「代表引退とは言ってない」。米サッカーリーグで挑戦を続ける吉田麻也の現在地

吉田麻也 1988年8月24日生まれ、長崎県出身。2010年からVVVフェンロ、サウサンプトン、サンプドリア、シャルケと欧州のクラブを渡り歩き、日本代表として3度W杯出場(14、18、22年)。23年にMLSのLAギャラクシーへ移籍
昨季、アメリカのプロサッカーリーグ・MLS(メジャーリーグサッカー)で10シーズンぶり6度目の優勝を果たしたLAギャラクシー。だが今季は一転、リーグ最終戦(現地時間10月18日)を残し西地区最下位に沈んでいる。
そのチームで主将を務めるのが、サッカー日本代表前キャプテンの吉田麻也だ。
不振の要因のひとつは、昨季17ゴールを挙げたエースのスペイン人MFリキ・プッチの長期離脱にあった。ケガの影響で、今季は一度もピッチに立てていない。今季の苦境について吉田はこう話す。
「レギュラー、準レギュラーの選手が何人も抜けて、スタートでつまずいたのが大きかった。ようやく形を取り戻したときには、時すでに遅しという感じでした」
昨季の優勝から一転、今季のギャラクシーはリーグワーストとなる開幕から16戦(4分け12敗)未勝利とスタートで大きくつまずいた
そんな苦しいシーズンだったが、ギャラクシーは8月末にメキシコのクラブも参加するリーグスカップで3位に入り、来季のCONCACAF(北中米カリブ海サッカー連盟)チャンピオンズリーグの出場権を手にした。
「そこはめちゃくちゃデカい。僕もケガから復帰したばかりでしたが、リスクを負って出たかいがあった。厳しいシーズンの中で、最低限の希望をつなぎ止められたかなと思います」
吉田は2023年夏、カタールW杯後にギャラクシーへ加入し、3年目のシーズンを終えようとしている。オランダ、イングランド、イタリア、ドイツと欧州の4ヵ国を渡り歩いてきたベテランは、なぜ新たな挑戦の地にアメリカを選んだのか。
「ひと言で言えば、面白そうだったから」
これまで経験したことのなかった、未知の地に引かれたのだろう。現地メディア『The Sporting Tribune』のロブ・ヤロン記者は、吉田についてこう話す。
「昨季はチームのベストプレーヤーとしてリーグ全試合に出場し、優勝に貢献した。今季はケガの影響もあり、彼のレベルが少し下がったことは否定できない。ただ調子が落ちたとはいえ、経験があり主将であることは変わらず、麻也はロッカールームでは誰より尊敬を集めている」
8月で37歳となった吉田だが、ピッチに立てば若手を鼓舞しながら守備ラインを統率。経験を生かした円熟味のあるプレーも光る。吉田自身は現在のコンディションをどう感じているのか。
「今季に関してはケガもあったし、満足できないですね。センターバックというポジションはどうしたってチームの結果が伴わないと評価されない。
MLSは、Jリーグや欧州の5大リーグ以外のリーグと比較してもレベルが劣っているとは思わない。ただ、自分のプレーに集中しながらも、チームの勝利に貢献できないと先はないですから」
37歳という年齢、欧州を離れたことで〝第一線〟から退いたと思われる向きもある吉田だが、意欲はまだ十分だ。
MLSのレベルについては常に議論の的である。しかし、盛りを過ぎたとはいえ、リオネル・メッシやルイス・スアレスといった元世界的スターを擁するインテル・マイアミですら、簡単には勝てていない。33歳になった今も韓国代表の絶対的存在として君臨するソン・フンミンも今夏LAFCに加入するなど、その水準は決して低くない。
9月、10月の代表シリーズでは、日本代表DF陣にケガ人が相次いだ。長期離脱中の冨安健洋(無所属)、伊藤洋輝(バイエルン)、町田浩樹(ホッフェンハイム)に加え、板倉 滉(アヤックス)まで欠き、主力級DF不在のまま戦わざるをえなかった。
そうした状況を考えれば、今後どこかのタイミングで吉田に声がかかったとしても不思議ではない。むしろ、過去3度のW杯出場経験に加え、次回大会の主要開催地であるアメリカでプレーしているという点で、いざというときに頼りになる存在と言えるかもしれない。
「代表引退とは言ってないし、今も試合はチェックしていますよ。僕がプレーしていたときと比べても、今の日本代表は選手ひとりひとりの経験値は格段に上がっている。
史上最強かどうかはともかく、日本サッカーが発展する以上、代表は常に史上最強でなければいけないと僕は思うし、そこはある意味当然の流れ。あとはアジア以外のW杯出場国と試合をして、どこまで戦えるかじゃないですか」
9月のアメリカ遠征で日本代表はメキシコ、アメリカを相手に1分け1敗。10月14日にはブラジルから後半だけで3点を奪い、歴史的金星を挙げた一方で、その4日前の10月10日には勝つべき相手とも言えるパラグアイと引き分けるなど、W杯出場国との試合では安定した戦いができていない。
8ヵ月後の北中米W杯は、アメリカ、カナダ、メキシコの3ヵ国共催で史上最大規模となるが、その地でプレーする吉田は、誰よりもその難しさを知っている。
チームキャプテンとして地元メディアの取材にも流暢な英語で堂々と対応する吉田。ピッチ内外で頼もしい存在であるのは間違いない
「移動と気候は本当に大きな要素。東部(マイアミ、アトランタ、フィラデルフィア、ニューヨーク、ボストン、トロント〈カナダ〉)と西部(ロサンゼルス、サンフランシスコ・ベイエリア、シアトル、バンクーバー〈カナダ〉)では時差が最大3時間あるし、中部のヒューストンやダラスなどは暑くて湿度も高い。
一方で、カナダの会場は涼しかったり、試合ごとに気候が違うのは厄介。移動距離も考えると、ベースキャンプをどこに置くかはカギになる。
前回のカタール大会はほとんど移動がなかったし、(日本代表が過去何度も試合をしてきた場所で)選手たちがピッチも気候も生活も、すべて熟知していたことが功を奏した部分もあった。今回はそれができないぶん、事前の準備がすごく重要になるでしょうね」
吉田が暮らすLAといえば現在、大谷翔平らドジャースの日本人選手が話題だ。同じ都市に暮らす日本人アスリート同士、交流があるのかと思いきや接点はないという。
「試合は見に行ったことがありますが、交流は全然ない(苦笑)。ダルビッシュ(有)さんにはたまたまホテルで会いましたけど、めっちゃデカかった。サッカー界にも、あのくらいのサイズの選手が、FWとかGKで出てきてくれたら面白いんですけどね。可能性がある選手......(鈴木)彩艶あたりじゃないですか(笑)」
代表復帰への思いについて改めて聞くと「なんて言っていいのか......」と明言は避けた吉田。だが、挑戦が現在進行形であること自体が、その答えではないだろうか。
取材・文/栗原正夫 ©LA Galaxy
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