"史上最強"侍ジャパンを率いるイバタの方程式! 現役時代のいぶし銀イメージとは真逆の"超重量級"野手陣、積み上げたデータを重視した"WBC向き"投手陣の選出。少しずつ見えてきた「監督力」の神髄とは?
イチオシスト

井端弘和 1975年生まれ、神奈川県出身。97年、ドラフト5位で中日に入団。落合監督時代には荒木雅博と二遊間、1、2番の「アライバ」コンビでチームの顔に。2014年に巨人へ移籍し、15年限りで現役引退。18年まで巨人の守備走塁コーチ。その後、侍ジャパンの守備走塁コーチ、強化本部編成戦略担当、U-12監督を歴任し、23年WBC後にトップチームの監督に就任
大谷vsトラウトの夢対決で幕を閉じた前回大会から3年。第6回WBCがいよいよ3月5日に開幕する。連覇を目指す侍ジャパンを率いる井端弘和監督は、どんな野球を見せるのか。選手選考、合宿、発言など多方向からその神髄に迫る!
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【細かい野球の体現者は「ふたりいればいい」】堅実、いぶし銀、名脇役。2000年代の中日ドラゴンズ黄金時代の二遊間、1、2番を長く務めた現役時代は、そんな職人的なイメージが強かった。
しかし、井端弘和監督が侍ジャパンの指揮官として、WBCを前にして見せ始めたのは、それとはまったく違う大胆な戦略家の顔だ。
中日時代を知る名古屋のテレビ局関係者が言う。
「選手としてのプレースタイルから〝スモールベースボール〟の象徴のように思われがちな井端監督ですが、あれは自身がプロとして生き残るために選んだ手段に過ぎない。実際には派手なホームランを連発するような野球に憧れていた人ですよ」
NPBでの監督歴がなく、その「監督力」は未知の部分が大きいが、今回のWBC代表に選出された捕手の坂本誠志郎(阪神)は、代表合宿でチームメイトと顔を合わせた後にこう語っていた。
「監督が選んだ選手の顔ぶれを見れば、やりたい野球が見えてくる」
大谷翔平(ドジャース)を筆頭に、鈴木誠也(カブス)、村上宗隆(ホワイトソックス)、岡本和真(ブルージェイズ)、吉田正尚(レッドソックス)、佐藤輝明(阪神)......。いわゆる〝本職〟の守備位置に偏りが生じてでも、井端監督は「複数ポジションができる」パワーヒッターたちを呼び集めた。

MLB移籍1年目の村上(左)、岡本(右)も参加となったことで、侍打線は史上最強の「超重量級」布陣に(写真は前回WBCの直前合宿)
「選手やコーチとして多くの国際大会を経験する中で、『一発勝負の短期決戦は、とにかく点を取らなきゃ始まらない』という結論に至ったのだと思います。
大谷の打者専任が決まり、投手の人数が事実上ひとり減ったため、吉見一起投手コーチは投手の追加招集を希望したようですが、それでも井端監督は予定どおり、30人目のメンバーに吉田正尚を選びました」(前出・テレビ局関係者)
未知の相手と対戦する国際大会で大量得点は期待できず、最少得点を守り切る野球が鉄則――そんな常識がかつての日本球界にはあった。ところが、井端監督は「打つこと」が勝利の絶対条件だと考え、就任後ずっと「国際大会で打てる選手」を探し続けた。その執着は捕手の選考にも及んだという。

23年、24年は井端ジャパンの主力として起用された強打の捕手・坂倉。昨季は打撃不振に陥り、今大会では残念ながら選外となった
「実は、井端監督が期待をかけていたのは坂倉将吾(広島)。誰もが認める〝打てる捕手〟で、23年秋のアジアプロ野球チャンピオンシップ、24年秋のプレミア12と代表に呼び続けました。結果的に昨季は肝心の打撃が振るわず、選外となりましたが......」
また、井端監督はこんなことも口にしている。
「もちろんスモールベースボールを否定するわけではありません。ただ、(攻撃面で)細かな野球を担うピースは、スタメンの中にせいぜいふたりいれば成立するんです」
