北半球に"早すぎる夏"が到来!! スイスでは氷河が崩壊し、村が土砂にのみ込まれ......日本も世界も バカ暑いけど、地球はもう限界なんですか!?
スイスで発生した氷河災害は、日本における地震のような存在。いつかは来る前提で、備えておくべきものとして認識されている
猛暑にもだえているのは日本だけじゃない。"早すぎる夏"が北半球を襲う中、スイスでは氷河が崩壊して村が埋没。とうとう地球温暖化は目に見える形で各地に現れ始めているみたいだ。このままいけば日本も水没の危機に!?
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■スイスの氷河の1割が数年で消失!「え、夏ってこんなに早い時期から暑かったっけ......?」とぼやきたくなる酷暑が、もう日本列島を包み込んでいる。しかし、〝早すぎる夏〟は日本に限った話ではないようだ。
6月の時点で、スペインやポルトガルの一部では最高気温が45℃に達し、イタリアやフランスでも40℃を超えるなど、ヨーロッパ全域が歴史的な猛暑を記録。北半球各地が強烈な熱波にもだえている。
その影響はアルプスの氷河にも。5月28日、アルプス山間部にあるスイスのブラッテン村で、ビルヒ氷河の崩壊により大規模な地滑りが発生。村人は事前の警告で避難していたため大きな人的被害は出なかったものの、一瞬にして村の約90%が埋没するという甚大な被害をもたらした。
(上)5月23日のブラッテン村。(下)同29日の様子。氷河の崩壊で発生した大規模な地滑りにのみ込まれた
「こうした山岳氷河の崩壊は、地球温暖化の影響を最も直接的に受ける災害リスクのひとつです」と語るのは、氷河学の専門家で、氷河の変動メカニズムなどを研究している北海道大学北極域研究センター・低温科学研究所の杉山 慎教授だ。
「氷河とは、陸上にできる巨大な氷の塊のこと。何年もかけて積もった雪が圧縮されて氷になり、それが自重でゆっくりと動く。それが〝氷の大河〟のように見えることから『氷河』と呼ばれています。
ちなみに、地球上の氷河の約90%は南極大陸を覆う『南極氷床』で、残りの大半はグリーンランドを覆う『グリーンランド氷床』。これらの氷河は、陸地を〝床〟のように広く覆っているため、『氷床』と呼ばれています。
一方、全体のわずか1%に過ぎないのが、今回の崩落災害を起こしたような『山岳氷河』。標高や緯度の高い地域に点在する小規模な氷河ですが、実は今、地球温暖化の影響でこの山岳氷河が急速に融けており、周辺地域で災害リスクが高まっているのです」
どのような災害リスクがあるのだろうか。
「ひとつ目のリスクは、今回のような地滑りや土石流です。先ほど氷河は動くと言いましたが、目に見える速さではなく、1~数十㎝ほどを、長い時間をかけてじわじわと動きます。そのため、氷河の形の変化も通常はゆっくりとしています。
ゆっくりと氷河が後退すれば、周囲の地形もそれに合わせて対応できるのですが、スイスではここ数年だけで氷河の10%近くが消失したといわれています。その速度に地形が追いつけず、不安定なまま取り残されているのです。
私は毎年、大学院生と一緒にスイスの氷河を訪れていますが、氷が消えた後の斜面は、氷河に削り取られた石や岩がむき出しになっていて、とても不安定なガレ場です。落石や崩落がいつ起きてもおかしくない危険地帯があちこちにでき始めています。
もうひとつ、特にヒマラヤの山間部などで懸念されていのが『氷河湖の決壊』です。氷河が融けて後退すると、その跡地には大きな窪地が残ります。そこに氷河の融け水がたまっていくと、山あいの谷に天然のダムのような『氷河湖』ができるのです。
この氷河湖が決壊し、たまった水が一気に流れ出すことで下流に深刻な洪水や土石流を引き起こす。それが『GLOF(氷河湖決壊洪水)』と呼ばれる災害です。ネパールやブータン、インド北部など、ヒマラヤ山脈に連なる地域でこのリスクが高まっています。
例えば、エベレストの麓にあるイムジャ氷河湖では、水位の上昇を抑えるための人工的な排水工事も行なわれています。
ただし、アルプスと比べると、ヒマラヤは険しい地形や資金面の問題から、監視体制や安全対策が整っていない地域が多いのが現実です。しかも、下流には人口の多い地域が点在しており、ひとたび決壊すれば、大規模な災害につながる危険もあるのです」
過去40万年の地球の気温と二酸化炭素量 氷床コアから解析された古環境のデータ。気温と二酸化炭素量が10万年周期で上昇と降下を繰り返している(出典/Petit and others、1999)
氷河の崩壊、各国を襲う猛暑......。歴史的に見ても異常事態だと思うんですけど、地球はもう限界なんですか!?
「南極の氷床などから掘り出した太古の氷(氷床コア)の分析で、過去40万年の地球環境の変化を復元すると、地球はおおむね10万年周期で寒い時期と温暖な時期を繰り返しています。
そのサイクルを見ると、直近では約2万年前にとても寒かった時期があり、私たちの祖先は、今よりも気温が8~10℃も低い世界に暮らしていました。そこから2万年で気温は急上昇し、相関する形で大気中の二酸化炭素濃度も上昇しました。
ただし、『今の急激な地球温暖化はこうした大きな気候変動サイクルの結果であって、人類の活動は無関係だ』と考えるのは間違いです。
この2万年での気温上昇が約8℃なのに、直近の約100年で地球の平均気温は1℃も上昇し、大気中の二酸化炭素濃度も過去40万年で経験しなかったレベルに達している。つまり、10万年周期で起きる地球規模の気候変動のサイクルを人類の活動が〝狂わせてしまった〟可能性があるわけです」
■氷河融解の影響は日本の足元にも日本が気にしなければならないのは気温だけではない。
「実は、ここ100年くらいで海水準が20cmほど上昇しているのですが、その半分は氷河の融解が原因です。当たり前の話ですが、長年、氷として陸上にあった水が海へ流れ出しているためです。
この先も気温上昇によって氷河が融けることは確実視されていますが、特に巨大な南極氷床の融解が進めば、海水準の上昇ペースは一気に早まる。それは、遠い日本にも直接的に影響を及ぼします。
仮に南極氷床の融解が進み、2100年には海水準が今より1.5m上がるというワーストシナリオなら、東京でも海抜が低い地域が広範囲に水没することになりますから」
勘弁してほしいこの暑さ。でも、我慢の限界なのは人間より地球のほうかもしれない。
取材・文/川喜田 研 写真/時事通信社
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