23人の医師が退職…“学閥”というしがらみを乗り越えた市民病院のいま:ガイアの夜明け
更新日:
イチオシスト:イチオシ編集部 旬ニュース担当
注目の旬ニュースを編集部員が発信!「イチオシ」は株式会社オールアバウトが株式会社NTTドコモと共同で開設したレコメンドサイト。毎日トレンド情報をお届けしています。
9月6日(金)に放送された「ガイアの夜明け」(毎週金曜夜10時)のテーマは、「続・病院を再生せよ!~市民病院の存続へ」。滋賀県にある市立大津市民病院が再生に向けて動き出す様子を取材してから1年…病院では、院長肝いりの改革が進められ、市民のための医療を取り戻すために奮闘する人々の姿があった。病院内部の取材から見えてきた地域医療の課題とは? 復活にかける市立大津市民病院のその後を追った。
【動画】23人の医師が退職…“学閥”というしがらみを乗り越えた市民病院のいま
滋賀・大津市。2年前、地域の基幹病院である市立大津市民病院で、23人に及ぶ医師が大量退職する問題が発生した。市民病院などは、各大学から派遣された医師によって成り立っている。これを医局制度と言うが、大津市民病院の場合、主に京都大学と京都府立医科大学から医師が派遣されていた。問題の端緒となったのは、京都大学系の外科医たちが、京都府立医科大学出身の理事長から「一方的に人員の削減や交代を迫られた」と告発したことだった。これによって市民病院は地域からの信頼を失い、患者は激減した。
こうした中、再生を託され、院長に就任したのが日野明彦さん(当時67歳 京都府立医科大学卒)。しかしその道のりは、まさに試練の連続だった。
大津市民病院は、125年前に開院。内科や外科など30の診療科に約400のベッドを有し、市民の10人に1人が通院する大津市民のための病院だ。
市民からの信頼が地に落ちる中、日野さんは「当時すごくしんどかったが、いくつかいい出来事があった。その一つは放射線科が残ってくれたこと。それがなかったら、存続できていないかも」と話す。
日野さんが全幅の信頼を寄せる放射線科・診療部長の市場文功さん(奈良県立医科大学卒)は、画像診断の能力を競うコンテストで、去年全国1位に輝いたスーパードクター。実は市場さんは、一連の問題が起きた際に退職を打診されたが、「京大の教授に『医局員を引き揚げるので、あなたもどうぞ』と言われてショックだった。放射線科が破綻すると、この病院に対する影響はとても大きい。心が痛む」との思いから、留まることに。
残留を決めたもう一つの理由が日野さんの存在で、市場さんは「言葉に真実味があるし、嘘がない。本気で立て直していこうという気持ちが垣間見えた。野球でいうと、新しい監督がやってきて、この人を優勝させてあげたいという気持ち」と、胸中を明かす。
日野さんは院長をしながら週1回、脳神経外科の外来を担当。この日の患者は15人だが、医師不足に悩まされた1年前は、倍近くの人数を診ていた。
医師の大量退職の後、たった1人で脳神経外科を維持してきた日野さんだが、母校・京都府立医科大学に要請し続け、ようやく脳神経外科医・卯津羅泰徳さん(33歳 京都府立医科大学卒)が派遣されてきた。
オペでは卯津羅さんに積極的にメスを握らせ、日野さんは助手に回る。「(卯津羅医師は)元々才能がある。ほぼなんでも自分でできる。僕のほうが長くやっていて経験はあるので、経験がものを言う場面の時にしっかりサポートする。すごくいい医者になる」と日野さん。2人は互いに認め合う存在だ。
去年の春、医局人事で病院にやって来たのは、乳腺外科・診療部長の川口佳奈子さん(三重大学卒)。以前は京都大学系の医師がこのポストについていた。赴任して約1年が経過した川口さんは、「医療スタッフのレベルがめちゃくちゃ高い」と話す。
午前の外来を終えた川口さんは、患者を紹介してもらうために地域のクリニックへ。まめに挨拶回りをしているのだ。「一時は患者を送れない状態になっていた。徐々に直ってはきたが、完全ではない」と話すのは、「青地うえだクリニック」上田創平院長。少なからず、あの問題に関する影響は尾を引いている。
川口さんは、「患者さんに大手を振るって市民病院を紹介するのは、まだ躊躇する部分があるんだなと感じた。乳腺で困ったら“市民病院に行こう”と思ってもらえるようにしたい。みんな、なんとかしようと頑張っているので、一緒にできたら」と前を向く。
一方、残留を決めた医師たちもいる。麻酔科・診療部長の橋口光子さん(金沢大学卒)は京都大学の医局に所属し、一連の問題で同僚が退職する中、残留を決めた数少ない医師。
“患者を安全に、家に帰したい――”病院に残った理由は、医師としての矜持だった。
そんな橋口さんは今年の春に昇進し、市民病院初の女性副院長に。地域のクリニックと積極的に連携を図り、橋口さんの思いはいま、地域や市民のもとに届き始めている。
