元男闘呼組・成田昭次インタビュー【後編】「最終的には自分に恥じてない自分でいたい」
イチオシスト

『人生はとんとん―成田昭次自叙伝』が大きな話題を呼んでいる元男闘呼組・成田昭次。「迷ったり、立ち止まりそうになったときは、この本を読み返そうと思います」
発売後、大きな反響を呼んでいる元男闘呼組・成田昭次の著書『人生はとんとん―成田昭次自叙伝―』。
インタビューの後編では、男闘呼組再始動のため上京後に音楽活動と並行して働いていたとんかつ屋での修業、また本書に関するさまざまな反響についての思い、今後の活動への意気込みについて語る。
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【衣をつける工程がいちばん苦労した】――自叙伝を読んで、昭次さんがとんかつ屋で働いていたことを知り、驚いた人も多いのではないかと思います。
「不器用でりんごの皮さえ剥(む)けないところからのスタートなんで、我ながらなかなか頑張ったんじゃないかなと。
僕にとんかつを教えてくださった料理長に『とんかつは料理をずっとやってきた料理人にとっても難しい。生半可でできるものじゃないですよ』って最初に言われましたからね。
油の温度加減、肉の掃除から切り分け方、衣のつけ方......。特に衣をつける工程って、もう本当に職人技なんですよ。いちばん苦労しましたね。
ただ料理をやるからには疎かにはできない。お店で出す物ですし、お客様の口に入るものを提供するので当然なんですけどね。だから、とんかつが音楽をやるためのつなぎという位置付けではおかしい。もちろん音楽だって疎(おろそ)かにはできないので。
絶対にどちらも妥協しないと心に誓いながらも、閉店後にひとりで翌日の仕込みを終えるともう深夜で。『名古屋でサラリーマンを続けるべきだったんじゃ?』って思ってしまう夜もあって。
ふと目の前にあるお店のお酒をこっそり飲んで、ほろ酔いで(前田)耕陽に電話をかけては、『なんのために東京に出てきたんだろう』みたいにクダを巻いたりもして。耕陽、真夜中にもかかわらず、僕の長話にいつも付き合ってくれて」
――料理以外も、大工、材木屋、工場、さまざまな職業を経験されています。
「そうですね。ただ、すべてはつながっているなと感じたというか。材木屋の経験があるから、今ではギターの素材として使われるスプルース、マホガニー、ローズウッドとか、材質としてどういう特徴があるかがわかったりする。
材木屋を経験したからこそ、以前とは違ったギターの見え方、楽しみ方ができて面白い。
それは僕がエンタメ業界にいるからということじゃなくて、とんかつ屋での料理経験があるから、スーパーに並ぶ食材を見て、これとこれであれを作ったら美味しそうだなってメニューが浮かんだり、冷蔵庫に残った食材を見て、あれが作れるなって思いついたり。
とんかつ屋で働かなければ、そういう発想は生まれなかった。すべての経験はつながってるし、だからこそ今いる場所、今やるべきことに一生懸命向き合ったほうがいいんだって学びましたね。すべての経験がムダではなく、そのひとつひとつが生活に彩りを与えてくれています」
【人生、やったことよりも、やらなかったことに後悔する】――エゴサーチしたんですが、自叙伝の感想として、昭次さんが、いくつもの職業を経験し、それでももう一度音楽の世界に戻ってきたことを、多くのファンが喜んでいましたね。
「名古屋に戻ってから、もう二度とギターを弾いて音楽をすることはないって一度は誓ったんですけどね。戒めの意識が強かったかもしれないです。もう一度、真っ当な道を歩かなければいけないという意識が何よりも強かった。
ただ紆余曲折を経て、57歳になった今もギターが好きで弾いてる。やっぱり一度好きになったものってね、なかなか嫌いになれないんだなって。
どんなに避けていても、それでもなぜか惹かれ合うものっていうのは、人もそうだし、物もそうかもしれないですけど、やっぱあるんだなっていうのはすごく感じますよね。好きなものからは離れられない」
――素敵なことですね。
「あと、この歳になって思うのは、人生の転換期みたいなものは思いがけないタイミング、急に来ることもあるんだなってことで。もちろん、僕の場合は自分が招いてしまったことで人生が大きく変化してしまった。
でも自分で招かなくても転換期が訪れてしまう人もいるだろうし、そういうケースの方が僕なんかよりもっと大変だと思うんですよね。
