軽自動車戦国バトル2025、覇権を握るのはどこだ!? ダイハツは新型ムーヴで王座奪還なるか!
6月5日に東京都内で開催された新型ムーヴの報道陣向け発表会。写真は左から戸倉宏征製品企画部チーフエンジニア、井上雅宏社長
ダイハツの反転攻勢の嚆矢となるのが、11年ぶりに刷新された新型ムーヴ。信頼回復と王座奪還をかけた渾身の一手だ。迎え撃つは、人気モデルで盤石のスズキ。そして、販売トップを独走する"無双状態"のホンダN-BOX。三大メーカーの過熱バトルに迫った!!
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■かつての王者が再び軽の頂点へ2023年12月20日。ニッポン社会に激震が走った。"軽の盟主"として長年君臨してきたダイハツが、型式認証不正問題によって全車種の出荷停止に追い込まれたのだ。
これにより築き上げてきた信頼は崩れ去った。2006年度から22年度まで17年連続で軽新車販売台数トップを誇ってきた王者が、まさかの転落。自動車業界関係者も驚きを隠せない衝撃の展開となった。
そして、この隙を見逃さなかったのが、かつての王者・スズキだ。自動車誌の元幹部はこう語る。
「スペーシア、ハスラー、アルト、ワゴンRといった定番モデルで猛攻を仕掛け、軽新車販売首位を奪還しました。
"棚ボタ"なんて報道もありましたが、スズキの実力は折り紙付き。何しろ05年度まで34年間も軽トップを守り続けた"伝説の王者"。その眠れる獅子が、一気に牙をむいたのです」
2023年度は、認証不正問題によりダイハツが軽自動車販売の首位から転落。スズキが18年ぶりにトップの座を奪還した
ちなみに昨年の軽の年間新車販売台数では、スズキが約46万台を販売し、ダイハツ(約29万台)とホンダ(約26万台)を大きく引き離し、"王者の帰還"を果たした。
自動車ジャーナリスト・桃田健史(けんじ)氏は、スズキ復権の原動力をこう分析する。
「スズキの強さは、現場力と挑戦力にある。スズキは、徹底したコスト管理を軸にしながら、現場力を着実に高めてきました。
さらに、インドや旧東欧など、日本企業にとって経済的に未知の領域とも言える市場に果敢に踏み込んできた。その大胆な経営戦略は、単なる海外展開ではなく、企業としての"生き残り"をかけた挑戦だったとも言えるでしょう」
そして忘れてはならないのが、ホンダが胸を張る"絶対王者"のN-BOX。昨年も驚異の20万台超を販売し、軽新車販売10年連続トップをキープ。まさに盤石の構えだが、桃田氏は、N-BOXの"見過ごせない弱点"をこう指摘する。
「ロングセラーであるだけに、デザインや商品性を大きく変えることが難しい。これはユーザーに対してというより、販売店に対しての制約です。結果的に、EV(電気自動車)への完全な転換までは、正常進化し続けることが使命になるはず」
つまり、N-BOXはメガヒットモデルであるがゆえに、大胆なモデルチェンジがしづらいというジレンマを抱えているのだ。
左からN-BOX、N-BOXジョイ、N-BOXカスタム。日本市場で売れに売れているホンダ自慢の軽スーパーハイトワゴン
今年6月5日。長らく沈黙を守ってきたダイハツが、ついにその口火を切った。舞台は東京都内で行なわれた新型ムーヴの発表会。壇上に立った井上雅宏社長は、力強くこう言い放った。
「ダイハツ再スタートの第一歩だ」
この言葉が示すとおり、ムーヴは単なる軽の新型モデルではない。多くの専門家が口をそろえて語るように、ムーヴは"ダイハツ復活ののろし"なのだ。
では、そもそもムーヴとはどんな歴史を持つクルマなのか。自動車誌の元幹部が、その背景を解説する。
「ムーヴは11年ぶりに全面刷新された軽の主力モデルです。認証不正問題によって開発スケジュールは大きく狂い、ダイハツが市場に新車を投入するのは約3年ぶり。満を持して登場した新型ムーヴはシリーズ7代目です。初代の登場は1995年で、これまでの"軽の歴史"を彩ってきた名車でもある」
今回の7代目ムーヴは、シリーズ初のスライドドアを搭載。都市部のファミリー層や高齢者層に向けて、使い勝手を大幅に向上させた。走行性能・安全性能は、ダイハツ自慢の骨格「DNGA(ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」でしっかりと底上げ。価格は135万8500円からと、競合モデルに真っ向勝負を挑む設定だ。
