「AIは鉄道をどう変える?」チャッピーに聞いてみた 探求フェアに就活生来場 盛況きわめた「鉄道技術展2025」【コラム】
イチオシスト

最近、印象に残ったテレビCM。サッカーの三笘薫選手が、スマートフォンに子どもたちのサッカー教室のアイディアを質問すると、AIが「ドリブル鬼ごっこはどうでしょう」と答えます。実は鉄道の世界でも、こんなAIアシスタント機能が現実になりつつあるんです。
2025年11月26~29日に、千葉市の幕張メッセで開かれた9回目の「鉄道技術展2025」。併載されたセミナーの一つに「AIは鉄道をどう変えるのか」が見つかりました。
自動運転とか列車無線制御とか、新しい鉄道技術のベースにあるのがAI。三笘選手のCMにならえば、列車運転士がマイクに「どうすれば次の駅に最も早く着けるかな?」と話しかけると、電車AIが最適な運転方法を教えてくれる……なんてことはもちろんありませんが、実はシステム的には、これに近い運転方法が実践されようとしています。
運行管理や運行最適化の専門家

「AIと鉄道」のセッションに登壇したのは工学院大学工学部の高木亮教授、上智大学理工学部の宮武昌史教授、NECデータサイエンスラボラトリーの窪澤駿平主任研究員の3人です。高木教授と宮武教授は電気鉄道が専門。列車運行管理や省エネ運転研究の第一人者です。
NECは2023年6月、「AIを活用した鉄道の最適復旧ダイヤ作成」で業界の注目を集めました。輸送トラブル時、どんな回復ダイヤを組めば乱れたダイヤを最短で元に戻せるのかは、鉄道会社にとってもアタマを悩ませる問題。NECのシステムは、わずか数分間で最適なダイヤを組めます。システム開発を手がけた窪澤研究員は、鉄道運行管理の研究で知られます。

スジ屋の仕事をAIが肩代わり
AIがArtificial Intelligence(人工知能)の頭文字というのはあらためての紹介は不要でしょう。コンピューターは構想段階から「考える機械」とされてきました。
⽇本の鉄道AIの始まりとされるのが、国鉄が1960年に導⼊した「マルス」。 世界初の指定席予約システムで、1972年に登場したマルス105は希望した列車が満席だった場合、代わりの列車を提案する機能を備えました。
セッションで最初に飛び出したのが、鉄道とゲームの話。といってもおなじみの鉄道陣取りゲームや運転シミュレーターゲームではなく、鉄道AIに似るのは実はコンピューター囲碁です。
今やAI囲碁棋士の実力はプロ棋士並み。理論的裏付けが、ランダムサンプリングや深層学習(ディープラーニング)です。
囲碁は一般的なコンピューターゲームに比べて手の数が膨大。すべての手をAIに覚えさせるのは、さすがに無理があります。そこで対戦中の盤面や最終の勝敗から勝利できる手を統計的に見付けだして、コンピューターがまるで自分で考えたように次の一手を打つのがAI囲碁です。
鉄道も列車の運転性能(加減速度など)、周辺列車の運行状況、駅の混雑度をはじめ影響を与える条件は膨大。AIはそれら一つ一つ組み合わせながら、最適な運転方法を探し出します。それがAI回復運転の本質です。
一昔前、ダイヤ編成は「スジ屋」と呼ばれるベテラン中のベテランの役割でした。しかし、最近は多くの作業をAIに代わってもらえるようになりました。
チャットGPTに聞いてみた
宮武教授は、生成AIの機能で鉄道に応用できそうなものを対話型AIのチャットGPTに聞いてみました。
チャッピー(惜しくも選外でしたが、新語流行語大賞2025候補の一つで若者言葉のチャットGPT)の答えは、「運行管理の最適化」、「保守・点検のスマート化」、「乗客サービスや案内の高度化」、「運転支援・自動運転」、「事故防止や安全監視」といろいろ出してくれました。チャッピー君、なかなかやりますね。
宮武教授、大学の研究者の立場ではこれまで本物の鉄道データがなかなか取れないのが苦労の種でした。その点、AIシミュレーターの進化で必要なデータを取りやすくなったのが隠れたメリットだそうです。
窪澤主任研究員も、「実物の鉄道では、試行錯誤しながら無数のデータを集めることはほぼ不可能。AIなら短時間で学習データを生成できる」と、その効能を認めました。
まさに鉄道AI万能の現代。AIが自動運転する列車の登場もまもなくです。しかし高木教授は、「責任ある最終判断をAI任せにするのはあまりにも危険。AIが得意なのは、駅の混雑度と停車時間のように定式化が難しい問題に最適な答えを見付けだすこと。その点を十分に認識して利用する必要がある」と警鐘を鳴らしました。

丁寧に人材育てる鉄道業界
ここから今回の鉄道技術展の新機軸。これまで会期だった水~金曜日3日間を、1日延長して初めて土曜日に開催されました。
最終日の11月29日は「鉄道業界探求フェア」と銘打ち、就活生と出展企業・団体の出会いの場になりました。
会期延長のきっかけは、東京・上野にある岩倉高校の大日方樹教諭の前回「鉄道技術展2023」での発言。多くの鉄道人を送り出す岩倉高で就職指導部長を務める大日方先生、学生が鉄道の仕事を知るために土曜開催を提案しました。
鉄道タレントの豊岡真澄さん、鉄道ジャーナリストの渡辺史絵さんとのトークセッションに登壇した大日方先生は、「鉄道業界は丁寧に人材を育てるので、入社後にやりたい仕事を見付ける人も多い」と、大手私鉄から教職に転じた自らのキャリアも交えながら、未来の鉄道人に呼び掛けました。

続いて、岩倉高出身の交通系ユーチューバー・スーツさんが特別講演。スーツさんは鉄道業界志望でしたが、今は鉄道の魅力を外から紹介します。講演では、「鉄道は社会に必要なインフラで、多くの人たちに鉄道業界に進んでほしい」とエールを送りました。


記事:上里夏生
記事提供元:旅とお出かけ 鉄道チャンネル
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