ヤクルト絶好調! 連勝中に痺(しび)れた「配球」を振り返る【山本萩子の6-4-3を待ちわびて】第177回
ヤクルトの連勝について語った山本キャスター
8連勝です。ヤクルトが元気です。おかげさまで、私も元気です。
ケガ人が続出した前半戦、その穴を埋めるべく戦ってきた選手たちの、これまでが実を結ぶような躍動。村上宗隆選手の復帰後初打席での本塁打、そして山田哲人選手の球団新となる305号。先発投手が試合を作り、リリーフが安定して抑え、接戦をモノにする。好守備も好走塁も多く、プレイボールの時間が楽しみになる2週間でした。
4連勝目となった7月21日の広島戦。レフトポール直撃の逆転サヨナラ弾を放った赤羽由紘選手は、お立ち台で「今のスワローズにはひっくり返す力がある」と力強い言葉を口にしました。ビハインドでも窮地に立たされても、なんだか大丈夫な気がする......。スタンドや中継で見ているファンすらも、なぜかそれを感じてしまうほどでした。
この日の試合は、6回の表が終了した時点で5点を追っていたのですが、その裏に山田選手の2ラン、7回にも赤羽選手のタイムリーで、じわじわと追い上げる好展開に。一方でリリーフ陣は、たびたび得点圏にランナーを進めながらも無失点で切り抜け、空気は徐々にヤクルトのものになっていました。
劇的な幕切れの直前、9回の表にその空気感は最高潮に達したように感じました。理由は3つ目のアウトの奪い方です。今回はそのシーンの「配球」に着目して、その勝負をじっくりと振り返って余韻にひたりたいと思います。
この回からマウンドに立ったのは、現役ドラフトで移籍後、古巣・広島から初勝利を挙げることになる矢崎拓也投手。受ける捕手は、この日スタメンからマスクをかぶり続ける古賀優大選手でした。
先頭の右打者・二俣翔一選手に対し、得意のストレートとフォークを使った組み立て。3ボール1ストライクからストレートを弾き返され、二塁打を許します。ノーアウト二塁。
続く左の林晃汰選手に対して、同様にフォークとストレートで組み立てながら、決め球フォークで空振り三振。さらに右の石原貴規選手に対しては、最後は外角寄りのストレートで、2者連続三振を奪います。
続く代打・右のモンテロ選手は、3ボール1ストライクと不利なカウントから、膝もとへのフォークを投じ空振りで3-2。もういちど同じところにフォークを続けスイングを誘いますが、見送られ四球を許してしまいます。
2アウト二塁一塁で迎えるは、広島の1番打者、大盛穂選手です。この日すでに2安打を放ち、結果だけでなく打席の内容も光っていました。コーチ・内野陣もマウンドに集まり、仕切り直して投じたのは全部で4球。1球ずつ見ていきましょう。
私も神宮で連勝を見届けることができました。
【初球:外角低めのフォークで空振り】
入りは同じ左打者である林選手への1球目と同じように、外のフォークで空振りを奪います。大盛選手も狙って強いスイングをかけていきますが、バッテリーの狙い通りで、0ボール1ストライク。
次のサインに矢崎投手は小さく二度頷きます。
【2球目:外角高めのストレートを見送ってボール】
外に構えた古賀選手。少し高めに147キロのボールが外れます。1ボール1ストライク。次の1点を絶対に与えたくない場面。外角を中心に、ここもやはり持ち味である、フォークとストレートで組み立ていくのでしょうか。
外野は前進守備。矢崎投手はここも首を縦に振ります。
【3球目:内角高めのスライダーを見逃してストライク】
ここが勝負の分かれ目だったと思います。選択したのはまさかのスライダー。この日は右の石原選手に対してのみ、外角を中心に逃げていくボールを繰り返し投じていました。
投球直前、古賀選手が構えていたのは外。いわゆる"バックドア"を狙ったのでしょうが、逆球でインコースに入ってきます。一見ドキッとするようなボールでしたが、意外性があったのか、大盛選手のバットは出かかって止まります。
ここで古賀選手が一度立ち上がって間を取り、矢崎投手に何か視線で伝えているようにも見えました。
カウントは1-2。大盛選手は追い込まれてからの粘りに定評のある選手。さあ次が結果球です。カウント1ボール2ストライクと追い込んでから、バッテリーが選択したのは......。
【4球目:外角いっぱいのストレートで見逃し三振】
痺れました。狙ったところに投じられた渾身の1球は糸を引くようなストレート。スライダーで意表をつき打者を惑わせてから、さらにフォークではなく、外ズバのストレート。この日の中継で解説をされていた、ヤクルトの捕手の先輩である西田明央さんも、このリードを大絶賛していました。
古賀選手のリードと、それに応える矢崎投手のピッチング。マウンドを降りる矢崎投手の表情こそ変わらずクールなままでしたが、見ているファンとしては、盛り上がりとサヨナラ勝利への期待が最高潮に達した瞬間でした。
今季は打棒での活躍も目立つ古賀選手ですが、盗塁阻止率は他に大きく差をつけて12球団トップ。一塁や三塁へのピックオフプレーも得意で、どんな体勢からでも送球できる強肩も大きな魅力ですが、最近はリードが光るシーンも増えています。
解説者の方々にお話を聞くと、中村悠平選手のリードは「すごい」と口を揃えます。その背中を間近で追ってきた古賀選手。ケガから復帰した9年目の今シーズンはますます期待が高まりそうです。
ということで、配球には野球や勝負の奥深さが詰まっているとあらためて感じた9回の攻防でしたが、その時のハラハラドキドキが少し伝わったでしょうか。マニアックなテーマにお付き合いいただき、ありがとうございました。
それではまた来週。
構成/キンマサタカ 撮影/栗山秀作
記事提供元:週プレNEWS
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