【#佐藤優のシン世界地図探索137】脳内戦艦サナエ、出撃!<第六天魔王との戦い>
イチオシスト

「脳内戦艦サナエ」は泣きを入れずに習近平主席より譲歩を引き出したが、Xを翌日発射したことにより、すさまじい罵倒戦が勃発してまった(写真:時事)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
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現在は世界各国で存在しないはずの「戦艦」。しかし、高市早苗首相の頭の中にはまだ存在している。そんな「脳内戦艦サナエ」が、未来の日本を救うために出撃だ。
アメリカ王のトランプ大統領に対し、戦わずして勝利した「脳内戦艦サナエ」。次の狙いは国政選挙で勝利すること。......しかし、その前に航路をふさぐ中国が! どうする、「脳内戦艦サナエ」!?
――脳内戦艦サナエの前に立ち塞がる中国。その前に、まず米中会談はどう見ていらっしゃいますか?
佐藤 米中会談は帝国主義国同士、要するに親分同士の話し合いですよ。
――あれは手打ちなんですか? それとも、米中のなぁなぁのなれ合いが始まったんですか?
佐藤 一種の手打ちです。
――なるほど。
佐藤 ただ日本の場合、手打ちはできないんですよ。
手打ちをするには双方が対等でないとなりませんよね? だから無理なんです。それは中国、アメリカ、どちらに対してもです。だから、日本はいつも「泣きを入れる」みたいな感じなんですよ。
――もちろん米国にとっても中国にとっても、日本は対等なんかではありません。すると、「脳内戦艦サナエは」中国に対して"泣きを入れた"のですか?
佐藤 いや、10月31日の日中会談はそうではなくて、普通にやって中国が譲歩したんですよ。習近平としても石破茂前首相の路線を高市氏が継承することを期待していたのでしょうね。
――なるほど、「脳内戦艦サナエ」は中国を一発撃沈したと。やるじゃないですか!!
佐藤 しかし翌日、台湾代表で来ていた林信義副首相と会談しました。それ自体は問題ないんですが、なぜそれをSNSにあげる必要があったんですか?
――中国は譲歩してきたのに。しかし、習近平主席が高市首相に対してビビっていたという報道もありました。
佐藤 そんなことはまったくありませんよ。一方的に誰かが言っているだけで、何もエビデンスがありません。ビビっていたら、中国が今のような激烈な攻撃を仕掛けてきますか?
――薛剣駐大阪総領事のSNSでの発言ですね。「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない。覚悟が出来ているのか」と。「脳内戦艦サナエ」は大阪港に停泊中の中国戦艦に対して、波動砲の一撃で破壊するしかないのでは?
佐藤 あの総領事の個性もあるでしょう。しかし、このような「売り言葉に買い言葉」が良くないんですよ。日中の外交チャンネルが上手く機能してないから、こういう事態が起きてしまうんです。
――だから、高市首相の戦艦発言に対して、中国は「日本に渡航するな」と命令し、日本は相容れないと突っぱねている。
佐藤 石破茂前首相ならば、こういう時に裏チャンネル(インテリジェンス・チャンネル)を使いました。
――すると今、非常に良くない戦況になっている。ならば、「日米会談から日韓、日中と高市首相は上手くやった」という一連の報道は、やっぱり大本営発表でありますか?
佐藤 一国民としては、私もその大本営発表を信じたいんです。しかし、外交専門家としては無理です。高市さんは「何かいいことはないか、いい話だけ聞きたい」という心理状態だと思います。
――それは任侠映画によくあるシナリオで、組長が都合のいい話だけ聞き、翌日には暗殺されるパターンと同じですか?
佐藤 そういう状態になりつつありますね。
――なぜそうなってしまったのでしょう?
佐藤 政権から公明党が外れたことが大きいと思います。
――報道によると、野党は公明党の600万票が欲しいからおべんちゃらばかり言っている、とのことでした。公明党はまだどこと組むか決めてないですよね?
佐藤 人物本位ということになるでしょう。選挙は組織戦ですよ。だから、選挙のカギを握るのは公明党と日本労働組合総連合会(連合)ですよ。この2つの組織はここ26年間、手を握っていません。ここが握ったら強いですよ。
――さらに公明党と連合を基盤とする立憲民主ならば選挙に勝てませんか?
