あなたの家も狙われる? 神出鬼没の「水道メーター泥棒」にご用心!
イチオシスト

ホームセンターなどで売っている工具で、慣れれば10分で盗めるという水道メーター。点検の作業効率の観点から鍵をつけることもできない
全国各地で水道メーターが大量に盗まれるという怪事件が頻発している。 「水道メーター? 盗難事件にしては地味すぎるだろ」と侮るなかれ。
行政の人手不足で対策は後手後手状態。しかも、あなたの生活圏に潜む凶悪犯罪の 「呼び水」となる危険性もはらんでいるのだ。
【山形では一晩に2712個の大量盗難】大量の水道メーターが一晩で消える――。そんな盗難事件が全国で相次いでいる。
今年11月には東京都の江東区と墨田区の集合住宅で、計63個の盗難被害があった。地方では今年4月、山形県米沢市で倉庫に保管されていた水道メーター約2700個(約245万円相当)が一気に盗まれる事件が発生している。
なぜ水道メーターが狙われているのか? 水ジャーナリストの橋本淳司氏がその背景を語る。
「世界的な金属価格の高騰が大きな要因です。特に銅は近年、半導体やリチウムイオン電池に欠かせないため『新時代の石油』として需要が伸びています。
実は水道メーターの容器はさびにくい青銅性のものが多く、かつてはこの青銅から大砲が作られていたことから〝砲金〟とも呼ばれます。
銅の含有率が高い砲金の買い取り価格は、昨年は1㎏1000円ほどだったのが、現在は1600円まで上がっています。
昔から水道メーターは盗むのが容易で換金しやすいといわれていましたが、銅の価格が急騰していることで、集合住宅や倉庫は窃盗犯からすれば効率の良い〝狩り場〟になっているわけです」

警察庁の調査によれば、金属盗難の認知件数は2020年は5478件だったが、24年は2万701件と約4倍に増加。材質別で見ると、銅が半数以上を占める。
水道メーターの取り外しには専門知識や技術がいらないことも盗難増加につながっていると橋本氏は言う。
「メーターボックスに鍵がついていないので、簡単に開けられる。そして、水道メーターの横にある止水栓を締め、水を止めて、メーターと水道管をつなぐ部品を専用工具で外すだけで持ち出せます。
この専用工具はホームセンターなどにも売っているので、誰でも簡単に入手できます。慣れれば一連の作業に10分もかからないでしょう」

