転職から片付けまで…【決められない】を克服する“4ステップ”とは?
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イチオシスト
ライター / 編集
イチオシ編集部 旬ニュース担当
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進学、就職、転職、結婚、育児、家やマンションの購入、子どもの進路、そして老後……。生きていく上で何度も迫れる「決断」。しかし、いつも時間に追われている、情報が多すぎる、やるべきことにどうしても取りかかれないなどの理由で、なかなか「決められない」人は多いだろう。
そんな「決められない」人たちのモヤモヤや悩みを解決するための、現代人の教科書「マンガで挑戦 とっちらかった頭の中を整理して決められる人になる」(主婦の友社刊)が、メディアで話題に。
認知行動療法を専門とする臨床心理士として、「時間管理」に悩む人たちのカウンセリングを行ってきた著者・中島美鈴さんに、どうすれば「決められる」人になれるのか? 話を聞いた。
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臨床心理士が語る、現代人の「決められない」病
――中島さんは、2024年に「マンガで成功 自分の時間をとりもどす 時間管理大全」(主婦の友社)も出版しています。
まずは「時間管理」の重要性に着目したきっかけから聞かせてください。
「病院に勤務していた頃、臨床心理士としてADHD(注意欠如多動症)の方々の支援を行っていましたが、受容と共感だけでは何も解決しないと思いました。私がカウンセリングで心を癒やしたとしても、結局、患者さんたちはまた職場で叱られて家に帰り、帰れば相変わらず部屋は汚く、旦那さんには『離婚する』などと責められ、子どもの提出物も間に合わない。患者さんが全部変われなかったとしても、せめて職場にだけは遅刻しないでほしい…そう思ったことがきっかけです。
だからといって『遅刻しないように気を引き締めてください』とビシビシアドバイスするのは、あまりにも昭和すぎるし、効果もない。そこで調べたところ、そうした患者さんたちの脳の感受性に応じた訓練をすれば遅刻しなくなるということが分かり、自分で研究しようと思い立ちました」
――かつては「意志が弱い」などと精神論で片づけられてきた患者さんに寄り添うべく、勤めていた病院を辞職。大学で研究を始めたわけですね。
「先進国の中でも、とりわけ日本はその分野の研究が遅れていました。世界では、2000年くらいからオーストラリアをはじめ、アメリカ、ヨーロッパなどで研究が始まりましたが、当時の日本でのADHDの治療といえば、薬を飲むことくらい。大人の発達障害は認知度が低く、もっと治療・支援の選択が増えたら、そうした患者さんたちが生きやすくなるのではないかと、大学で研究に取り組みました」
――現在、大人の発達障害を理解しているカウンセラーは、どれくらいいらっしゃるのでしょう。
「それでも、日本では10人いるか、いないかだと思います。私が大学に移った2017年前後は、新しい分野でまだまだ研究する人が少なく、治療のガイドラインすら定まっていませんでした。少しずつ確立され、現在のカウンセラーの数になりました」
――中島さんは、九州大学大学院で本格的にADHDの集団認知行動療法に取り組み、研究論文を発表。専門的な内容を噛み砕いた一般向けの書籍を出版するように。繰り返し「時間管理」の重要性を提案しています。
「タイパ・コスパが叫ばれるようになり、時代にフィットしたものの、研究を続けるうちに『時間管理』の介入だけでは解決できない問題がたくさん見えてきました。
例えば、相談に来る方の中には、部屋が汚くて、自分でも“やらなきゃ!”と思ってはいても、片付け方が分からない。上司の文句は言うけど転職はしない、どんな職種が自分に向いているのかも分からない……。そもそも“何をするか”が決まっていない方が多い。つまり、自分で“意思決定ができない”という問題を抱える方がすごく多いことに気づいたのです」
――その気づきから、「意思決定」をテーマにした最新刊「マンガで挑戦 とっちらかった頭の中を整理して決められる人になる」が生まれたわけですね。
「ヒアリングすると、時間やスケジュールを管理する以前の段階で立ち止まっている方が多いことが分かりました。本当の問題は『時間管理』ではなく、『意思決定』。そこについての治療・支援が足りていないのではないかと考えるようになりました」

決断力を高める4ステップ「も・じ・せ・か」
――本書では、家の購入や子どもの進路など人生の決断をはじめ、ゴミを捨てられない、買う家電を決められない、付き合いを上手く断れないなど、日々生じる小さな決断について取り上げています。どうすればいいのか分からず先延ばしにしたり、手をつけ始めても途中で挫折したりと、モヤモヤを抱えている人たちをフィーチャー。「意思決定」のプロセスを読者に分かりやすく伝えるため、その頭文字を取って“も・じ・せ・か(文字にすれば世界が変わる)”というステップで提案しています。
も……問題の明確化
じ……情報収集
せ……選択肢の作成
か……価値判断
「心理学の分野では、意思決定のプロセスとして、正式には7つのステップがありますが、これを簡単にしました。『自分で自由に決めていいよ』と言われる現代では、決める方法を教えてあげないと、皆さんとっちらかってしまうので、日常生活において頭の中を整理するのに必要な4つのステップに絞りました。