「ダイハツはムーヴのデザインについて、『端正でりりしい』と自信満々です。ユーザーの信頼回復と市場奪還を狙う、まさにダイハツ渾身の一台に仕上がっています」
とはいえ、ムーヴの完成度だけでブランドの信頼が回復するわけではない。桃田氏は、ユーザーとの信頼回復には販売店との連携が不可欠だと指摘する。
「ダイハツのブランド復活は、まだ道半ばです。販売店にとっては、ようやく待ち望んだ再始動のタイミングであり、販売を一気に盛り返したいという思いは当然でしょう。しかし、実際にクルマを購入するユーザーの反応は、二極化しているように見えます」
"二極化"とは具体的にどういうことか。
「ひとつはダイハツ車を長年愛用し、復活を静かに待ち続けていた、いわゆる"ロイヤルユーザー"。もうひとつは、型式認証不正問題を受けてほかのブランドに乗り換えたものの、今後のダイハツの姿勢を慎重に見極めようとしているユーザー。
いずれの層に対しても、販売店が果たす役割は極めて重要です。ユーザーとダイハツブランドをつなぐ最前線として、誠実で丁寧なコミュニケーションを重ねることが、信頼回復への第一歩となるでしょう」
つまり新型ムーヴの登場は、ダイハツにとって"再起の一手"であると同時に、ユーザーとの関係を再構築するための試金石でもあるのだ。
■ホンダとスズキが繰り広げる頂上決戦今年1月~5月の軽自動車新車販売ランキングを見れば、今の軽市場がどれだけ"激アツ"なのかは一目瞭然。ホンダ、スズキ、ダイハツの"三つどもえ"の構図がくっきりと浮かび上がっている。
絶対王者として君臨するホンダのN-BOXシリーズに肉薄しているのが、販売絶好調のスズキの軽スーパーハイトワゴン・スペーシア
その中でひときわ目立つのが軽の二大巨頭、ホンダのN-BOXとスズキのスペーシアだ。両モデルは23年にフルモデルチェンジを敢行し、現在3代目同士が真っ向勝負中。
今年5月の販売台数では、N-BOXが1万3565台で12ヵ月連続の首位をキープ。一方、スペーシアは1万2179台で猛追。両者の差はわずか1386台にまで縮まっているのだ。
「N-BOXは、広さ・剛性・安全性で"絶対王者"の風格を見せつけ、今年もトップを独走中。一方のスペーシアは、軽量ボディとマイルドハイブリッドで"燃費とコスパ"を武器に快進撃を続けています。
どちらもスライドドア付きで使い勝手は抜群。正直言うと、N-BOXはやや高めの価格設定ですが、装備は豪華です。走りは静かで乗り心地もしなやか。スペーシアは"ちょうどいい"価格でおサイフに優しいのが魅力」
そう語るのは、自動車誌の元幹部。まさに"軽の頂上決戦"にふさわしい構図だ。N-BOXとスペーシアが激しく火花を散らす中、ダイハツが送り出した新型ムーヴと軽スーパーハイトワゴンのタントが、その牙城にどこまで食い込めるのか。この三つどもえのバトルは、激しさを増す一方となっている。
今年5月に国内累計販売台数300万台を達成したダイハツの軽スーパーハイトワゴン・タント。ついにN-BOX、スペーシアとのバトル再開
現在、軽はニッポンの新車販売の約4割を占める"シン・国民車"。その存在感は、もはや一部の層にとどまらず、老若男女の日常に深く根ざしている。桃田氏は軽の魅力と課題をこう語る。
「日常づかいでのボディサイズと使い勝手の"ちょうど良さ"。登録車と比較して税金が安く、一部の自動車専用道路の通行料も割安。これらが軽自動車の最大の魅力です」
だが、その一方で、軽自動車には根本的な課題もある。
「軽は、実質的に日本固有の"ガラパゴスカー"です。規格が国内専用であるため、各自動車メーカーはグローバル展開できません」
要するに、海外市場ではほぼ通用しないという現実があるのだ。それでも、軽の進化は止まらない。ホンダ、スズキ、ダイハツ―この三つどもえの戦いは、まさに"軽の戦国時代"。その中で、どのモデルが未来を切り開くのか。ムーヴは"ダイハツ復活ののろし"となれるのか。軽自動車の覇権争いから、目が離せない。
取材・文・撮影/週プレ自動車班 写真/共同通信社
記事提供元:週プレNEWS
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