【堂本光一 コンマ一秒の恍惚Web】フェルスタッペンは混迷するレッドブルに何を見いだせるのか......?
イギリスGP終了後、レッドブルに激震が走った。クリスチャン・ホーナー代表(左)が今季の不振の責任を取らされる形で電撃解任されたのだ。メルセデスへの移籍の噂も流れるフェルスタッペンは何を思う......?
連戦となった第11戦のオーストリアGPと第12戦のイギリスGPはマクラーレンのランド・ノリスが連勝。2位には両レースでチームメイトのオスカー・ピアストリが入り、マクラーレンが2戦連続でワンツーフィニッシュを決めた。
レッドブルの角田裕毅(つのだ・ゆうき)はイギリスの予選では速さを見せたものの、決勝ではペース不足に悩まされ、入賞を逃がした。次のベルギーGP(決勝7月27日)では、ようやくマックス・フェルスタッペンと同スペックのマシンが投入される予定になっており、角田は反撃の糸口をつかむことができるのかに注目が集まる中、レッドブルに激震が走った。
イギリスGP終了後、代表として20年に渡ってレッドブルを牽引してきたクリスチャン・ホーナーがチームを去ることが突如発表されたのだ。果たしてホーナーの電撃解雇は角田選手やレッドブルにどんな影響を与えるのだろうか。
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■フェラーリの速さは一筋の光明オーストリアとイギリスの2連戦はランド・ノリス選手が制し、ポイントリーダーのオスカー・ピアストリ選手は両レースで2位に終わりました。これで、ふたりのポイント差は8点(ピアストリ234点、ノリス226点)に接近し、チャンピオン争いは面白くなってきました。
シルバーストンサーキットで開催されたイギリスGPは雨が降ったり止んだりする典型的な"ブリティッシュウェザー"となりましたが、チームによってはドライかウエットで得意不得意がありました。でも、マクラーレンだけは別でしたね。どんな状況でもタイヤをうまく使い、異次元の速さを見せていました。
もはやチャンピオン争いはマクラーレンのふたりに絞られたと言っていいと思います。5連覇を狙うレッドブルのマックス・フェルスタッペン選手はランキング3位につけていますが、マクラーレンのふたりの争いに入り込むのは難しい。本人もチャンピオンシップにからめるような状況ではないとコメントしていました。
これからもピアストリ選手とノリス選手にはチームメイト同士でバチバチの戦いを見せてほしいですが、マクラーレンの勢いを止めることができるとすれば、現状ではフェルスタッペン選手よりもむしろフェラーリのほうが可能性は高いように見えます。
オーストリアGPでマシンのアップデートをいくつか投入したことで、フェラーリは明らかに競争力がアップしました。オーストリアではシャルル・ルクレール選手が予選でマクラーレンの2台に割って入り2番手を獲得し、決勝でも3位で表彰台に上がりました。
続くイギリスGPでもフリー走行から速さを披露し、ドライコンディションとなった予選でもポールポジションを狙えるだけの勢いがありました。マクラーレンが独走態勢を築く中、フェラーリの速さは一筋の光明です。
■予選のフェルスタッペンのアタックに脱帽イギリスGPの決勝がドライだったら、もっと元気なフェラーリの姿が見られたかもしれません。でも雨が降ったり止んだりの難しいコンディションとなり、ルクレール選手はやや失速してしまった印象でした。そんな中でもイギリスが地元のハミルトン選手はコースを知り尽くしていることもあり、やっぱり強かった。
「イギリスGPの決勝がドライだったら、もっと元気なフェラーリの姿が見られたかもしれない」と語る堂本光一。ハミルトンは、地元のイギリスGPは4位に終わり、2014年から続いていた連続表彰台の記録が途絶えた。
ハミルトン選手はこれまで母国GPで通算9勝を挙げ、2014年から11年連続で表彰台に上がっていました。今年はキックザウバーのニコ・ヒュルケンベルグ選手がタイヤ戦略を完璧に決めて自身初の3位表彰台を獲得したために、ハミルトン選手はあと一歩のところで表彰台を逃し、記録は途絶えてしまいました。
それでもドライになった終盤のハミルトン選手は速さがありましたし、レース内容は決して悪くなかったと思います。今年からフェラーリに移籍したハミルトン選手はマシンのドライブに苦労する場面が多かったですが、ようやくフェラーリのマシンに慣れてきたようですし、今回のイギリスGPを契機にいい流れに乗っていってほしいですね。
レッドブル勢は、フェルスタッペン選手はフリー走行からマシンのバランスにかなり苦労していましたし、チームメイトの角田裕毅選手のオンボード映像を見ていてもなかなかマシンが思い通りに曲がっていませんでした。
それでも走行を重ねるごとに徐々にマシンをコースに合わせ込んで、ポールポジションを獲得するのがフェルスタッペン選手のすごさです。
