全日本選手権で躍進した地方大学にプロ注目の投手たちがズラリ!!
優勝した東北福祉大のエース・櫻井。ストレートは140キロ台ながら多彩な変化球も駆使して打者を翻弄する
これだけの逸材が地方大学に眠っていたなんて――。春の大学日本一を決める第74回全日本大学野球選手権大会(6月9~15日、神宮球場・東京ドーム)は、意外な展開の連続だった。
中央球界の名門である青山学院大、早稲田大が敗れ、地方大学リーグの東北福祉大と福井工業大が決勝戦に進出。東北福祉大が8-1と快勝し、7年ぶり4回目の全国制覇を成し遂げた。今大会で衝撃を与えた「地方大学の躍進」を振り返ってみたい。
東北福祉大といえば、佐々木主浩(元マリナーズほか)や斎藤 隆(元ドジャースほか)ら、数々の好投手を輩出した東北の伝統ある大学。投手が育つ土壌は令和の世でも健在だが、今年の陣容は恐ろしいまでに豪華だった。
優勝の原動力になったのは、5試合中4試合に登板したエースの櫻井頼之介。好球質の快速球と多彩な変化球を駆使し、安定してゲームメークができる右腕だ。
今どきの大学生にしては珍しく「筋トレはあまりしたくない」と公言し、身長175cm、体重68kgと体格的にはいたって平凡。昨年より体重が微増した点を指摘すると、「夜中にカップラーメンばかり食べていたら太りました」と言ってのける。そんな独特な感性が、大舞台で遺憾なく発揮された。
東北福祉大のスリークオーター右腕・堀越。練習施設では164キロ(公式戦での最速は157キロ)を記録したという
その櫻井以上にスカウト陣の注目を集めるのが、堀越啓太だ。練習施設で最速164キロを計測したこともある剛腕で、馬力にかけては今年のドラフト戦線トップ級。今大会は2回戦の東日本国際大戦で6回を投げ、10奪三振、無失点の快投を見せた。
花咲徳栄高3年時にプロ志望届を提出したものの、指名漏れに終わっている。高校野球引退後、バレーボールを投げる練習を繰り返したところ球速が爆発的に伸びたというエピソードを持っている。
東北福祉大はさらに、リリーフで活躍する変則派右腕の滝口琉偉、テンポのいい先発型右腕の大森幹大もプロ志望届を提出する見込み。3年生には来年のドラフト上位候補、右腕の猪俣駿太も控えている。全国制覇したこともなんら不思議ではない、超豪華クインテットを擁していたのだ。
福井工業大は試合巧者ぶりが際立った。準々決勝で中京大、準決勝で東海大と実力校を1点差で破り、決勝戦に進出。小気味いい投球を身上とするエース左腕の藤川泰斗を筆頭に、向嶋大輔、土合章太と3年生投手の活躍が目立った。町田公二郎監督、澤崎俊和投手コーチという元広島の〝赤ヘルタッグ〟で新時代を築きつつある。
エース不在の中、2回戦で快投を披露した中京大の大矢。地方リーグで勝利がなかっただけに、驚くプロのスカウトも
そのほか、絶大なインパクトを残したのは中京大だ。ドラフト上位候補のエース右腕・髙木快大が、コンディション不良のため今大会は登板を回避。絶体絶命の逆境の中、髙木の陰に隠れていた4年生投手が躍動する。
2回戦の近畿大戦に先発した大矢琉晟は、150キロを軽々と超える破壊力満点のストレートとフォークを武器に、強力打線を完璧に封じる。7回を投げ、3安打、8奪三振、無失点で勝利投手になった。
試合後には硬式球を握り締めながら「ウイニングボールをもらったのは初めてなので、うれしいです」と初々しくコメント。愛知大学リーグでも通算0勝なのに、全国の舞台で大学初勝利を挙げてしまったのだ。あるスカウトは「なんであのピッチャーがリーグ戦で投げていないの?」と驚きの声を上げた。
さらに、身長190cm、体重93kgの重量級左腕・沢田涼太もリリーフで3試合無失点と活躍。打者の手元でグニャリと曲がるムービングファストボールを武器にしており、「育成選手でもいいから行きたい」とプロ入りを熱望した。
大矢も沢田も、高校時代は控え投手。髙木が登板できなかったことで、結果的に隠れていたふたつの才能が世に知られることになった。
札幌学生リーグから出場した北海学園大も、爪痕を残したチームだった。初戦では全国制覇経験があり、タレントぞろいの上武大に5-4と競り勝っている。
北海学園大の工藤は大学入学後に、本格的に投手へと転向。最速159キロをマークするプロ注目の右腕に成長した
注目されたのは、今春に最速159キロをマークした工藤泰己。高校までは主に捕手を務めており、大学で本格的に投手に転向した。
当初は「ずっと捕手をやっていたので、右腕を下ろして投げる感覚がわからなかった」と振り返るほどだったが、投球フォームをイチから再構築。今大会はやや不調だったものの、2回戦の佛教大戦では最速156キロを計測して5回1失点。実力の一端は見せている。
北海学園大のサプライズは、工藤だけではない。今春のリーグ戦でわずか2登板に終わった髙谷 舟も、3試合にリリーフ登板して好投を披露。150キロを超える快速球に変化量の大きいナックルカーブを操り、バックネット裏のスカウト陣にアピールした。
工藤と髙谷は中学時代、軟式クラブT・TBCでチームメイト。といっても、当時は工藤が捕手、髙谷は外野手がメインポジションだった。共に大学で投手としての才能が開花し、プロへの扉を開こうとしている。
余談だが、北海学園大の島崎圭介監督は、北広島市議会議員を務める〝二刀流〟。エスコンフィールド北海道の誘致にもひと役買っている。
今大会の目玉はドラフト1位指名が確実視される大砲・立石正広(創価大)だった。だが、東亜大との開幕戦で〝事件〟は起きた。東亜大の先発右腕は、投手ながら背番号8をつける右腕の藤井翔大。キレのあるスライダーで立石を翻弄し、ボテボテの内野安打1本に抑え込む。
試合は0-0のまま延長10回タイブレークへ。すると10回表、東亜大は創価大のミスにつけ込み、なんと1イニング11得点の猛攻。延長戦ながら「11‐0」という、信じ難いスコアになった。東亜大は続く2回戦で早稲田大に敗れたが、存在感は抜群だった。
大会を揺るがす地方勢の躍進は、大学野球界の底上げを証明するかのようだった。
取材・文・撮影/菊地高弘
記事提供元:週プレNEWS
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