「ゴルファー=アスリート」を早くから見抜いたレジェンドの話【舩越園子コラム】
イチオシスト
1960年代から1970年代にかけて大活躍し、キャリアグランドスラムを達成した「南アの黒豹」ゲーリー・プレーヤーが、11月1日に90歳のバースデーを迎えたことが、世界のゴルフ界で話題になった。
PGAツアーではメジャー9勝を含む通算24勝、シニアのPGAツアー・チャンピオンズでは通算22勝、世界では118勝を挙げてきたプレーヤーの強さの根源は、若いころからたゆまず励んできた独特のフィジカル・トレーニングにある。
「今でも私の肉体年齢は、ざっと60歳というところだ」。彼のこの言葉は、決して誇張でも思い込みでもない。高齢になった昨今でも、ドライバーを振れば、240ヤードをかっ飛ばし、「これでも黄金期より30ヤードぐらいはダウンしてしまったんだけどね」と笑っている。
そんなプレーヤーが、その昔、アーノルド・パーマーから、あるアドバイスを受けたことを、先日、米メディアに明かした。「私の良き友だったアーニーは、あるとき私に、こう言ったんだ。『ゲーリー、ウエイトトレーニングなんて、やっちゃダメだ』ってね」。
アマチュアにして年間グランドスラムを達成し、後に「マスターズ」を創設した球聖ボビー・ジョーンズからも「ゲーリー、ウエイトトレーニングをすると筋肉だらけのガチガチの体になって、勝てなくなるぞ」と言われたのだそうだ。
そうした助言をまったく聞き入れず、以後もずっと厳しいトレーニングを続けているプレーヤーは「アドバイスしてくれた人はみんな亡くなった。でも(アドバイスを無視した)私は今でも元気だ」と胸を張ってみせた。
現代のゴルファーには信じられないかもしれないが、「トレーニングによって付け過ぎた筋肉によって、スイング動作が阻害される」という考え方が、一部の選手や関係者の間で信じられていた時代は、確かにあった。
1990年代、ニック・ファルドがオフ明けにマッチョな姿になって登場し、その後、不調に陥ると、「肉体改造は大失敗だった」と書き立てられた。
しかし、歳月が流れていく中で、医学や科学、テクノロジーの進歩や進化がそうした考え方は徐々に変わっていった。そして、PGAツアー入りした若い選手たちは積極的にジムに通うようになっていった。
2014年のある大会が悪天候に見舞われ、その日のプレーの中止が決まった際、デービス・ラブが仲間の選手と「時間ができたから美味しいディナーを食べに行こう」と選手用の駐車場へ向かったら、そこでリッキー・ファウラーとばったり遭遇。ファウラーはゴルフウエアからトレーニングウエアに着替え、フィットネス・トレーラーに向かうところだったそうだ。
「僕は頭をガーンと殴られたような衝撃を覚えた。僕らの世代は球を打つことこそが第一だったけど、若い選手はアスリートの肉体を作り上げつつある。時代は様変わりしていて、ゴルフにおけるトレーニングの在り方がすっかり変わっている事実を突きつけられ、とてもショックを受けた」
ラブが指摘した通り、米ゴルフ界で「アスレチックな肉体を作る」といったフレーズが当たり前のように口ずさまれ、プロゴルファーも「アスリートだ」と言われるようになったのは、せいぜい2000年代以降のことだ。
その変化は、1997年マスターズを圧勝したタイガー・ウッズが、鍛え抜かれた肉体を武器にして次々に勝利を重ねていった姿に憧れたジュニアゴルファーたちが、「僕もタイガーみたいになりたい」と言ってトレーニングを始め、その動きがゴルフ界全体に広がっていたことと無関係ではない。
ローリー・マキロイも幼少期はファルドに憧れていたが、途中から「憧れの人」はウッズに変わり、ウッズと同等かそれ以上のフィジカルトレーニングを行なって、強靭なアスレチックゴルファーへと成長していった。
そうやって、ゴルフ界におけるトレーニングの存在価値や効用は、「悪者」「不要」から大きく変わり、見直され、今では必要不可欠なものとなっている。
もしもプレーヤーが、ゴルフにトレーニングが必要であることを60年以上も前に見抜き、誰に何を言われようともトレーニングを続ける姿勢を貫いてきたのだとすれば、プレーヤーは、まさにゴルフ界の伝説の人。「レジェンド」の呼び名にふさわしい。文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
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