ダウンフォース(マシンを地面に押さえつける力)をギリギリまで削ったマシンで1周をうまくまとめて、マクラーレンやフェラーリを上回るタイムを叩き出してくる。あの予選の最終アタックは本当に素晴らしかったですし、フェルスタッペン選手だからこそできたドライビングだったと思います。
でも雨となった決勝は、ダウンフォースを削ったセットアップが裏目に出て、フェルスタッペン選手はウエット路面でスピン。一時は入賞圏外までポジションを落としますが、路面が乾いてきたレース終盤にはペースを上げて何度もオーバーテイクを決め、5位でフィニッシュします。決勝も、流石の走りでしたね。
■角田選手のマシンは最新仕様ではない角田選手もシルバーストンでは予選のQ1までの流れやパフォーマンスは悪くなかったと思いますが、Q2の最後のアタックでうまくパワーが出ないというトラブルがあり、Q3に進出することができませんでした(予選12番手)。
何かあとひとつのパーツが足りないという感じなんですよね。そこがハマれば、いい結果につながっていくと思うのですが、うまく歯車が回っていかない。決勝もウエットコンディションで、ほかのマシンとの接触があり15位に終わりましたが、フェルスタッペン選手と同様にドライコンディションだったら結果は大きく違ったと思うのですが......。
僕はレース中、いつものように角田選手のラップタイムをずっと追いかけていましたが、ドライだとまだマシでしたが、雨になるとペースがまったく上がっていかない。それはダウンフォースを減らすセッティングをしていたということもありますが、マシンが最新仕様ではないというのも影響していると思います。
スポーツは結果がすべてですが、F1は道具を使うスポーツです。角田選手はイギリスでフェルスタッペン選手よりも2段階古い仕様のフロアを使用していました。オーストリア(16位完走)とイギリスでの角田選手の成績だけを見て、「ダメじゃないか」というのはちょっと違うのかなと思っています。
角田選手に速さがあるのは誰もが認めるところですし、多くのファンが何かやってくれそうだという気持ちを持ち続けている。僕もそのひとりですし、そんなファンの期待に角田選手は応えてくれると信じてこれからも応援したいと思います。
■新型フロアが投入されるベルギーが本当のスタート次戦のベルギーGPでは、角田選手のマシンにもようやくフェルスタッペン選手と同じスペックのフロアが導入されるようです。
ただ、ここ数戦の角田選手はロングランでのタイヤのデグラデーション(性能劣化)に苦しんでいるのが気になるところです。オーストリアGPのレース後には「タイヤがどんどん溶けていくような感覚だ」とコメントしていましたが、新しいアップデートでいい方向に進んでいくことを願っています。
角田選手とレッドブルが苦しんでいる間に、アストンマーティンやキックザウバーはアップデートを成功させ、速くなってきています。角田選手がずっと開発に携わってきた古巣のレーシングブルズも同様です。
グリッド全体の競争が昨シーズン以上に激化し、角田選手を取り巻く環境は厳しいことには変わりありません。それにマシンがアップデートされて速くなったとしても、性能を発揮する"ウィンドウが狭い"というレッドブルの特性も大きく変わらないでしょう。
そんな中でも角田選手には新しいパッケージの性能をなんとか引き出して、結果を残してほしいと思っています!
☆取材こぼれ話☆レッドブルとマックス・フェルスタッペンの周辺が慌ただしくなっている。レッドブルはF1参戦を開始した2005年からチームを牽引してきたクリスチャン・ホーナーがイギリスGP直後に代表の座から退任し、チームを離脱すると発表。
また4度の世界王座に輝くフェルスタッペンはレッドブルと2028年までの契約を結んでいるが、メルセデス移籍の噂が飛び交い始めている。
「正直な話、レッドブルの現在のパフォーマンスや、レギュレーションが大きく変わる2026年のことを考えると、フェルスタッペン選手がメルセデスの移籍を検討するのは何らおかしなことではないと思います。
すでに天才デザイナーのエイドリアン・ニューウェイ氏はレッドブルにはいませんし、クリスチャン・ホーナー氏は解任され、来年は自前のPUを載せることになります。
今年より厳しくなる公算が高いレッドブルに、フェルスタッペン選手はどんな可能性を見いだせるのか......? レース以外の動向からも目が離せないですね」
スタイリング/渡邊奈央(Creative GUILD) 衣装協力/AKM ヘア&メイク/大平真輝
構成/川原田 剛 撮影/樋口 涼(堂本氏) 写真/桜井淳雄
記事提供元:週プレNEWS
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