強さの秘訣から選手の素顔まで。林陵平が語るプレミア王者リヴァプールの魅力【明治安田Jリーグワールドチャレンジ2025 presented by 日本財団】
いよいよプレミア王者のリヴァプールが来日しますね! チームとしては2005年FIFAクラブワールドカップ以来20年ぶり、プレシーズンでは初めての来日となります。彼らは昨シーズンのイングランド・プレミアリーグで優勝した素晴らしい完成度を誇るチーム。ワールドクラスの素晴らしい選手たちが注目度の高い中で来てくれることは、日本のサッカーファミリーにとって非常にありがたいことです。このオフにディオゴ・ジョタ選手が交通事故で急逝されてしまった件はすごく悲しくて残念でしたが、選手たちは気持ちの切り替えが難しい中でも前を向いてプレーしてくれるでしょうし、今シーズンはジョタのために──という想いで戦ってくれるのではないかと思っています。
ということで、今回は世界最高峰のサッカーを展開するヴァプールの魅力について、いろいろとお話ししていきたいと思います。サッカーの話題からオフ・ザ・ピッチの小ネタまで様々な注目ポイントについて紹介していきますので、ぜひお楽しみください!
[リヴァプール、ここがすごい!]
まずはリヴァプールのサッカーから紹介していきますね。強い強いと言われますけど、何が強いのか。その強さを一言で表現するとしたら、とにかく何でもできるチームということです。
サッカーには4つの局面があります。1)攻撃、2)守備、3)攻撃から守備の切り替え、4)守備から攻撃の切り替え。その4局面すべてが本当にハイレベルなんです。さらに攻撃と守備という観点から見ていくと、攻撃ではビルドアップして後方からボールをつないでゆっくり攻めることも、カウンターで鋭く攻めることもできます。そして守備では前線からプレッシャーを掛けるハイプレスも、状況に応じてブロックを作ることもできる。自分たちのやり方、スタイルがある中でも状況に応じて戦い方を変えられるチームなんですね。どんな相手にも対応できるし、自分たちのストロングポイントを出しながら、相手の良さを消すこともできるという強さがあります。
この柔軟性は、昨シーズンから就任したアルネ・スロット監督の影響を大きく受けています。ユルゲン・クロップ前監督は、ボールを持ちながらゲームをコントロールすることをそこまで求めず、縦に速くゴール方向に進んだり、守備でも積極的にプレスを仕掛けてゴールに近い位置でボールを奪うことを大事にしていました。でも、スロット監督になってからはボール保持にも重点を置くようになったので、自分たちがボールを持ちながらゲームをコントロールすることもできるようになりました。まさに理想的なチームへと進化した形です。
[新シーズンの注目ポイント]
スロット監督就任1年目の昨シーズン、補強はドミニク・ショボスライくらいでしたが、2年目の今シーズンは指揮官が求める選手を獲得できている印象です。圧倒的なスピードを持つ右サイドバックのジェレミー・フリンポン、正確なキック精度を武器とする左サイドバックのミロシュ・ケルケス、そしてプレミアリーグ史上最高額の約220億円という移籍金で獲得したアタッカーのフロリアン・ヴィルツ、さらに直近では昨シーズンのブンデスリーガでベストイレブンに選ばれた23歳のストライカー、ウーゴ・エキティケも獲得したという報道がありました。新加入選手を一人ひとり見ても面白いですし、若くて才能に溢れた選手たちが加わっています。
基本的な戦い方は昨シーズンとは変わらないと予想していますが、サイドバックの役割は昨シーズンから変わりそうな予感がしています。これまでは右サイドバックにトレント・アレクサンダー=アーノルド(今シーズンからレアル・マドリーへ移籍)が“偽サイドバック”という内側のポジションを取ることが多かったんですが、右にフリンポン、左にケルケスが入った場合、そこまで内側のポジションを取る形にはしないんじゃないかなと。新シーズンの最終ラインは基本的に4枚の形を保ったままサイドバックが上下動しながら攻撃にどう絡んでいくかになると予想しています。もしくはケルケスが少し中に入って、フリンポンがすごく高い位置を取る右肩上がりの形になることもあると思うので、昨シーズンとはまた違う味が出てくるのではないかなと注目しています。