僕がアドバイスのようなことを言うのはおこがましいですけど、それでも逃げたら何も解決しないんですよね。もちろん逃げなければ必ず事態が好転するということではないでしょう。でも、逃げたらもうずっと逃げたままなんですよ、人生。どこかでケジメをつけなくてはいけないときが必ず来る。
僕にとっては、それが男闘呼組の再始動ということで。あのまま名古屋で、働き続けるという人生もあったと思います。もちろん人生、何が正解で不正解かなんてわからなくて。どんな選択をしても自分の人生だから。
それに幸せだって思うのは心、幸せはその人の心が決めるから。振り返れば、男闘呼組の再始動は無謀にも思える挑戦だったと思います。それでも、もしも挑戦が失敗に終わったとしても、『自分はこれだけやったんだよ』っていう想いは刻める。
だから男闘呼組に関してケジメをつけられた今だから語れる結果論としてではなく、できる限りのことはやるべきだなと思うんです。人生、やったことよりも、やらなかったことに後悔すると思うんで」
【迷ったり、立ち止まりそうになったときは、この本を読み返す】――自叙伝で描かれた、その後の人生がこれから続いていきますね。
「挑戦し続けようと思います。本当にチャレンジすることって、きりがないですよね。ギターもそうだし、歌もそうだし、ライブもそうだし。終わりはない。エンタメ業界に限らず、ひとつの職を極めようとしたら、もう数えきれないぐらいのハードルがあるわけで。
上には上がいる。ランキングや数字だけが全てじゃないと思うんです。どの世界にいても、やはり自分らしさやオリジナリティ、自分にしかないものって何だろうって追求し続けなければいけないので」
――自分らしさの追求、先は長いですね。
「そうですね。昨年は、おかげさまで紅白歌合戦に出演させていただき、いろんなアーティストの方を間近で見ることができました。やっぱりみなさん持ってますね、自分にしかない確固たるオリジナリティを。いろんなその若い世代のアーティストから刺激をもらいました。
顔の広い健一が、ちゃんみなさんのダンサーさんと知り合いで、偶然楽屋が近かったこともありお会いすることができて。本番前におじさんたちにいきなり襲撃されたにもかかわらず、すごく快く写真を撮ってくださって。
一方で先輩方、堺正章さんや布施明さん、すごく人間性が優れている。僕なんかが語るのは失礼ですけど、もう人格者ばかりで。紅白で、若い世代からはすごい刺激を、先輩方たちからはすごい感銘を受けました。
昨年はレコ大にも出させていただいて、いろんな刺激を本当にいっぱいももらったので、今年はその経験をどう活かし、届けられるかの挑戦です。
あと、刺激っていきなりやってくるもので。心を閉じていると、同じものを見ても、聴いても、刺激として感じられないこともある。そうならないよう、いつも心を開いておかないとって思います。まだまだ学ぶことばかりなんで」
――今後の昭次さんが楽しみです。
「最終的にはやっぱ自分に恥じてない自分でいたいんです。自分で作ったルールや自分で作った掟というものをどんなときでも崩したくないというか。自分で決めたはずのルールを、調子が良くなかったから今日はやらないとか、そういう自分を見るのは嫌ですよね。美学に反するというか。
だから、迷ったり、立ち止まりそうになったときは、この本を読み返そうと思います。そして初心に立ち返り挑戦を続け、自叙伝のその先の物語を紡いでいこうと思います」
●成田昭次(なりた・しょうじ)
1968年8月1日生まれ、愛知県出身。1988年、ロックバンド「男闘呼組」 のボーカル&リードギターとしてデビューし、数々の音楽賞を受賞。役者としても活躍していたが、「男闘呼組」活動休止後は音楽活動に専念。その後、芸能界を引退するも2020年に音楽活動を再開。2022年に期間限定で復活を果たした「男闘呼組」で再度注目を集め、寺岡呼人プロデュースのバンド「Rockon Social Club」「NARITA THOMAS SIMPSON」でボーカル&ギターを務める。2026年1月、初の自叙伝『人生はとんとん―成田昭次自叙伝―』を発売。同年3月11日からツアー「NARITA THOMAS SIMPSON 人生はとんとん Billboard Live」、9月3日よりRockon Social Clubのツアーを開催。
インタビュー・文/水野光博 写真/井村邦章
記事提供元:週プレNEWS
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