医療スタッフが一丸となり、再生に向けて奮闘する市民病院。しかし、これまでのさまざまな問題は、病院経営を圧迫していた。医師の大量退職問題を受けて、過去最大の赤字となった一昨年度に比べると、昨年度はわずかに持ち直したものの、厳しい状況は続いている。
さらにコロナが5類に移行し、補助金が縮小。県内唯一の「第一種感染症指定医療機関」であり、コロナへの対応に積極的だった分、その反動が大きく出てしまったのだ。
河内明宏さん(京都府立医科大学卒)は、一連の問題の後、理事長に就任。この2年間、日野さんと病院の立て直しに尽力してきた。河内さんは、「“地域に出ていく病院” “地域に開かれた病院”を目指す。この病院は、一時危機に陥った。ずっと待っていても患者は来ない」と話す。
地域に出ていく改革の一つが、消防の要請を受けて出動するドクターカーだ。救急車の主な目的は現場からの搬送だが、ドクターカーは現場ですぐに治療することができる。
ドクターカーに乗る救急診療科・集中治療部の診療部長、千葉玲哉さん(40歳 大阪大学卒)は、「病院に来る前の10~20分でも早く対処するのがドクターカーの仕事」と話す。
千葉さんは大阪大学出身だが、医局には属していない。「『白い巨塔』のような体質が残っている。権力抗争に関わりたくない。一人の医者として、目の前に来る患者を助けたい」。
院長の日野さんについても、「僕らの原点“医療にまっすぐ”を実践するのはすごいこと。僕らも人間なのでなかなか難しいが、院長はそこに妥協が全くない。すごいなと思う。ああいう人を初めて見た」と話す。医療にまっすぐ――この病院には、千葉さんの理想があるのだ。
大津市民病院が一丸となって取り組む、地域に働きかける改革の数々。その背景には、全国の医療機関が抱える構造的な課題もある。
今年の春に赴任した総合内科の大町玲雄さん(30歳 自治医科大学卒)が向かったのは、西村隆吉さん(91)の家。4月から新たに始めた訪問診療は、内科や外科などの医師、看護師、栄養士ら約50人がチームで取り組んでいる。
この日、実施したのは尿道カテーテルの交換で、こうした訪問診療は従来、地域の診療所が担ってきたが、現在、市内で訪問診療を実施している診療所は、全体の3割弱。医師の高齢化に伴い、取りやめるケースが増えてきたという。そこで、大津市民病院がその空白を埋めようというのだ。
日野さんは「一つの医療機関でいろいろなことをできる時代ではない。うちの病院だけに閉じこもり、それだけをやっていたらいいというわけではない。待っているだけではなく、病院という資源をいろいろなところで使ってもらう」と話す。
もう一つの改革の柱は「地域に開かれた病院」だが、大津市民病院が、市民のために新たに取り組む施策とは――。
この放送が見たい方は「テレ東BIZ」へ!
【動画】23人の医師が退職…“学閥”というしがらみを乗り越えた市民病院のいま
医師大量退職問題で患者激減…再生に挑む院長のその後
滋賀・大津市。2年前、地域の基幹病院である市立大津市民病院で、23人に及ぶ医師が大量退職する問題が発生した。市民病院などは、各大学から派遣された医師によって成り立っている。これを医局制度と言うが、大津市民病院の場合、主に京都大学と京都府立医科大学から医師が派遣されていた。問題の端緒となったのは、京都大学系の外科医たちが、京都府立医科大学出身の理事長から「一方的に人員の削減や交代を迫られた」と告発したことだった。これによって市民病院は地域からの信頼を失い、患者は激減した。
こうした中、再生を託され、院長に就任したのが日野明彦さん(当時67歳 京都府立医科大学卒)。しかしその道のりは、まさに試練の連続だった。
大津市民病院は、125年前に開院。内科や外科など30の診療科に約400のベッドを有し、市民の10人に1人が通院する大津市民のための病院だ。
市民からの信頼が地に落ちる中、日野さんは「当時すごくしんどかったが、いくつかいい出来事があった。その一つは放射線科が残ってくれたこと。それがなかったら、存続できていないかも」と話す。
日野さんが全幅の信頼を寄せる放射線科・診療部長の市場文功さん(奈良県立医科大学卒)は、画像診断の能力を競うコンテストで、去年全国1位に輝いたスーパードクター。実は市場さんは、一連の問題が起きた際に退職を打診されたが、「京大の教授に『医局員を引き揚げるので、あなたもどうぞ』と言われてショックだった。放射線科が破綻すると、この病院に対する影響はとても大きい。心が痛む」との思いから、留まることに。
残留を決めたもう一つの理由が日野さんの存在で、市場さんは「言葉に真実味があるし、嘘がない。本気で立て直していこうという気持ちが垣間見えた。野球でいうと、新しい監督がやってきて、この人を優勝させてあげたいという気持ち」と、胸中を明かす。
若手・脳神経外科医着任 初・女性副院長誕生
日野さんは院長をしながら週1回、脳神経外科の外来を担当。この日の患者は15人だが、医師不足に悩まされた1年前は、倍近くの人数を診ていた。
