ブリヂストン ALENZA LX200 & FINESSA 試乗:「静寂」という名の暴力。SUVとEVが真に完成する日
イチオシスト
大磯ロングビーチ。夏には水着の男女で溢れるこの場所が、今はゴムの焼ける匂いと静寂に包まれている。ブリヂストンの最新兵器「ALENZA LX200」と新ブランド「FINESSA」。これは単なる試乗ではない、足元からの革命だ。
1月の海風が容赦なく吹き付ける大磯ロングビーチ。真夏なら、浮き輪を持った若者たちが戯れる平和なプールサイドだが、今日は違う。アスファルトには無機質なパイロンが並べられ、ピットには最新のSUVたちが、まるで獲物を待つ肉食獣のように鎮座している。
我々がここに呼ばれた理由は一つ。世界屈指のタイヤメーカー、ブリヂストンが、2つの重要な「黒くて丸いもの」を発表したからだ。
一つは、今や道路の支配者となったプレミアムSUVのための「ALENZA(アレンザ)LX200」。もう一つは、長年親しまれてきたスタンダードタイヤの概念を覆す新ブランド「FINESSA(フィネッサ)HB01」だ。
正直に言おう。タイヤの試乗会というのは、スーパーカーのそれと比べて地味だ。V12エンジンの咆哮もなければ、300km/hの最高速チャレンジもない。だが、諸君、忘れないでほしい。あなたの愛車がどれほど高性能なエンジンを積んでいようと、地面と接しているのはハガキ数枚分のゴムだけなのだ。そのゴムが駄目なら、全ては台無しになる。
プレゼンテーションルームに入ると、ブリヂストンの担当者たちが、まるでNASAのエンジニアのような真剣な眼差しで我々を迎えた。
まず紹介されたのは、プレミアムSUV向けタイヤ「ALENZA LX200」だ。
SUV市場は爆発的に拡大している。かつては泥臭い四駆だったものが、今や都会の象徴となり、重量は増し、重心は高くなった。物理法則に逆らうこの巨大な鉄の塊を、いかに優雅に走らせるか。それが課題だ。
担当者はスクリーンを指して言った。
「ALENZA LX200は、我々の基盤技術『ENLITEN(エンライトン)』を採用し、究極のカスタマイズを実現しました。従来品に比べ、摩耗ライフを維持しながら、静粛性と乗り心地を劇的に向上させています」
数字を見て驚いた。先代のLX100と比較して、突起を乗り越えた時の衝撃を22%低減、荒れた路面でのノイズエネルギーを16%低減したという。22%だって? もし自分の給料が22%上がったら、今頃ここにはいないで、モナコでヨットに乗っているだろう…いや、それは無理か。だが、最速スペックのPCくらいは買えるはず。とにかく、タイヤの世界でこの数値は、革命に近い。
さらに「ラックスブラック」と呼ばれる微細加工技術により、サイドウォールの黒色が深く沈み込んでいる。足元がお洒落なら、安いスーツでも高く見えるのと同じ理屈だ。
さあ、御託はこれくらいにして、走らせてみよう。
まずは、公道試乗へ。選んだ相棒は、トヨタの電気自動車「bZ4X」だ。
ご存知の通り、EVはエンジン音がない。つまり、タイヤにとっては地獄だ。ロードノイズやパターンノイズが、隠すことなくドライバーの耳に届いてしまうからだ。
西湘バイパスへと合流する。速度を上げる。
「……」
静かだ。不気味なほどに。
本来なら聞こえるはずの「シャー」という高周波ノイズが、まるでノイズキャンセリングヘッドホンをしたかのように消されている。「シークレットグルーブ」や「3Dノイズ抑制グルーブ」といった、忍者の道具のような名前の技術が効いているのだろう。
EVの重量と静寂性。この2つの高いハードルを、ALENZA LX200は涼しい顔で飛び越えてしまった。bZ4Xの無機質なまでの静けさが、タイヤの性能によって「上質な静寂」へと昇華されている。