盗難事件に関する報道は増えているが、犯人逮捕まで至ったケースは少ない。
「狙われる物件は空室率が高い築年数の古い集合住宅や、建築中の新築物件がメイン。
そのため、蛇口をひねったときに水が出てこず管理会社に連絡。水道局の人間が調査して初めて水道メーターの盗難に気づくパターンが多い。
空き家にしていたため、長期間誰も気づかなかったというケースもザラです」
【SNSでは外国人犯罪を疑う声】最近は多くの自治体でメーターの盗難対策に乗り出している。水道局もスクラップ業者やリサイクル業者などと連携して取り締まりを強化。それでも警察の捜査が難航している理由には、解体業者の闇が関連しているという。
「業者の多くは、盗品の疑いがある水道メーターは買い取りを拒否します。しかし、中にはわかっていながら買い取る〝闇業者〟も紛れている。そこに持ち込まれ、金属として溶かされてしまえば痕跡も残りません」
肝心の犯人像は見えているのか。近年、外国籍の犯罪グループによる太陽光発電施設の金属盗難事件があったことなどから、SNSでは「これも不良外国人の仕業じゃないか」と推察する声が多い。
しかし、「実行犯は日本人の可能性が高い」と話すのは、元警視庁公安捜査官で防犯コンサルタントの松丸俊彦氏だ。
「水道メーターが設置されているのは敷地内なので、外国人が立ち入ると目立ちやすい。日本人なら宅配業者や工事業者に扮して、下見や作業をしていても疑われにくいでしょう。
山形県のケースは大量盗難で、1個当たり1~1.5㎏としても、数百個を運ぶのは単独では難しいので、複数人の犯行だと思いますね」
一方で、その後の転売ルートに外国人が絡んでいる可能性はあるという。
「国内倉庫での保管や溶解作業は足がつきやすいので、メーターの部品をバラしてコンテナに載せて海外で売りさばく。そこは日本人だけで完結できる話ではなく、分業化しているとみています。
ですから、そのどこかの過程に外国人が絡んでいても不思議ではありません」
実際、過去に検挙された高級車盗難事件の転売ルートでも外国人が関わっていた。
「日本の高級車が盗難された後、北関東にあるヤード(保管のための屋外スペース)に運ばれ、部品を解体して海外に流通させていました。
アフガニスタン人とパキスタン人が逮捕されたケースでは、表では中古車解体業を営みながら、裏稼業で持ち込まれた盗難車もバラして、アラブ首長国連邦のドバイ経由でアフリカに送っていた。
いまだに違法なヤードは存在するので、足がつかないよう暗躍していると思います」
【後手に回る水道局。二次被害の可能性も】盗難被害に遭った場所を中心に、水道局は新たな水道メーターをつけ直して、特殊な鍵のついたボックスに入れ替えるなど対策を講じている。
だが、迅速に進まない背景に水道事業の経営不振があるとか。
「被害に遭った場合のつけ替え工事費用は水道局の負担なので、一般家庭に多い口径20㎜の水道メーターだと1個当たり1万円以上かかります。
水道局は人口減少などにより、使用水量が減り、赤字経営が続いている。
さらに、今年1月に埼玉県八潮市で起きた道路陥没事故の影響で、全国の老朽化した水道管の更新工事が急務になっています。
水道メーターの盗難対策まで予算も手も回らないのが実情です」(前出・橋本氏)
ただ、本当の恐怖は盗難の後かもしれない。水道メーターの盗難が凶悪犯罪の布石になるケースもあるのだ。松丸氏はこう解説する。
「例えば、闇サイトには犯罪被害者のリストが出回っており、これを強盗や詐欺の犯行グループは所持しています。
水道メーターなどの小さな盗難被害でも、個人宅や集合住宅のデータは、『長く空き家で管理が行き届いていない』『家が通りから見えづらいので盗難作業がしやすい』というように、常に情報がアップデートされていく。
つまり同じ人間が繰り返し狙うのではなく、違う犯罪グループに情報共有されていくのです」
長年空室だった部屋が、闇バイトや特殊詐欺、違法薬物製造などの拠点になっていることも少なくないという。
「空き部屋に潜伏しながら、ベランダ伝いでほかの部屋に侵入して、盗難に及ぶケースもある。
水道メーターが盗みやすい建物であれば、管理が行き届いておらず、人目にもつかないということで、その住所を盗品や薬物の置き場所にするなど、さまざまな犯行計画に用途を広げられます」
国も対策を急いでいる。今年9月から、「盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律」(通称・金属盗対策法)を施行。犯行用具の規制、盗難の防止に関する情報共有などが盛り込まれたが、被害が減少するかは疑問が残る。
「従来は金属クズに関して無法地帯だったので、多少の効果は期待できるでしょうが、買い取り業者が不正を働こうと思えば防ぐのは難しい。
また、検針しやすいよう、いまだに人が入りやすい場所にメーターが設置されており、新築工事現場では新しいメーターがむき出しで置かれていることもザラです」
【銅価格高騰で被害は拡大か】盗難被害に遭わないために個人が対策できることは何か。
「犯罪者は必ず犯行現場の下見をするので、見かけないチラシ配りや工事業者などを見かけたら声がけすべきです。『今日は寒いですね、ご苦労さまです』『今日はなんの点検ですか?』などと声をかけるだけでも、一定の防犯対策になります」(前出・松丸氏)
少しお金をかけるなら「監視カメラ作動中」や「番犬に注意」のステッカーや、セキュリティ警備会社のシールを玄関口に貼っておくだけでも効果があるという。
「重要なのは、犯罪者の侵入準備行動のサインに敏感になること。少しでも気になることがあれば、スマホで写真や動画を撮って、最寄りの警察署や警察相談専用電話(#9110番)に相談しておくのも効果的だと思います」
また、「水道メーター盗難が都市部から地方へと広がっていく可能性は否定できない」と松丸氏は警鐘を鳴らす。
「この手の犯罪は模倣犯が連鎖する流れがあって、防犯意識がそれほど高くない地方が今後狙われていく可能性は高いです。
特に、港湾とアクセスがいいなど、密輸の流通ルートが近いと、盗難品をコンテナに紛れ込ませて流しやすい。実際に〝ゾンビドラッグ〟と呼ばれる合成麻薬のフェンタニルは名古屋港が拠点になって全国へと広がっていった経緯がある。
いずれ実行犯が捕まるとは思いますが、銅価格が上がり続ければ模倣犯は続出するでしょう」
一見すると地味な水道メーター盗難という怪事件も、実は地獄の入り口なのかもしれない。
取材・文/吉岡 俊
記事提供元:週プレNEWS
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