【#佐藤優のシン世界地図探索133】多党化した日本、政治風景の変容②
 イチオシスト
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維新・吉村氏と国民民主・玉木氏。玉木氏に訪れていた権力を獲れたという瞬間とは......?(写真:共同)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
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――多党化した日本における政治風景ですが、2009年、民主党が衆議院で過半数を奪取して自民党から政権を奪った時、佐藤さんは当時の鈴木宗男先生が開催していた「大地塾」で、「これは山の中から山賊が都に出てきた時と同じことが起こる」とおっしゃっていました。現在の状況はどうなのでしょうか?
佐藤 いや、本当にすごい状態です。滅茶苦茶になってきたと思いますよ。
――それもこれも、アメリカがヨレヨレの年寄り爺さんになったきたことに起因すると。
佐藤 その通りです。結局、高市早苗首相就任の過程における混乱も全て、アメリカが弱くなってきているのが根源ですよね。その弱体化が世界的規模の混乱に繋がっているということです。
――昔なら、高市さんが出てくることも許さなかったかもしれない。あの権力絶頂の田中角栄首相を逮捕するのに繋げた陰謀を企てた国ですからね。
佐藤 そうですね。そして、いまの自民党に関して言えば、この党がこれからも生き残っていくためには、穏健保守として第一党をキープしながら、それに賛同できる党や無所属の議員を探していくのがよいと思います。
――これ、共産党にも声をかけるのでしょうか?
佐藤 はい。共産党でも声を掛けていい法案はあるんですよ。例えば脳死法案、臓器移植とかですね。
――他の党は維新、そして、国民民主ですか?
佐藤 維新だけですよ。国民民主と両方はできません。
――それはなぜですか?
佐藤 一対一の話し合いでやっておけばいいんです。連立相手が二党になると、3人で話すことになります。するとまずは自民党と維新、それから自民党と国民、そして維新と国民と、利害関係が出てきてしまいます。
――三党連立だとややこしい利害関係が増える。
佐藤 順列組み合わせの話ですからね。そして、その利害関係は週毎に変わっていきます。
――非常に面倒くさいですね。ならば、自民・維新の二党連立の方が、はるかに調整は楽。すると、連立相手は維新だけとなる。
佐藤 はい、それで乗り切っていこうということです。
――できるんですか? 衆議院が解散総選挙になった時に、絶対不利になりませんか? 報道では、次の衆議院選で公明党と共闘しなければ、50人は確実に減ると。
佐藤 そうなるでしょうね。
――すると、立憲民主と同じように議席を減らしてしまう。
佐藤 でも、その想定は立憲民主が公明党につるまない、公明が立憲を応援しないという前提ですよね。もし、公明が立憲を応援したらもっと早いですよ。
――政権交代となる。
佐藤 そうすると、自民党が分裂するんですよ。政権交代となれば自民党の中で、負けそうな政治家はわかっているわけじゃないですか。そうしたら、高市さんの言うことを唯々諾々と従うかどうかですよね。むしろ公明との関係を現場で大切にする自民の人は出てくると思いますよ。
――その議員は自民党を辞めるのですか?
佐藤 辞めるというよりも、自民党を追い出されるまでは自民党にいるでしょうね。
――自民・維新政権に細かいヒビが入りやすい弱みはあると思います。
佐藤 はい。絶対に不利なので、当面は衆院解散をしないで頑張りますよ。だけど、来年の通常国会で立ち往生になります。予算編成ができないくらいひどい状態になる可能性もありますよ。
――アメリカみたいに政府機関のシャットダウンが起こるのですか?
佐藤 いや、日本の場合はそれを想定していませんから。
――いずれにしても、今週を乗り切っても来週、再来週とどんどんと大変になっていくのですね。
佐藤 来年になると確実にそういうことになります。
――「大阪万博は楽しかったね。日本に最後の未来を感じられた過去だね」という新しい苦難の時代が始まる。どこかの政党が過半数を取ることはありませんか?