スロット監督は選手のキャラクターを把握した上で戦術を考えるタイプの指揮官。もちろん自分のスタイルはありますが、それが選手に合わなければやらせないですし、今シーズンは新たな戦術が見られるんじゃないかという楽しみがあります。普通に戦えばプレミアリーグ連覇の可能性は高いですし、UEFAチャンピオンズリーグでも優勝候補の筆頭。それくらいの強さを誇るチームだと思っています。

[林陵平が選ぶ注目選手5選]
リヴァプールと言えば、すさまじい決定力を持つモハメド・サラー、センターバックに必要な資質をすべて兼ね備えているフィルジル・ファン・ダイクなんですが、彼らは当たり前に注目するとして、ここではそれ以外の5選手を挙げていきたいと思います。
○ジェレミー・フリンポン(24歳)
レヴァークーゼンではシャビ・アロンソ監督(現レアル・マドリー監督)の下でプレーしていたので、戦術的な部分はしっかり学んできていると思います。だからスロット監督のフットボールにもすぐにフィットするんじゃないかな。何より彼の最大の特長はスピード。サイズは決して大きくないですけど、とにかくめちゃくちゃ速い。縦関係になるサラーも強烈なスピードを持っているので、右サイドのコンビは新幹線よりも速いかもしれないですね(笑)。タイプで言えば“キュンキュン系”。ドリブルにもオフ・ザ・ボールの動きにもキレがあるからキュンキュンと抜いて、ぶっちぎれて、違いを作り出せる選手です。
○ミロシュ・ケルケス(21歳)
昨シーズンはボーンマスでシーズンを通じて安定したパフォーマンスを見せていました。ケガをしないし、とにかく上下動できる、まさに“ハードワーカー”と言える選手です。古き良きサイドバック感があって、縦にどんどん行けて、キックが本当に上手いので、彼の左足のクロスにはぜひ注目してもらいたいです。守備では一対一の対人能力が非常に高い。すごく安定感のある選手です。
○フロリアン・ヴィルツ(22歳)
とにかくサッカーがうまい。線は細いけど、相手に触られないような動きをします。ひらひらと蝶のように舞う動きで常に相手をいなして、予想できないようなプレーで魅せてくれる選手です。立ち位置もすごく良くて、常に相手の重心を見ながら逆を取る。ボールタッチもすごく柔らかくて、テクニックも相当レベルが高い。それでいてスペースがない中でも決定的な仕事ができます。頭でイメージしたことをプレーで具現化できる選手なんでしょうね。サッカーIQは間違いなく高いけど、どこか“ストリート感”のある選手なのも面白いですし、トップ下、左サイドに加えてゼロトップもできるユーティリティー性も魅力です。背格好では日本人選手のお手本になるかなとも思いますが、うますぎて参考にならないレベルの選手。昨シーズン在籍したレヴァークーゼンでは2シーズン連続で2桁ゴール、2桁アシストを記録しました。まだ22歳の若さですし、約220億円という移籍金も納得です。
○ライアン・フラーフェンベルフ(23歳)
日本ではあまり知られていない選手かもしれないですけど、スロット監督が率いるチームで中盤のカギを握る選手です。ビルドアップでボールを引き出す役割を担って後ろと前をつなぐ選手で、彼にボールが入ったところから攻撃が始まります。まずはターンからのドリブルで前へ持ち運ぶプレーに注目してみてください。ボランチというポジションは360度からプレッシャーを受けるのでボールを受けて前を向くことが一番難しいポジションなんですが、その中でいとも簡単にターンして前を向ける。サイズも推進力もある素晴らしい選手です。
○遠藤 航(32歳)
