【#佐藤優のシン世界地図探索146】トランプ大統領の「ベネズエラオーナーチェンジ作戦」
イチオシスト

トランプの最初の計画では、ベネズエラ新大統領に野党指導者マリア・マチャド氏を据える予定だった。しかし、ロドリゲス暫定大統領が就任。ここにはトランプの新しい黄金の方程式が隠れていた(写真:EPA=時事)
ロシア・ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
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――トランプのベネズエラ奇襲、ニコラス・マドゥロ大統領捕縛作戦はどうみていますか?
佐藤 あれは、居抜き物件のオーナーチェンジ作戦です。オーナーを変えて、副店長を店長に昇格させて「OK、問題なし」ということです。
――ベネズエラの大統領になった元副大統領デルシー・ロドリゲスの裏切りですか? 最近、佐藤さんが凝っている韓非子の言葉に、「損得で行動するとき、それで誰が最も得をするかを見れば真実が見えてくる」というような言葉がありますが......。
佐藤 裏切りではなく、現実的な対応ですね。
――現実的とは?
佐藤 ロドリゲス大統領代行は、トランプさんと一蓮托生なんですよ。
あの襲撃において、大統領警護隊は抵抗しましたが、秘密警察も軍も全然動きませんでした。それでいて、翌日から治安が維持され、戦車が走っていました。「みんなでアメリカに協力しよう」という雰囲気でした。
――キューバ情報機関が派遣していた選りすぐりのボディーガードだけが、人身御供となったと。
佐藤 そうです。そしてロドリゲスさんは「堪え難きを堪え、忍び難きを忍び......」といった立場になっています。ただ、石油利権に関してアメリカが介入してきますが、おこぼれはもらえます。ベネズエラ国民もいまよりも豊かになるわけですね。
本来であれば、人権弾圧などさまざまな罪状で、ロドリゲスさんやその仲間は死刑か終身刑を免れない立場です。ところが、そうした現実はナシにして、「居抜きでオーナーチェンジできればOK、問題なし」という結果となりました。ロドリゲス政権が反対勢力など全部潰しても、アメリカは文句を言いません。
このオーナーチェンジ作戦で注目なのは、トランプが一言も民主主義や自由、人権と言及していないことです。そこがトランプの強さです。
――1月15日にベネズエラの野党指導者マリア・アチャドがホワイトハウスを訪問し、トランプにノーベル平和賞のメダルを渡しました。昨年アチャドが平和賞を受賞した際に、「自由なしには民主主義は実現しない」と言っていましたが、なんだか空しい風が吹き始めたホワイトハウスでした。トランプはベネズエラでは自由と民主主義に関して一切、語っていませんからね。
佐藤 そうそう。そして、ベネズエラに要求したのは、これまで売っていた麻薬をメニューから外すことです。
――麻薬でなく原油を売れば、それは非合法ではなく合法的。そして、ベネズエラ産のドロドロの原油を精製するプラントは、米国テキサス湾沿いに多数ありますからね。
佐藤 アメリカの製油所は粘度の高い重質原油に合致しているので、ベネズエラから原油を持ってくれば非常に調子がいいわけですね。しかも、そのおこぼれは、ひどい困窮生活を強いられているベネズエラ国民にも流れます。その極貧生活が改善するわけですから、皆にとっていい話なんですよ。
ただ、そこで犠牲になるのが自由、人権、民主主義などの理念です。それらを犠牲にすれば、皆が幸せになる。これがトランプの黄金の方程式です。
――リベラルな評論家や真面目なコメンテーターの方々が聞けば、何時間でも「許せない」と言い続けるでしょうね。
佐藤 トランプはいま、"ドンロー主義"を掲げていますが、ドンロー主義はセオドア・ルーズベルトの「棍棒外交」のやり直しです。帝国主義的なロマンがあるんですよ。
要するに、消極的に出るとモンロー主義ですが、積極的に出れば「カリブ海でこの棍棒が見えるか?」と凄むことで、周りに言う事を聞かせることができるということです。
――今回は、その棍棒をベネズエラに振り下ろしてビッグな油田を手に入れ、米国に来る麻薬を根絶できるかもしれないと。
佐藤 そうです。ドンロー主義に似た例が過去にあるわけですね。
しかも、ルーズベルトは日露戦争を仲介しました。さらに、当時のアメリカの鉄道王エドワード・ヘンリー・ハリマンを差し向けて、満州鉄道の共同経営を持ち掛けました。ルーズベルトはそうした形で狡猾にやりながらも、ノーベル平和賞を受賞しています。だから、トランプもノーベル平和賞をもらえるでしょう。
――なるほど。トランプの新黄金の方程式は、ノーベル平和賞に通じる道だと。ただ、となると、トランプはすでにノーベル平和賞を10個くらいもらってもいいと思いますね。しかし現実的には、最後はゼレンスキーを追い出して、ウクライナ和平でノーベル平和賞受賞と。
佐藤 そうなる可能性があります。
――前回、米露中の三国協商で地球を棲み分けるとのお話をされました。そして、トランプがグリーンランドの件で騒いでいると、1月13日にはロシアのメドベージェフ安全保障会議副議長が、「トランプ米大統領が領有に向けて迅速に動かなければ、ロシアへの併合を選択する可能性がある」と発表したそうです。
これ、まさに三国協商の表れですよね? 米露は裏で話ができていて、NATO潰しに入っているんじゃないかと想像しました。
佐藤 はい。NATO解体作戦が始まったんでしょうね。ロシアは「グリーンランドについては応援する。その代わりNATOを弱体化させろ」というメッセージを送ったんだと思います。そして、ウクライナの豊富な資源と穀物がある場所はロシア領にすると。
――交換ですね。
佐藤 そう、交換です。だから、トランプ時代は2026年に入り、いよいよ本番が始まったところです。
――去年あれだけ色々とやっていたトランプなのに。あれは予告編だったのですか?
佐藤 そう、ここからが本番です。
――そこに「戦艦トランプ」です。全長268m、3~4万トン、核弾頭搭載巡航ミサイルから、32MJ級レールガン、極超音速兵器搭載の万能戦艦。これを黄金艦隊として25隻作るらしいです。
佐藤 高市(早苗)首相はそこまで予期していたのかもしれません。
――ただ専門家に聞くと、「戦艦トランプ」はできそうにもないとのお答えが多いのですが......。
佐藤 "脳内戦艦トランプ"でしょうね。
――ならば、「脳内戦艦サナエ」と並んで最強の戦艦艦隊となります。
佐藤 こういうアイディアは、我が国の総理の方が先行していましたが、この辺はトランプと高市首相は似ていますね。
――最強の似た者同士です。
佐藤 トランプは80歳の誕生日にUFCのプロレスをやるそうですね。
――ホワイトハウスをぶち壊して作ったトランプホールでやります。後楽園ホールをワシントンのホワイトハウス内に作ったんですから、偉大です。
佐藤 それでG7サミットの日程をずらすわけでしょ。すでに世界皇帝になっているようなものですよ。
――今年一のヤバい出来事になりそうです。
佐藤 そうですね。
次回へ続く。次回の配信は2026年2月13日(金)予定です。
取材・文/小峯隆生
記事提供元:週プレNEWS
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