滝田洋二郎を監督に大抜擢、快諾すると思いきや…「どこが面白いんですかコレ!?」――【あの懐かしの映画を語ろう】第6回「木村家の人びと」前編
イチオシスト
映画を創った人だけが知っている物語がある──
80年から90年代を彩った日本映画の舞台裏に迫る、「キネマ旬報」公式YouTubeチャンネルのオリジナル番組〈あの懐かしの映画を語ろう〉。第6回の前編が11月19日(水)より配信された。元にっかつプロデューサーの山田耕大氏に今回語っていただくのは、滝田洋二郎監督の「木村家の人びと」。今回も一部内容を抜粋し、見どころをご紹介する。

まず、これまでの作品同様、原作との出会いから話は始まる。本作は、谷俊彦氏による同名小説が原作。山田氏の制作会社〈メリエス〉の経理の担当者から勧められたそうで、1986年の小説新潮新人賞の受賞作品。山田氏も『面白いから一気に読んで、よし、映画にしよう!』となり、早速出版社に連絡して許諾を得ることに。「家族ゲーム」の時と同じようにTV局からの引き合いは多かったものの、映画化の話はまだ無く許諾を得ることができたのだが、TBSからTV版の制作を共同でしないかと話があったそうだ。
しかし、山田氏は映画化の方で手が回らずに、同じ〈メリエス〉に所属する脚本家の高田純氏にTV版は任せることに。タイトルは『欲望家の人びと』と変更になり、印刷された脚本を見た記憶もあったが、実際に放映された記録がないと言う。何か事情があり製作がストップしてしまったのか、山田氏もこの件については詳細を知らないそうだ。(※キネ旬注:──詳細をご存じの方、情報をお寄せください)
そこから話は映画の製作に戻り、監督を滝田洋二郎氏にした経緯が語られる。今でこそ「おくりびと」でのアカデミー賞外国語映画賞受賞をはじめ、「陰陽師」「壬生義士伝」「北の桜守」などのヒット作で知られる滝田氏だが、当時は専らピンク映画の監督としてその非凡な才能を高く評価されていたものの、一般的にはまだ無名の存在。山田氏は成人映画としては最後の監督作品「タイム・アバンチュール 絶頂5秒前」を観て『空気感というか、気持ちの良い映画だった』と新しい才能が出てきたことを実感し、『「木村家の人びと」の監督は絶対にこの人だ』と思ったと言う。そして代々木にあった〈メリエス〉の事務所に滝田監督を呼ぶことになり……山田氏曰く『こっちとしては偉そうにね、大抜擢のつもりなのよ(笑)』、だったと言うが、滝田氏の態度はブスッとして『どこが面白いんですかコレ?』と予想に反してけんもほろろ。まったく話に乗ってこないが『やらない』とも言わずに帰って行った滝田氏。山田氏もその態度に悔しさを見せながらも脚本を再考、粗い部分を修正して再度脚本を見せて滝田氏は監督を引き受けることに…。滝田氏の大物ぶりが垣間見えるエピソードではないだろうか。
その後、本作は「私をスキーに連れてって」で縁のあるフジテレビの出資を受け、同社の河井真也氏がオープンに携わった映画館・シネスイッチ銀座の邦画作品の1作目として、1988年5月13日から7月28日に上映されヒットするのだが、山田氏の話は東宝とある俳優を主演にした作品を撮る計画があったことにも及ぶ。結果、話は流れてしまうが、あの時もし実現していたら大変なことになっていたんじゃないかという笑い話は、ぜひ本編をご覧いただきお楽しみください。なお、後編は11月26日(水)を予定しておりますので、こちらもご期待ください。
文・制作=キネマ旬報社
キネマ旬報公式YouTube 〈あの懐かしの映画を語ろう〉
第1回「家族ゲーム」
前編:https://youtu.be/MQdGi9lI2ZM
後編:https://youtu.be/ZPkQQ0ZCdJo
第2回「私をスキーに連れてって」
前編:https://youtu.be/DTmZNlDRplQ
後編:https://youtu.be/cLEuN8b0nRA
第3回「ベッドタイムアイズ」
前編:https://youtu.be/dIt0TQOmneU
後編:https://youtu.be/n6AHw9X3_jg
第4回「ドレミファ娘の血は騒ぐ」
前編:https://youtu.be/kExjqCayq_A
後編:https://youtu.be/h7D5bTySzks
第5回「死んでもいい」
前編:https://youtu.be/0d_v0EY5C70
後編:https://youtu.be/Uze7o6aftb4
〈今後の配信予定〉
11月26日(水)「木村家の人々」後編
12月「ザ・中学教師」「ダブルベッド」とロマンポルノ
「木村家の人びと」
監督:滝田洋二郎
脚本:一色伸幸
原作:谷俊彦
制作:メリエス
出演:鹿賀丈史、桃井かおり、岩崎ひろみ、伊崎充則、柄本明、木内みどり
1988年/日本/113分
製作:フジテレビジョン
配給:ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画
記事提供元:キネマ旬報WEB
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
