ブルース・リー、ジャッキー・チェン、サモ・ハン……「スタントマン 武替道」は香港アクション映画の黄金時代の夢を見る
『キネマ旬報』8月号(7月18日発売)では「スタントマン 武替道」(7月25日公開)を特集。“東洋のハリウッド”と呼ばれた80年代の香港映画で肉体を躍動させたスタントマンの人生・魂を見つめた、アルバート・レオン&ハーバート・レオン監督のロングインタビューを掲載。この映画に映画評論家の宇田川幸洋は80年代への半端ないリスペクトを感じ、江戸木純は‟映画を愛する者にとっての天国”だった香港を振り返る。さらに池袋コミュニティ・カレッジで開講中の暉峻創三『大アジア電影燦爛』を訪問。香港と香港映画に首ったけの受講生たちに、最近魅せられた作品をおしえてもらった。
ここではその特集から、アルバート・レオン&ハーバート・レオン監督のインタビューの一部をお届けする。

ルイス・クー、サモ・ハンら‟レジェンド”と若手実力派が競演。いまはなき巨大スラム街・九龍城砦で死闘をくり広げる──80年代の黄金期もかくやという熱量を爆発させた「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」の現地での記録的ヒットが、日本にも転火。1/17の公開から17週目に累計興行収入5億円の快進撃を見せている(5/17時点)。7/14日現在、いまだ公開中だ。
その勢いにつづけとばかり、7月25日、「スタントマン 武替道」が公開される。監督は、スタントや俳優、短篇映画の監督をしていたアルバート・レオン&ハーバート・レオン兄弟。これが長篇デビューとなる二人は80年代に幼少期を過ごし、黄金期の香港アクション映画に夢中に。いつしか、伝説的なアクション・シーンを陰で支えた無名の英雄たちに敬意を表す映画を作ることを夢みるようになった。
主人公のサムは、80年代に大活躍した伝説的なアクション監督。旧友の映画監督に請われてカムバックした彼は生身の危険なスタント、果敢なゲリラ撮影といった、時代錯誤なアクション場面の撮影を敢行する。サムを演じたトン・ワイは香港のアクション映画業界でもレジェンド級の人物だ。監督はリスペクトを込めて語る。
「トン・ワイさんは『燃えよドラゴン』(73)でブルース・リーの弟子役を演じています。ブルース・リーは香港アクション映画を代表するアイコン。この大アクション・スターの香港映画への貢献を称えるために、私たちは彼の銅像を映画に登場させたかった。そして、サムが香港映画の衰退を危惧しながら、ブルース・リー像を眺める場面を撮りたいと思ったんです」

撮影当時すでに69才だったトン・ワイは、なんと6階から飛び降りるスタントを吹替えなしで見事成功させたそうだ。
「そのプロフェッショナリズム、決意、つまり諦めない精神こそまさに本作で描きたかったことでした」
ジャッキー・チェンの「ポリス・ストーリー 香港国際警察」(85)、サモ・ハンの「イースタン・コンドル」(87)……香港の街と共に映画スターたちが輝いていた時代。そんな時代への憧憬の念が、この映画のいたるところから感じられる。
「香港アクション映画は、ブルース・リーの存在なくしては語れません。彼によって香港映画は世界中へ知れ渡りました。その後、ジャッキー・チェンやサモ・ハンがカンフー映画の伝統を引き継ぎ、それぞれ独自のスタイルを加えてさらに昇華させていったんです」
ふたりの監督はつづける。
「大好きだった香港アクション映画は数え切れないほどありますが、本作は特定の作品に対してだけではなく、香港のスタントマンコミュニティ全体に賛辞を捧げています。彼らの貢献を称える最良の方法は、映画を通してスタントマンのリアルな人生を伝えること。銀幕の裏に秘められた、スタントマンたちの苦難、犠牲を描きたいと思ったんです」

「スタントマン 武替道」
Story:1980年代、売れっ子アクション監督だったサム(トン・ワイ)は、撮影中の事故でその時のスタントマンを半身不随にしてしまい、それがきっかけで業界を離れ、今は細々と整骨院を営み静かに暮らしている。そんなある日、かつての仕事仲間に「自分の最後の作品でアクション監督をやってほしい」と依頼され、数十年ぶりに映画制作に参加することに。だが、現代のアクション映画の撮影はコンプライアンスも厳しく、出演俳優のワイ(フィリップ・ン)を始め製作陣はリアリティを追求するサムのやり方に反発し、現場に綻びが生じ始める。一方、仕事中心の生活で家族との時間を大切にしてこなかった自分を良く思っていない娘チェリー(セシリア・チョイ)との関係も悪くなるばかり。サムのアシスタントとなった若手スタントマンのロン(テレンス・ラウ)は、サムを献身的にフォローし、何とか撮影を進めようとするのだが……。
監督・編集:アルバート・レオン、 ハーバート・レオン
脚本:アナスタシア・ツァン、 オリヴァー・イップ
撮影:レイ・チャン
音楽:チウ・ツァンヘイ、チャン・レンチエ
出演:トン・ワイ、テレンス・ラウ、フィリップ・ン、セシリア・チョイ
2024年/香港/1時間54分/武替道
配給:ツイン
©2024 Stuntman Film Production Co. Ltd. ALL RIGHTS RESERVED.
◎7/25(金)より新宿ピカデリーほか全国にて
記事提供元:キネマ旬報WEB
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