佐藤 過半数を取ることはないでしょうが、そこそこいけると思います。
――もしそうなると、自民党はいまは絶対に選挙しないという選択を取ると思います。
佐藤 そうなんですが、むしろ選挙をやったらいいんですよ。それで自民党は自分たちの実力を知ることができます。この政権がスプーン半分ぐらいのザラメで作った綿菓子みたいなものであることを自覚すると思います。
――食べるとじゅわっと溶けてしまう。そのうえ、ザラメがスプーン半分とは手抜きですね。
佐藤 他でたとえるなら、高市自民党は2mの竹馬に乗っているようなものなんですよ。そんな高さならすぐにひっくり返るほどに、自分たちを大きく見せているんです。
――人それぞれ、各自の限界があります。現実的な選択をしないといけません。
佐藤 そうです。だから、本当にいまの自民党は拙(つたな)いんですよ。
――佐藤さんは自民党を「第六天の魔王に支配されている」と表現されていますが、この魔王とは何者ですか?
佐藤 人間界を支配する魔王で他化自在天(たけじざいてん)とも呼ばれます。自分が思うように他人を支配しようとする心の在り方です。仏道修業を妨げる魔王です。
――魔欲の最大権化ではないですか。存在してはいけない魔王ですよね。
佐藤 でも、この世はそれが仕切っています。そして、そいつに腸(はらわた)を食いちぎられると、高市さんや麻生さんみたくなるわけです。
――今の自民党ではないですか!! この第六天魔王をやっつけるにはどうしたらいいのですか?
佐藤 「日蓮大聖人の教えに従え」ということになりますね。民衆の幸福と平和のために闘うのです。
――つまりどういうことでしょうか......?
佐藤 こういう考え方をとる人たちは、自民党にいる高市さんと麻生さんに近い連中を選挙で落とす活動をします。
――なるほど。しかし、それには国内とその周辺が平穏になってないと難しいですね。国際環境が厳しいと、選挙で内政が混乱するのはまずい。米中会談の手打ちは安心材料になりますか?
佐藤 まだ何とも言えません。米中の棲み分けができて、お互いに仲良くなれば問題ありません。
――日本はどっちに分けられたのですか?
佐藤 もちろん米国側です。しかし、アメリカの国力が弱くなった場合、上納金が増えて、合同地周りや総長賭博が増えるのでリスクは残ります。
その直参でアメリカに吸い取られすぎてフラフラになっているのがいまのドイツです。
――そのドイツ分も日本に要求されますね。
佐藤 そうです。ドイツは明日の日本です。だから、このまま高市政権が続くと危険だと思いますね。うまくアメリカの要求をかわさないと。
――「脳内戦艦サナエ」では戦えないと......。
佐藤 自民党は「防衛装備移転三原則」を緩め、5つの縛りも全て外して兵器を海外に送れるようにしようとしています。
しかし、日本が本気でロッキードマーチンやノースロップ・グラマン、ボーイングなど、米国の軍事企業とやりあえると思いますか? さらに、中国の軍産複合体、ロシアのロステックなどを相手に売り込み合戦ができますか?
――それはかなり凄惨な商戦になりますね。大人と子供ほどの差がありますから、やめた方が賢明であります。
佐藤 兵器の売り込み合戦ではよく死者が出ますよね。三菱重工、川崎重工、IHIにはそこまでやる腹はありますかね?
――この前、海上自衛隊に配備されている新型護衛艦をオーストラリアが買うことになりました。よくやったと日本政府は誉めちぎっていましたが、兵器の輸出を民間企業に丸投げし、国が責任を取らない仕組みなんですよ。そんな国ありませんよ。
佐藤 いや、ウクライナもそうですね。誰がどこに兵器を売っているか国が管理できていません。
――日本も、知らないうちにウクライナになってしまう可能性が出てきたと。いよいよ「脳内戦艦サナエ」は大活躍ですか?
佐藤 大活躍はまだまだ続くと思います。
次回へ続く。次回の配信は2025年12月5日(金)予定です。
取材・文/小峯隆生
記事提供元:週プレNEWS
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