ロス五輪出場を目指す"ボンバーヘッド"の娘。女子ラクロスのエース・中澤ねがいを直撃!
中澤ねがい 2003年生まれ、神奈川県出身。2歳年上の姉の影響で中学からラクロスを始め、高校卒業後の23年に米ルイビル大学に進学。NCAA最高峰のD1でプレーするなど、28年ロス五輪に向け日本代表の中心選手として期待される。ポジションはMF
「120年ぶりの五輪正式種目入りが決まったときは、うれしいと同時に『やってやるぞ』と気合いが入りました! 今はアメリカの大学でプレーしているので、この経験を生かしてロス五輪ではメダルを狙いたい。そして将来は日本のラクロス界を引っ張っていけるような存在になれたらと思っています」
こう話すのは、元サッカー日本代表の守備の要〝ボンバーヘッド〟こと中澤佑二氏(元横浜FMほか)の次女、中澤ねがい(21歳)。現在はラクロスの本場アメリカのルイビル大学に所属しながら日本代表の主力としてもプレーしている。
今年1月にはアジア・パシフィック選手権で5試合7得点の活躍で優勝に貢献。8月7日に中国・成都で開幕するワールドゲームズでも2歳上の姉こころと共に代表入りし、チームの中心としての活躍が期待されている。
「姉とは中学、高校、大学と同じチームでしたが、シニアの代表で一緒にプレーするのは初めて。すごく楽しみですし、ふたりのコンビネーションでチームの勝利に貢献できたら最高ですね」
6月14日にはワールドゲームズに向けた国内での強化試合で、日本代表はイギリスに13-7で勝利。その試合でも中澤は、チーム最多の4点を挙げた姉こころに次ぐ3点を挙げるなど、姉妹で攻撃をリードした。
「チームの中で海外選手と一番対戦してきたのが私たち。ポジションは私が中盤(MF)で、姉はアタック(AT)。自分的にはもっとゴールを狙いたいのですが、得点力は姉にかなわないので(笑)。ここぞというときは迷わずパスを出すようにしています」
ラクロスは「クロス」とも呼ばれる網のついたスティックを使い、素早くボールをパスしながら敵陣ゴールへのシュートを狙うスポーツ。実際に体験したことはなくても、見聞きした人は多いだろう。そのラクロスを語る上で少し複雑なのは、大会によって競技を行なう人数が異なることかもしれない。
「私が普段アメリカでプレーしているNCAA(全米大学体育協会)は12人制。来年日本で開催される世界選手権は10人制で、ワールドゲームズやロス五輪は6人制なんです。
12人制と10人制はフィールドの大きさはほぼサッカーと一緒。でも6人制はそこまで大きくなく、狭いスペースでの戦い。私はスペースの広い10人制や12人制のほうが得意なんですけどね(苦笑)」
それでも冷静に見れば、より日本に勝機があるのは6人制だと中澤は分析する。
「12人制と10人制は、得点が入るとドローというバスケのジャンプボールみたいなプレーで試合が再開されます。それだと高さやフィジカルで劣る日本は分が悪い。
一方、6人制は得点後にゴーリー(サッカーでいうGK)からのリスタートになり、攻守の切り替えが武器の日本にとってはより戦いやすいと思っています」
ラクロスはアメリカとカナダが世界の2強。そこにオーストラリアとイングランド(ワールドゲームズや五輪にはイギリスとして出場)が続き、近年は日本も力をつけてきているとされる。
中澤は2024年にU20世界選手権に主将として出場し日本を3位に導いたほか、日頃からレベルの高いNCAAでプレーするなど経験値はチーム随一を誇る。
「海外には身長が高く、フィジカルも強く、足の速い選手も多いので対峙するのは簡単じゃない。でも、普段からレベルの高い選手たちと対戦していることで、私自身は国際試合でも余裕を持ってプレーできていると感じています」
ロス五輪出場につなげるためにも、まずはワールドゲームズで手応えをつかみたい。
「そのためにはプール戦で同居するカナダ、イギリスに勝つこと。特に初戦がカナダ戦(8月7日)なので、そこに集中したいと思います」
ロス五輪のレギュレーションなどは未定だが、中澤(左)は「ワールドゲームズで結果を出すことが、ロスにつながるはず」と話す
父親がサッカー選手だったことで幼少期からサッカーに慣れ親しんでいたという中澤だが、なぜサッカーではなくラクロスの道に進んだのか。
「小さい頃はサッカーをやりたくて、ボールを蹴ったりしていました。でも、才能がなかったのか、続かなくて(苦笑)。ラクロスを始めたのは、中学に入ったタイミングで姉がやっていたことがきっかけでした。私は陸上をやりたい気持ちもあったんですけどね」
大きな転機は大学1年時に28年ロス五輪でのラクロスの正式種目入りが決まったことだったのだろう。ちなみに、父の佑二氏は娘たちがラクロスに打ち込む姿に刺激され、自ら競技を学び、今では指導者ライセンスを取得し、横浜国立大学でコーチを務めているほどだ。
「日本に帰ってきているときは、父とも時間があったらいつもラクロスの話をしています。私と姉は、どうしても選手目線になってしまいますが、父は客観的な視点で話してくれる。選手じゃないからこそ気づくこともあるみたいで新鮮です」
当初はラクロスのルールすら知らなかった父が、今では細かい動きや戦術にまで理解を深めているとはいえ、ラクロス選手ではなかった人から何か言われることに抵抗はないのか。少し意地の悪い質問をすると笑ってこう返した。
「それは全然ないです(笑)。父も最初は〝ただの保護者〟みたいな感じで見てただけですけど、今では〝ラクロスの指導者〟ですからね」
今もサッカーはよく見る。プレーに影響を受けた選手も少なくない。
「常に味方や敵を把握しながらプレーするのは、サッカーもラクロスも似ています。最近注目しているのは三笘 薫選手。ボールを持ったときの〝何かやってくれそう感〟がすごい。
MFとしては中村俊輔さん(元横浜FMほか)の〝ロマン〟あるプレーが好きでした。小さい頃、よくスタジアムで見ていたんですよ。自分もあんなふうに周りに〝期待される存在〟になれたらうれしいですね」
ひょっとするとロサンゼルス五輪では中澤姉妹だけではなく、父・佑二氏がコーチ入りし〝親子共演〟なんてこともあるかもしれない。
「父も本気で〝ロス五輪のコーチ〟を狙っているはず(笑)。実現したらうれしいし、これほど心強いことはないだろうと思います」
取材・文/栗原正夫 写真/アフロ 写真提供/日本ラクロス協会
記事提供元:週プレNEWS
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