今回のWBCでいうなら、DHも含めた打者9人のうちショートの源田壮亮(西武)か小園海斗(広島)と捕手にその役割を任せれば、残り7人は純粋に得点能力の高い選手で固めることができる。
野手陣でほかに〝スモール〟を担いそうなのは、試合後半の代走や守備固めで切り札的に使われる可能性が高い周東佑京、牧原大成(共にソフトバンク)くらいだ。
【3人目の捕手は監督の〝相談役〟】投手陣の選出にも明確な基準があった。
井端ジャパンは代表チーム招集の際、専門のアナリストを帯同し、投手たちのトラッキングデータを積み上げていたという。スポーツ紙デスクが解説する。
「昨年11月、韓国との強化試合の前に行なわれた代表合宿の〝裏テーマ〟もデータの把握でした。NPBで優れた投球をする投手たちが、WBCで使われるMLB使用球を同じように操れるかをチェックしていたのです。
昨季の成績だけを見れば、今回のメンバー以外にも選ばれておかしくなかった投手は何人もいますが、その多くはデータから『WBCでは厳しい』と判断されたと聞いています」
こうして選ばれたNPB組に、山本由伸(ドジャース)、菊池雄星(エンゼルス)、菅野智之(ロッキーズ)を加えた投手陣のボールを受ける捕手陣は、坂本、若月健矢(オリックス)、中村悠平(ヤクルト)の3人体制。先発起用は若月、坂本が軸になりそうだが、そこに割って入った中村の役割も大きい。
「井端監督は、前回大会の〝優勝キャッチャー〟である中村の豊富な経験を買っています。相手打者を観察し、ベンチやブルペンで投手たちに助言を送るのみならず、時には土壇場で監督の支えとなる〝相談役〟も託されている。実際、2月の宮崎合宿では、ブルペンで井端監督が中村と話し込むシーンが毎日のように見られました」
その宮崎合宿で注目されたのが、アドバイザーとして招聘されたダルビッシュ有(パドレス)。投手陣の最大出力を引き出すための最善手として、井端監督が実績も経験もレジェンド級の〝生きる教科書〟の力を借りた形だ。
「ピッチクロックやピッチコムについて具体的な助言や提言ができ、他国の打者の特徴などデータに表れない部分についてもアドバイスの引き出しを持っている。
井端監督はダルビッシュが選手として参加した前回大会での献身的な姿勢を見て、今回も投手陣の精神的支柱になると確信し、右肘手術後のリハビリ中にもかかわらず呼んだのです」
そのダルビッシュとは、無事に東京プールを突破した場合、決勝ラウンドが行なわれるマイアミで再び合流する約束も取りつけているという。
【全選手について語れる圧倒的なインプット量】井端監督のスタイルを解き明かす重要なキーワードが「準備」と「観察量」だ。
「井端監督はシーズン中、自宅に何台もテレビモニターを並べ、複数の試合を同時にチェックしていたそうです。技術面も含め、どの選手についても即座に具体的な言及ができるのは、圧倒的なインプット量があるから。しかも、野球に関する眼力には相当自信を持っているようです。
しかも井端監督は単にデータを重視するだけでなく、自分の目で見たという〝根拠〟が欲しい人。データと実感を照らし合わせて納得する、というプロセスを重んじるんです。
U-12、U-15代表の監督経験もあるように、アマからプロまで網羅するあの熱量ですから、もしどこかの球団でGMをやったら、強いチームをつくるでしょうね」(前出・テレビ局関係者)
ちなみに今回の投手陣の中で、井端監督がこれまで一度も招集してこなかった国内組は、前回大会でも活躍し、現在2年連続最多勝の伊藤大海(日本ハム)だけ。実際に目の前で投げる姿を見て、データも取った上で判断したいというこだわりがよくわかる。
それだけに宮崎合宿ではこんな〝事件〟もあったという。
「同時期に韓国や台湾も合宿や練習試合を行なっていたんですが、当然偵察に行くべきところ、チームスタッフのスケジュールに入っていなかった。それには珍しく井端監督が怒ったという話です。結果、吉見投手コーチと金子誠ヘッドコーチが手分けして見に行くことになり、なんとか事なきを得ました。