カウンセリングや講演・研修で使っているこの4つのステップで頭と心を整理していくと、自分の中で選択の基準が生まれ、状況に合わせた意思決定ができるようになります」
――ステップ1の「問題の明確化」。これは、すぐにでもできそうですが……。
「そう思いがちですが、簡単なようでこの段階でつまずいている方が圧倒的に多い印象です。部屋が片付かないというのも、すごくキレイに掃除しようとしているのか、散らかったままでいいと思っているのか、それとも旦那さんが片付ければいいのと思っているのか……そもそも、自分で動くつもりがない人もいます。
または、部屋を片付けたい、仕事が合わないので転職したい、毎日を変えたい……と言いながら、ソファの上でスマホばかり見ている人も。問題を認識していても、解決のために何も動かずにいれば、それはただのグチであって、決してゴールには近づけません。
どんな自分になりたいのか、どんな生活がしたいのか、目指すゴールを決めて逆算することが必要です」
――高校時代の大谷翔平選手が目標達成のために作っていた“マンダラチャート”のようなものをイメージして、実際に行動に移すことが大切だと。
「目標シートは、私も毎年1月2日に付けています。真ん中に“1年後になりたい自分のイメージ像”を思い描き、その周りに1年後になりたい姿や心の状態、仕事や生活など8つの目標を書き込んでいく。どんな些細なことでも、それが自分の“好き”に近づくステップとなり、それまで漠然としていた夢が可視化されます」
――“書き出して可視化すること”が重要なのですね。
「熟慮して片っ端から書き、目でフォーカスしながら思考をまとめることは、とても大切。スケジュール帳などもそうですが、ペンで色分けするのもオススメです。
問題を明確化していく過程もこれと同じで、まずは問題が何かを自覚し、問題が解決した先にあるゴールをイメージする。これができて、初めて次のステップへ進めます。
本には、簡単に書き込めるワークシートも付いているので、ぜひ1度トライしてみてください」
――スマートフォンが普及して以降、情報量の増加により、選択肢が膨大になっています。ステップ2の「情報の取集」でつまずく人も多いのでは?
「情報過多になった結果、収集する段階で迷子になってしまったり、自分が何を大切にしたいのかが分からなくなったり、さまざまな形で思考停止する方が増えているように感じます。
適切な決断を下すために情報収集は必要ですが、情報の海でおぼれてしまう可能性も。そうならないためにも、例えば部屋を片付けたいなら、自分が何をどれだけ持っているかを確認し、捨てるか捨てないかの選択肢を作成(もじせかの“せ”)する。必要なのは“自分についての情報収集”です」
――今は着ないけど、昔バイト代を貯めて買った思い出の服だし、デザインも時代によって1周するし……などと考えると、クローゼットの片付けだけでもひと苦労です。
「洋服を処分する際は、痩せたら着る、いつか使うなど“未来の自分を信じない”こと。自分にとっての価値(思い入れ)と、その物自体の価値(売ったらいくらになる)も比較・検討してください(もじせかの“か”)。おそらく、クローゼットにある最近着ている洋服以外はほとんど処分できるはずです。
片付けに関しては、ゴミ出しの日に、いらないと判断したものを処分するのも有効です。最初は、45リットルのゴミ袋の空いた部分に入る分だけ捨てる……そこから始めてみましょう」
――行楽の秋になりましたが、旅先を選ぶ際、情報の海でおぼれてしまう人も多いと思います。
「まずは“行き先・日程・メンバー・予算”を決めてから情報収集しましょう。そこが逆転してしまうとなかなか決められません。必要なのは、“どこで・誰と・どんなことをしたい”か。ここでも、まずは“自分についての情報収集”です。
ネット社会で全部の情報を比較することは不可能ですし、あなたの検索時間は有限です。買い物をする、旅行をする際は、ほどよい10個くらいの検索サイトに絞り込むところから始めてみてはいかがでしょう」
10月6日(月)正午に公開する後編では、「意思決定」に必要なものは何か、人生の決断力を高める「価値観」の見つけ方についても話を聞く。
▲「マンガで挑戦 とっちらかった頭の中を整理して決められる人になる」(主婦の友社刊)【中島美鈴 プロフィール】
1978年福岡県生まれ、臨床心理士。公認心理師。心理学博士(九州大学)。
専門は時間管理とADHDの認知行動療法。
肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部などの勤務を経て、現在は中島心理相談所 所長。ほかに、九州大学大学院人間環境学府にて学術協力研究員および独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター臨床研究部非常勤研究員を務める。
著書に『ADHDタイプの大人のための時間管理ワークブック』(星和書店)、『ADHD脳で困ってる私がしあわせになる方法』『マンガでわかる精神論はもういいので怒らなくても子育てがラクになる「しくみ」教えてください』『マンガで成功 自分の時間をとりもどす時間管理大全』(以上主婦の友社)『脱ダラダラ習慣!1日3分やめるノート』(すばる舎)など、本書を含めて全55冊がある。
時間管理の専門家としてNHK「あさイチ」の出演や、朝日新聞でのコラム連載やセミナー講師など多方面で活躍している。
(取材・文/橋本達典)
記事提供元:テレ東プラス
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