監督やチームメイト、ファン・サポーターからすごく信頼されている選手です。プレミアリーグでスタートから試合に出ることは簡単ではないですけど、途中出場でゲームをしっかりとクローズさせたり、最後にチームを引き締めたりする役割を担っています。ピッチに立ったときにプレーを間違えず、求められている役割を体現できる選手ですね。試合でも自分のエゴを出さず、しっかり我慢してチームのために戦う姿勢が周囲から強く信頼される理由だと思います。リヴァプールに在籍して途中出場でも戦力になっていることだけでもすごいし、何よりクラブの一員としてトレーニングを積んでいるだけで成長できる。新シーズンも大きく役割は変わらないとは思いますが、チームのために戦い、ゲームを締めるところに注目していきたいです。その上で日本代表で見せるような勝負強さ、ゴールやアシストも楽しみにしたいと思います。
[オフ・ザ・ピッチの素顔]
ここで少し選手やチームの小ネタを紹介しておきますね。まず、サラーはいつも筋トレの鬼。チームメートがオフにバケーションの様子をSNSにアップしているときでも、ジムでトレーニング中の写真を撮ってるくらいです(笑)。やっぱりここまで活躍するにはそれ相応の理由があるんだと思います。トレーニングの虫であり、プロの鑑。シーズン中も誰よりも早くクラブハウスに来て、トレーニングをしているらしいですから。イブラヒマ・コナテは日本のアニメが大好きで、特に『進撃の巨人』の大ファンみたいです。彼のゴールパフォーマンスは作品中に出てくる「心臓を捧げよ!」と叫びながら、左胸に右手を当てるポーズ。実は今回の来日を誰よりも楽しみにしているんじゃないかとも思います。リヴァプールの公式Instagramではトレーニングに来る選手たちの私服姿を投稿しているんですけど、ファン・ダイクはいつもおしゃれ。いろいろな種類の服を着ているし、彼のInstagramもユニークなので、ぜひチェックしてもらいたいです。
あと、個人的な話ではありますすが、スロット監督は一番大好きな監督で、個人的に目標にしている監督でもあります。フェイエノールトを率いていた2023-24シーズンのUEFAチャンピオンズリーグを観て、めちゃくちゃいい監督だと思ってからずっと注目していました。2024年2月に刊行した『林陵平のサッカー観戦術』にも“スロットはすごい監督になる”と書いていましたし、マネジメントがすごくうまくて戦術的な引き出しも多い。リヴァプールでもいきなり結果を残したことを考えると、やはりいい監督でしたね。僕の見る目は間違っていなかった(笑)。何よりスロット監督の一番優れているところは修正力。立ち上がりの5分間でも「違う」と思えば、すぐに修正してきます。今シーズンもいろいろな形を見せてくれることを楽しみにしています。
今回の「明治安田Jリーグワールドチャレンジ2025 presented by 日本財団」は、プレミアリーグ王者の試合を観られる貴重な機会。このゲームを観ない理由はないでしょうし、チケットは完売と聞いているので、すごく盛り上がると思います。この横浜F・マリノスとの一戦はLeminoでも無料ライブ配信されるので、多くの人に観てもらって、ぜひプレミアリーグの面白さ、サッカーの魅力を感じてもらいたいですね。僕もすごく楽しみにしています。
※データは2025年7月25日現在。
取材・構成=須賀大輔
写真=青山知雄
<試合情報>
明治安田Jリーグワールドチャレンジ2025 presented by 日本財団
横浜F・マリノス vs リヴァプールFC(イングランド)
日時:2025年7月30日(水)19時30分キックオフ
会場:日産スタジアム
試合配信:にて無料ライブ配信
【制作・編集:Blue Star Productions】
記事提供元:Lemino ニュース
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。