、室温等の環境を整えるなど睡眠への熱情を持てば、自然と睡眠の質は上がる。
ほぼすべての成功者は、成功への思い込みが重要と言っている。病も眠りも気持ち。わかったよ、科学的根拠がなくてもウエアを深掘りする時間があるなら、まず寝よう。日本人は世界でもっとも睡眠時間が短い。
記事提供元:週プレNEWS
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