そしてもう一つの主役、「FINESSA(フィネッサ)」だ。
「Fine(快適)」と「Safety(安全)」を組み合わせた造語だという。これまでの「ECOPIA」のような「低燃費一辺倒」から脱却し、雨の日の安全性や快適性を重視した新ブランドだ。
試乗車はトヨタ プリウス。比較対象は、ブリヂストンのベーシックタイヤ「NEWNO(ニューノ)」だ。
走り出してすぐに、違いは明白だった。
NEWNOも悪くないタイヤだが、FINESSAに乗り換えた瞬間、路面のザラつきが一段階細かくなったように感じる。ロードノイズの音質がマイルドになり、耳障りな周波数帯がカットされている。
「スリットサイレンサー」によりパターンノイズを13%低減したというデータは伊達ではない。車内での会話が、声を張り上げることなく成立する。これは、家族とのドライブを何より大切にするパパたちにとって、燃費がリッターあたり0.5km伸びるよりも遥かに重要な性能だ。
さらに特筆すべきは、ウェットブレーキ性能だ。新品時で15%、摩耗時でも12%短縮されているという。これは、横断歩道に飛び出した子供の前で止まれるか、それとも……という決定的な差だ。命を預ける部品において、これ以上の価値があるだろうか?
そして、クローズドコース(大磯ロングビーチ駐車場)で、レクサス NX 350hに乗り込む。比較対象は従来品のLX100だ。
コースには、意地悪なことに人工的な突起や、パイロンで作られたスラロームが設置されている。
従来品でスラロームに進入する。ステアリングを切る。一瞬の間があってから、巨大なボディがグラっと傾く。まあ、こんなものだろう。SUVとはそういうものだ。
次に、新型を履いたLX200に乗り換える。同じ速度、同じスラローム。
ステアリングを切り込む。……おや?
ノーズがスッとインに入る。まるで車重が200kgほど軽くなったかのような錯覚。切り返しでも、ボディの揺れが驚くほど少ない。担当者が強調していた「ふらつきにくさ」と「収まりの良さ」とはこれか。
タイヤの剛性が上がっているにも関わらず、突起を乗り越えた時の衝撃は「ドンッ」から「トン」へと角が取れている。硬いのにしなやか。これは矛盾ではなく、エンジニアリングの勝利だ。続いて同じコースをトヨタ ハリアーで試したが、ハリアーの方がその差を強く感じた。
試乗を終え、大磯プリンスホテルに戻る頃には、私の脳内にある「タイヤ観」は完全に書き換えられていた。
ブリヂストンは、SUV市場の拡大には「ALENZA」の深化で、そして多様化する価値観には「FINESSA」という新提案で回答した。
ALENZA LX200は、SUVを「戦車」から「魔法の絨毯」に変える。特にEVとの組み合わせは、自動車の未来の形を予感させるものだった。
FINESSA HB01は、「スタンダード」という言葉の意味を、「ただの普及品」から「高水準な標準」へと書き換えた。
40代、50代の諸兄。もしあなたが、愛車のサスペンションを交換しようか、あるいはもっと静かな高級車に買い替えようかと悩んでいるなら、その前に一度、足元を見直してみるべきだ。
タイヤは単なる黒いゴムの輪ではない。それは、何万時間もの開発とテストを経て生み出した、エンジニアたちの狂気と情熱の結晶なのだから。
大磯の冷たい風に吹かれながら、私は思った。
「良い靴を履けば、素敵な場所に連れて行ってくれる」という古いことわざがあるが、それは車にも当てはまる。ブリヂストンの新しい靴は、間違いなく、我々をより遠く、より快適な場所へと連れて行ってくれるだろう。それが、たとえ近所のスーパーマーケットへの道であったとしても。
写真:上野和秀
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