佐藤 それは多分ないですね。包括政党(キャッチ・オール・パーティー)みたいものは無理だと思います。これからは多党化になっていくんですよ。
――参政党がさらに巨大化することはありませんか?
佐藤 参政党の伸びは抑えられるかもしれません。要するに、高市さんの自民党は参政党と一緒ですから。
意外と大変なのは、経団連だと思います。経団連は中国とのビジネスなしには成り立ちませんからね。だから、高市さんが日本の資本家と上手くやっていけるかということが重要になってきます。
――それから、高市さんは最初の試練だったトランプとの会談で、共通の言葉を見出せたと思いますか?
 
佐藤 うまくいきました。トランプの言うことを丸呑みしたうえで、ノーベル平和賞に推薦するとまでいったのですから、うまくいかないはずがありません。
――高市政権は安定するのかどうか......。
佐藤 それは難しいと思います。高市さんのように、訳が分からない人が一番怖いんですよ。
――すると、高市政権は超短期政権になりますか?
佐藤 1年はもつと思いますよ。だけど、首相の1年の壁はなかなか手ごわく、石破さんも越えられませんでした。福田(康夫)さん、麻生(太郎)さん、鳩山(由紀夫)さん、野田(佳彦)さん、菅(義偉)さんも皆、越えられなかった。だから、総理大臣にとっての1年の壁は非常に高いですね。
――全く分かりません。
佐藤 自民党の総裁任期である3年はもつかもしれません。
――次の首相は自民党内だと林芳正さんですか?
佐藤 林さんだったらいますぐにでも首相をできます。小泉(進次郎)さんはまだ準備不足ですね。
――国民民主党の玉木雄一郎党首はどうですか?
佐藤 ないと思います。例えば、ロシアのエフゲニー・プリマコフ首相は、満を持して大統領になると思われていました。ハイパーインフレだったインフレ率を3%にまで落とすなど経済再建を成功させて、国民から大きな支持を得ていました。しかし、ボリス・エリツィン大統領により失脚させられたのです。
それに対してプーチンは、エリツィンから首相に誘われて「やります」と即答しました。エリツィンはKGBの中佐くらいの軽量級とプーチンを見ていて、首相につけたんですよ。
――それがいまでもロシアトップの権力者。その長さはスターリンを越えています。
佐藤 はい。つまり、権力を取れる瞬間というものがあるんですよ。プリマコフ以外にも、チェルノムイルジン首相やアレクサンドル・レベジ安全保障会議書記など、瞬間風速でロシアの最高権力を握れる可能性があった人物は少なくないんです。
――玉木にもその瞬間があったけど逃したと?
佐藤 はい、逃しました。立憲が野党一本化を提案した時が分かれ道でしたね。立憲につべこべ言わず、あの瞬間に獲らないと。これで、次のチャンスは永遠になくなりました。
立憲の野田代表が、緊急避難的にこのタイミングで権力を取るのは玉木さんしかないと見た。維新の吉村さんはその様子を見ていて、これだったら政権交代の勝ち馬に乗れると見ていた。
だけど、玉木さんが政策のことでガチャガチャ言うから、吉村さんは「ダメだこりゃ、次いってみよう」となって自民にいってしまったわけです。
――一瞬、ドリフターズのいかりや長介が入りましたが、正しい選択をした。
佐藤 ポイントは、権力を取るということが何かがわかっていることです。それを理解しているのが、やはり自民党ですね。その昔、社会党の村山富市を首班指名して、権力を取り返しました。権力というのは、それくらいのことをして取らなければなりません。
――自民党のすごさですね。
佐藤 だから、チャンスはあって、玉木さんがその瞬間に「やります」と言えばできたんです。そのチャンスを自分で潰したんですね。
――多党化した日本の政治風景の中での権力争奪戦だったんですね。
佐藤 そういうことです。
次回へ続く。次回の配信は2025年11月7日(金)予定です。
取材・文/小峯隆生
記事提供元:週プレNEWS
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