〈クロード・シャブロル傑作選〉開催。「女鹿」などステファーヌ・オードラン主演3本を上映
イチオシスト
ヌーヴェルヴァーグを代表する監督の一人であり、サスペンスやミステリーの名手として知られたクロード・シャブロル。彼が1960年代後半から70年にかけて、当時の妻だったステファーヌ・オードランを主演に迎えて撮り上げた「女鹿」(1968)「不貞の女」(1969)「肉屋」(1970)の3本を上映する〈クロード・シャブロル傑作選〉が、2月13日(金)よりシネマリス、Morc阿佐ヶ谷などで開催される。メインビジュアルと映画評論家・山田宏一の推薦文が到着した。

不敵な怪力のシネアスト 山田宏一(映画評論家)
ヌーヴェル・ヴァーグはクロード・シャブロルとともにはじまったのだという神話など今となっては生まれる前に消え去っていたようなものだから、あえて思い出そうとしたりすることもないくらいだ。どんな映画も臆することなく不敵な面構えで勢力的に撮りつづけてきた怪力のシネアストだ。
『女鹿』『不貞の女』『肉屋』はクロード・シャブロルの一九六〇年代から七〇年代にかけての“ブルジョワ・シリーズ”の代表的な三作である。当時シャブロル夫人で最も美しく官能的な女優だった、ステファーヌ・オードランがヒロインを演じる三部作と言ってもいいかもしれない。
クロード・シャブロルにとってブルジョワとは何か?──それは「資本主義社会の寄生虫」で、「嘘と美食と姦通と殺人にしか生き甲斐を見出せない」男と女である。金には困らないが、欲望と狂気は抑え切れないという厄介な存在だ。ブルジョワ出身のクロード・シャブロルがいわば近親憎悪をむきだしにして執拗に描きつづけたブルジョワジー破局の密かな黙示録的三部作とも言うべき作品群なのである。
舗道に鹿の絵を描いていた美少女(ジャクリーヌ・ササール)を誘惑したブルジョワ女が逆に身も心も男(ジャン=ルイ・トランティニャン)も奪われてしまう『女鹿』。自己の心の問題を嘘で表現しつつ、互いに助け合って危機を克服するブルジョワ夫婦を静かに描く『不貞の女』。夫(ミシェル・ブーケ)にとって、殺人はブルジョワ的鬱屈の爆発にすぎないのだ。肉切り包丁ならぬ飛び出しナイフで女たちを血祭りに上げる肉屋(ジャン・ヤンヌ)に愛された美貌の女教師は……と戦慄のシャブロル的サイコドラマは果てしなくつづくかのようである。
■〈クロード・シャブロル傑作選〉に先立つ1月16日(金)より、東京日仏学院エスパス・イマージュで〈クロード・シャブロル特集2026 女性形のサスペンス〉も開催される。上映作は「不貞の女」(1969)「女鹿」(1968)「肉屋」(1970)「ヴィオレット・ノジエール」(1978)「主婦マリーがしたこと」(1988)「ベティ」(1992)「沈黙の女たち」(1995)「最後の賭け」(1997)「甘い罠」(2000)「引き裂かれた女」(2007)の10本を予定。
〈クロード・シャブロル傑作選〉
提供:マーメイドフィルム
配給:コピアポア・フィルム
宣伝:マーメイドフィルム、VALERIA
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
©︎Les films La Boëtie
公式サイト:claudechabrol2026.jp
記事提供元:キネマ旬報WEB
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