実はそこまで「密着」してない!? テレビと当局の思惑が絡む「警察24時系番組」の裏側
イチオシスト

「警察24時」系ドキュメンタリー量産の裏は、取材者と被取材者のWin-Winの関係があるようだ
年の瀬がせまるこの時期、テレビの番組表に必ずラインナップされるのが、「警察24時」といったようなタイトルで警察官の現場を追うドキュメンタリー番組だ。深夜のカーチェイス、薬物捜査、交番勤務の"人情対応"。毎年のように繰り返される映像は、視聴者に「一年を締めくくる風物詩」として定着した。しかし、その華やかな映像の背後では、報道と演出、警察と放送局の微妙な力学が交錯している。
「ウーウー、緊急配備!」。ジェスチャーで表現したパトカーの上で回る赤色灯、タバコのフィルターを駆使した〝なんちゃって〟無線。夏の甲子園の決勝実況中継など、ニッチな物真似で人気を集めるタレント・柳沢慎吾の鉄板ネタのひとつとなっているのが、「警察24時」の再現ネタだ。
彼のネタが笑いを誘うのは、柳沢のタレント力もあるが、いかにいわゆる「警察密着モノ」が多くの視聴者に浸透しているかの証左になっているともいえるだろう。ことに年末が迫る12月にかけては、民放各局が、こぞって高視聴率を期待できる午後7時から10時台にかけての「ゴールデン枠」で番組表にラインナップするのが通例となっている。
【制作側にとっては安全企画】「『警察24時』系の番組が年末に集中する理由は『数字が取れるから』に尽きます。編成担当者にとって、家族でテレビを囲む時期に"緊迫と感動"を演出できる番組として、このフォーマットを外せない。長尺の特番枠が確保できる12月は、捜査や取締りの現場映像を"総集編"として並べるには最適です」
こう話すのは、某民放キー局と取引のある番組制作会社のディレクターだ。

警察密着番組ではおなじみの歌舞伎町交番。「日本で最も忙しい交番」はすなわち「日本で最も撮れ高のある交番」だ
制作側にとっても警察密着番組は、事件報道とバラエティの中間に位置する「安全な企画」ともされてきた。テレビ東京の『激録・警察密着24時!!』、フジテレビの『警察密着24時』などは安定した視聴率を誇り、番組ブランドとして定着してもいる。一方で、取材の過程や編集方針を巡っては、警察側との調整に相当な時間と手間もかかっているのだという。
「取材班は、複数の県警と協定を結び、撮影許可を逐次取りながら半年以上かけて素材を集めるのが一般的です。こちらがほしいのは『リアルな現場の記録』。ただ、実際には、"撮れる現場"と"撮れない現場"の線引きも存在します。
捜査情報などのプライバシーに関わる映像は当然カットされる。放送可能な場面だけが編集され、ナレーションによって事件性や緊迫感が強調される。そこに番組制作の"構成"が加わることで、現実の出来事が"テレビ的リアリティ"へと変換されるのです。取材よりむしろ編集のほうに力点を置いているのが実際のところです」(前出のディレクター)
つまり「密着」とうたっていながらも、すべての現場に同伴する字義通りの「密着」ではなく、使える場面を拾い出す作業が番組制作の肝になるというのだ。
【警察側の思惑】番組が成立する背景には、警察側の思惑もある。密着取材は市民に警察活動を理解してもらう機会でもあり、彼らにとっては広報活動の一環として位置づけられている側面もあるからだ。
ある警察関係者は「一定の協力要請があれば、治安維持の現場を正しく伝えるという目的の範囲で対応している。実際、放送後には地域の交番勤務への関心が高まり、採用広報への波及効果もある」と実情を明かす。
一方で、過剰な編集によってその「勇ましさ」ばかりが強調されれば、現場警察官の実情とかけ離れたイメージが定着する危険もある。番組内では逮捕・検挙・解決の場面が多く、未解決事件や制度的課題にはほとんど触れない。結果として「警察は常に勝利する」という単純な物語が繰り返されることにもなる。
「放送を見た市民から『警察は何でもできるんですね』と言われる。でも実際には、証拠が足りずに立件できない事件も少なくない。画にならない現場の苦労は画面にはほとんど映らないよ」(前出の警察関係者)
さらに、報道機関の役割も担う放送局にとっては、警察との距離感も問題になる。番組作りを通じて警察との協力関係が密になればなるほど、「取材者」と「取材対象者」という緊張関係は保たれなくなるからだ。
「基本的に『警察密着モノ』の制作は外部の制作会社に外注しているため、取材協力を得るために報道局の記者が駆り出されたりすることはありません。ただ、視聴者にはそんな事情はわからないわけで、『警察広報番組』として認知されてしまうのは好ましくない。ある程度の"距離感"を演出することも必要になってくるのです」(前出のプロデューサー)
テレビ局と当局の思惑が絡み合って制作される警察密着番組は、今年も視聴者に消費されていくのだろう。
文/安藤海南男 写真/photo-ac.com
記事提供元:週プレNEWS
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