一方で、合宿ではダルビッシュから首脳陣に『各投手が準備や対策を進めるために、東京プールでの登板予定を早めに伝えてはどうか』という提案がありました。
井端監督は情報戦の観点から当初迷ったらしいのですが、『隠すより味方の準備を万全にするほうが勝つためには合理的だ』と、ダルビッシュの提案を受け入れています」(前出・スポーツ紙デスク)
野手陣も本番に向けて準備を進めている。その一環が、投手と捕手のサイン伝達に使うピッチコムのレシーバーを、昨秋の代表合宿時から二遊間の選手にも装着させて練習してきたことだ。
源田はこう話していた。
「(ピッチコムありの試合では守備位置から)捕手のサインを確認する時間が省け、その分相手打者や相手ベンチに目を向ける時間ができる。合理的ですね」
ここでは二遊間出身の井端監督の細かな一面が生かされるかもしれない。
【〝チルドレン〟の代表格は牧と森下】前任の栗山英樹監督と大谷のような、特定の選手との深い関係性は井端監督にはないが、特に気にかけてきた〝チルドレン〟とも言える選手の代表格が、牧 秀悟(DeNA)と森下翔太(阪神)だ。
「牧については勝負強さはもちろん、チームを鼓舞する明るい性格にほれ込んでいます。森下は『初見の投手が相手でもフルスイングできる』と高く評価し、就任以来、一貫して起用し続けてきた。『僕は〝森下教〟の信者』と笑って公言しています」(前出・スポーツ紙デスク)
そして、井端監督が選手選考に関してもうひとつ重視したというのが「熱意」だ。例えば牧、菅野、源田らに招集の連絡を入れた際、電話越しに「WBCでプレーしたい」という気持ちが伝わってきたことを強調している。
「熱意が大事」と言われても当たり前のように感じるが、前出のテレビ局関係者はこう説明する。
「過去のWBCでも、3月に向けてベストコンディションに持ってきたことや、大会中に思うような練習ができないことなどから、その後の調整に苦しみ、シーズンを不振で終えた選手は枚挙にいとまがない。そんなリスクを背負ってでも喜んで参加してくれる選手の重要性を、井端監督はよくわかっているんです」
そうした選手が増えているのは、この20年でWBC、侍ジャパンの存在が文化として成熟した証しでもある。
「06年の第1回WBC当時は、3月に行なわれることを懸念する空気が強かった。しかし、今の代表の主力はMLB組も含め、子供の頃に見たWBCに憧れて育った世代です。リスクを承知でチーム一丸となれるという点で、かつて特定球団が代表への選手派遣を断ったような時代とは、背景が全然違うんです」
それでも短期決戦の国際大会は、いかに熱量があり、 準備を尽くしても、何が起きるかわからない。特に準々決勝以降、ドミニカ共和国やベネズエラといった強豪との一発勝負では、継投や選手交代など采配の力が問われる。
「井端監督はとにかく先を見据える野球人です。『目の前の一球に集中』と口では言いながらも、すでにアメリカとの決勝戦まで見据えたシミュレーションは何度も何度も繰り返しているでしょう。将棋でいえば盤面を俯瞰し、何手も先まで考え尽くしているはずですよ」
宮崎合宿で直接質問する機会があった。
「将棋は指されるのですか?」
井端監督は少し間を置いて答えた。
「ええ。30代半ばくらいまでですけど」
「腕前は?」
「いや、たしなむ程度ですよ」
井端監督はそう言ってにやりと笑った。謙遜の裏に自信が透けて見えた。
前出のスポーツ紙デスクが言う。
「これだけの陣容をそろえれば、世間は優勝して当然という空気になる。たとえ相手がドミニカやベネズエラでも、ベスト8で敗退なら〝史上最低の成績〟です。中日の次期監督候補という声も消し飛んでしまうかもしれない。
選手もリスクを背負っていますが、井端監督自身もまた、すさまじい重圧の中で退路を断ってこの戦いに挑んでいることは間違いありません」
プールC初戦の台湾戦は、3月6日(金)夜7時プレーボールだ。
取材・文/木村公一 写真/共同通信社 時事通信社
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