医師の大量退職の後、たった1人で脳神経外科を維持してきた日野さんだが、母校・京都府立医科大学に要請し続け、ようやく脳神経外科医・卯津羅泰徳さん(33歳 京都府立医科大学卒)が派遣されてきた。
オペでは卯津羅さんに積極的にメスを握らせ、日野さんは助手に回る。「(卯津羅医師は)元々才能がある。ほぼなんでも自分でできる。僕のほうが長くやっていて経験はあるので、経験がものを言う場面の時にしっかりサポートする。すごくいい医者になる」と日野さん。2人は互いに認め合う存在だ。
去年の春、医局人事で病院にやって来たのは、乳腺外科・診療部長の川口佳奈子さん(三重大学卒)。以前は京都大学系の医師がこのポストについていた。赴任して約1年が経過した川口さんは、「医療スタッフのレベルがめちゃくちゃ高い」と話す。
午前の外来を終えた川口さんは、患者を紹介してもらうために地域のクリニックへ。まめに挨拶回りをしているのだ。「一時は患者を送れない状態になっていた。徐々に直ってはきたが、完全ではない」と話すのは、「青地うえだクリニック」上田創平院長。少なからず、あの問題に関する影響は尾を引いている。
川口さんは、「患者さんに大手を振るって市民病院を紹介するのは、まだ躊躇する部分があるんだなと感じた。乳腺で困ったら“市民病院に行こう”と思ってもらえるようにしたい。みんな、なんとかしようと頑張っているので、一緒にできたら」と前を向く。
一方、残留を決めた医師たちもいる。麻酔科・診療部長の橋口光子さん(金沢大学卒)は京都大学の医局に所属し、一連の問題で同僚が退職する中、残留を決めた数少ない医師。
“患者を安全に、家に帰したい――”病院に残った理由は、医師としての矜持だった。
そんな橋口さんは今年の春に昇進し、市民病院初の女性副院長に。地域のクリニックと積極的に連携を図り、橋口さんの思いはいま、地域や市民のもとに届き始めている。
地域の信頼を取り戻せ! “待つ”から“攻める”病院へ
医療スタッフが一丸となり、再生に向けて奮闘する市民病院。しかし、これまでのさまざまな問題は、病院経営を圧迫していた。医師の大量退職問題を受けて、過去最大の赤字となった一昨年度に比べると、昨年度はわずかに持ち直したものの、厳しい状況は続いている。
さらにコロナが5類に移行し、補助金が縮小。県内唯一の「第一種感染症指定医療機関」であり、コロナへの対応に積極的だった分、その反動が大きく出てしまったのだ。
河内明宏さん(京都府立医科大学卒)は、一連の問題の後、理事長に就任。この2年間、日野さんと病院の立て直しに尽力してきた。河内さんは、「“地域に出ていく病院” “地域に開かれた病院”を目指す。この病院は、一時危機に陥った。ずっと待っていても患者は来ない」と話す。
地域に出ていく改革の一つが、消防の要請を受けて出動するドクターカーだ。救急車の主な目的は現場からの搬送だが、ドクターカーは現場ですぐに治療することができる。
ドクターカーに乗る救急診療科・集中治療部の診療部長、千葉玲哉さん(40歳 大阪大学卒)は、「病院に来る前の10~20分でも早く対処するのがドクターカーの仕事」と話す。
千葉さんは大阪大学出身だが、医局には属していない。「『白い巨塔』のような体質が残っている。権力抗争に関わりたくない。一人の医者として、目の前に来る患者を助けたい」。
院長の日野さんについても、「僕らの原点“医療にまっすぐ”を実践するのはすごいこと。僕らも人間なのでなかなか難しいが、院長はそこに妥協が全くない。すごいなと思う。ああいう人を初めて見た」と話す。医療にまっすぐ――この病院には、千葉さんの理想があるのだ。
大津市民病院が一丸となって取り組む、地域に働きかける改革の数々。その背景には、全国の医療機関が抱える構造的な課題もある。
今年の春に赴任した総合内科の大町玲雄さん(30歳 自治医科大学卒)が向かったのは、西村隆吉さん(91)の家。4月から新たに始めた訪問診療は、内科や外科などの医師、看護師、栄養士ら約50人がチームで取り組んでいる。
この日、実施したのは尿道カテーテルの交換で、こうした訪問診療は従来、地域の診療所が担ってきたが、現在、市内で訪問診療を実施している診療所は、全体の3割弱。医師の高齢化に伴い、取りやめるケースが増えてきたという。そこで、大津市民病院がその空白を埋めようというのだ。
日野さんは「一つの医療機関でいろいろなことをできる時代ではない。うちの病院だけに閉じこもり、それだけをやっていたらいいというわけではない。待っているだけではなく、病院という資源をいろいろなところで使ってもらう」と話す。
もう一つの改革の柱は「地域に開かれた病院」だが、大津市民病院が、市民のために新たに取り組む施策とは――。
この放送が見たい方は「テレ東BIZ」へ!
記事提供元:テレ東プラス
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。