移民捜査官が市民を射殺...対峙する米住民の本音「日本人も毎日、恐怖。警察官にも突き放されたと聞いた」
イチオシスト

1月24日、ミネアポリスでICE捜査官が市民を射殺。その後、市民と衝突中に催涙ガス弾を投げた
今年1月、不法移民を取り締まるべくトランプ政権がミネソタ州に数千人のICE(移民・関税執行局)捜査官を投入したことで、街の空気は一変。ふたりの市民が射殺されるという最悪の事態に発展している中、現地に住む人は何を感じているのか。緊張と恐怖、連帯の最前線を追った。
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【街中から消えたソマリア人の影】アメリカ中西部、カナダと国境を接するミネソタ州で緊張が高まっている。トランプ政権による強硬な移民取り締まりの下、数千人規模のICE(移民・関税執行局)捜査官が州内に投入され、市民の反発が拡大。数週間にわたる抗議活動の中で市民ふたりがICE捜査官に射殺される事態に発展し、州の状況は一段と深刻さを増した。
州最大の都市ミネアポリス在住の田中さん(仮名、50代女性)は現地の空気をこう語る。
「発砲事件が起きた現場のどちらからも、車で10分ほどの距離に住んでいます。あの一帯は移民コミュニティが多い地域で、ICE捜査官はそこを狙ったのだと思います」
田中さんによれば、1月中旬にICEが来てから、街の風景は一変した。
「街中でソマリア人やメキシコ人を見かけることがほとんどなくなりました。ミネアポリスには北米最大のショッピングモール『モール・オブ・アメリカ』がありますが、普段は多くのソマリア人が働いているのに、今は数えるほどしかいません」

街中ではプラカードを掲げる抗議が絶えない。通りかかる車はクラクションを鳴らして連帯を示す
トランプ政権がまずミネソタ州を標的にしたのには理由がある。
「ミネアポリスは移民に寛容な『聖域都市』のひとつとして知られてきました。都市部を中心に民主党支持が厚く、福祉制度も充実しています。例えば、コロナ禍では子供の食料支援なども行なわれました。
ただ、こうした支援を不正に受給した移民がいたとの指摘もあり、膨らんだ財政負担を理由に、トランプ政権が不満を募らせていたとされています」
そして、その矛先がソマリア人コミュニティにも向いた。
「ミネソタ州は、世界でも有数のソマリア人居住地域なんです。内戦や食料危機を背景に、難民として受け入れられてきました。
トランプ政権とICEは不法移民の取り締まりを名目にしていますが、ソマリア人の多くは、すでに難民認定を受け、市民権を取得しているはずなのです」
そう語る田中さんがミネアポリスを訪れたのは1992年。当時はアジア人も珍しく、人種差別も受けたと語る。
「それが、今ではモールでヒジャブやアバヤといったイスラム教徒の衣装も普通に売られています。それだけ移民が街に根づいてきた証拠です。ベトナム戦争後には、ベトナム人やラオス人、モン族も増えました。そうした歴史があるからこそ、標的になったのではないかと感じています。
ちなみに、ICEの活動が始まった直後、日本大使館からミネソタ在住の日本人にも注意喚起が届きました。外出時はパスポートや(永住権を示す)グリーンカードを必ず携帯するように、という内容でした」
【日本人も恐怖の中に。「買い物も緊張」】ミネアポリスに隣接する州都セントポール在住の中村さん(仮名)は、ICEが来てからの変化をこう語る。
「私の家の隣にはヒスパニックの家族が住んでいるのですが、夜は毎晩、早い時間から静かになります。表通りに面した部屋は電気を消したまま真っ暗で、裏庭に面した部屋にだけ薄暗い明かりがともる。そんな日が続いていました」
特にソマリア人やヒスパニック系の住民が多い地域では、外出を控える動きが顕著だという。

顔を隠し、銃を構えたICE捜査官は移民の多い地域を回る
「今はアジア系のモン族も標的にされているんです。ICEがアジア人の顔を正確に見分けられるとは思えず、身分証明書やグリーンカードを確認される前に連行されるケースもあると聞いています。そうした状況の中で、私たち日本人も毎日、恐怖の中で生活しています。
以前はよく利用していたアジア系のスーパーは避け、車で30~40分かけて白人の多い地域のスーパーまで買い物に行っています。その上で、駐車場にICEの車両がないかを確認してから、急いで店に入ります。
ICEの車両も当初は州外ナンバーが多く、見分けがつきましたが、最近はミネソタ州のナンバーが増えてしまい......。『実はご近所の人もICEなのでは?』と、疑心暗鬼になってしまいます」
その疑心暗鬼は、警察や教会にまで及んでいるという。
「ICEが車の窓ガラスを割って中にいた人を引きずり出して拘束したことがあって。その一部始終を見ていた近隣の住民が警察に通報したところ、『それが何? ICEは自分たちの仕事をしているだけだ』と警察官に突き放されたと聞きました。
また普通なら、このようなときは教会の牧師さんが一番安心できそうですが、実はセントポールのとある教会では、そこの牧師が地域のICEの現場責任者も務めていることが判明し、住民の間に衝撃が広がりました」

外出することが危険な人の代わりに、別の人が日用品を買う活動も行なわれている
そうした恐怖の中、新たな連帯も生まれている。
「親や飼い主が連行され、取り残された子供やペットの世話を引き受ける人がいたり、ICEが出入りするエリアは客足が遠のくため、売り上げを支えようと、あえてその店に通う人もいたりします。
また、買い物に出たくない、あるいは出られない人の代わりに、買い物に行くと申し出てくれる人もたくさん出てきました。日本人も含め、ICEの目撃情報を共有するなど、コミュニティはかつてないほど団結しています」
トランプ政権による強硬な移民取り締まりは、ミネソタ州に恐怖と分断をもたらしたが、その圧力にあらがうかのように連帯も芽生えている。
写真(ICE捜査官)/時事通信社
記事提供元:週プレNEWS
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