おぎぬまXのキン肉マンレビュー46巻編~最強のダークヒーロー・悪魔将軍ついに参戦!!~
『週プレ』復活シリーズ、JC『キン肉マン』46巻をおぎぬまXがレビュー!!
前巻のラストでついに悪魔超人軍のトップ・悪魔将軍が登場し、新たな展開を迎える第46巻! キン肉マンたちの動向をよそに、完璧(パーフェクト)超人軍の本拠地に乗り込んだ悪魔将軍の視点で紡がれる物語、そして悪魔六騎士たちの活躍は必見です!!
●キン肉マン46巻 レビュー投稿者名 おぎぬまX
★★★★★ 星5つ中の5
まず本編のレビューに入る前に注目していただきたいのが、第46巻のカバーイラストです! ここでは威風堂々とした悪魔将軍の姿が描かれているのですが、実は今までキン肉マン以外のキャラクターが〝単独〟で表紙を飾ったことってないんですよね。まさにこの巻の展開同様、連載始まって以来のイレギュラー中のイレギュラーです。実質、この巻の主人公は悪魔将軍と言っても過言ではないかと思います!
さて本編では、"聖なる完璧の山(モン=サン=パルフェ)"を目指しながらも火に呑まれた超人、そして打ち捨てられた骸(むくろ)の傍(かたわ)らから悪魔将軍が現れるシーンから始まります。その後、海を割って"天への歩道(ロード・トゥ・ヘヴン)"を通り抜け、建物の内部へと侵入していくのですが、この一連の流れは神話のワンシーンのような厳粛さが感じられますね。まるで、孤高の勇者が魔王の居る城に乗り込むような、実際は乗り込む方こそが魔王なのですが。
悪魔将軍の呼びかけに応え、海が割れて
悪魔将軍が内部に侵入した直後、奥から現れたのは〝完璧・参式(パーフェクト・サード)〟を名乗るミラージュマンでした。静かに始まった両者の会話によると、どうやらミラージュマンと悪魔将軍は同格らしく、ゴールドマンとシルバーマンを除いた8人の完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)がいて、その全員の抹殺が悪魔将軍の狙いということが判明します。
わずか数ページの会話で明かされた、様々な真実...! さらに、悪魔将軍による完璧超人始祖の抹殺宣言も飛び出す
両者の会話後に悪魔将軍がリングインしますが、トップロープをまたいで堂々リングインする姿がまためちゃくちゃカッコいい!前巻から悪魔将軍の参戦は匂わされていましたが、まさか悪魔六騎士すら登場しないうちから戦闘が始まるなんて思いもしませんでした。
しかも相手は完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)という完璧超人の上澄みのような存在ですし。あまりにも展開がスピーディーで、読み手として「ウソだろ...? もう始まるのかよ!」と心の準備ができていなかったくらいです。
大股開きでトップロープをまたいで入場! まさに『キン肉マン』世界の帝王!!
●文字通りの悪魔的強さを発揮した"悪魔将軍無双"!
第74話「ダイヤモンドVSダイヤモンドの巻」で、かつての同門である悪魔将軍とミラージュマンが激突しますが、この試合で一番衝撃的だったのは、わずか〝1話〟で決着がついたことです。これがギャグ漫画時代であれば話は別ですが、ここまで展開がシリアスに熟成された中で、激しい攻防と決着に至るまでのプロセスを描き切った上での1話なのです。寸分も衰えていない悪魔将軍の実力とともに、ゆでたまご先生の構成力には戦慄するしかありません。
さて、まるで前菜と言わんばかりに、かつての同志ミラージュマンを粛清した悪魔将軍ですが、彼は今回のシリーズにおける「裏の主人公」と言えるでしょう。この作品の主人公・キン肉マンは友情を重んじており、どんな敵でも最後は分かり合って仲間になれると信じて闘っています。
一方、悪魔将軍は悠久の時の中で切磋琢磨した、かつての仲間たちを自ら手にかけることを選びました。それぞれの信念が強すぎるゆえに、絶対に分かり合うことができないと悟ったからです。キン肉マンとは何もかもが対極といえる悪魔将軍、彼が粛々とかつての同志を処刑していく姿は、とてつもない切なさと虚しさが感じられます。
ところで、"悪魔将軍無双"の最初の餌食(えじき)となってしまったミラージュマンですが、彼には鏡に映した相手にダメージを与えると本体にもダメージが反映されるという、反則的な能力を持っていました。ただやはり、『キン肉マン』はこの手のまやかしが通用しにくい世界なので、圧倒的なパワーを持つ悪魔将軍になす術もなく地獄の断頭台をかけられて敗北します。ゴングもなく勝ち名乗りもなく、「さて...この先だな」という悪魔将軍のセリフだけで締めたのも印象的でしたね。
中継はなく、実況アナも観客もいないふたりだけの闘い。そこにいるのは、ただ勝者と敗者のみ
また、闘いの後に悪魔将軍はミラージュマンの亡骸(なきがら)から"絶対の神器"のひとつ、氷のダンベルをもらい受けます。さらっと言っていますが、ダンベルがキーアイテムになる作品って古今東西、『キン肉マン』以外存在しないですよね。とてつもなくシリアスなシーンに光る、唯一無二のセンス...たまりません!
最初の処刑を終えた悪魔将軍が進んだ先には、ミラージュマンによって作り出された"幻覚(ミラージュ)"の超人墓場があります。一見、楽園に見えるその風景はまやかしで、氷のダンベルによって幻覚を破ると地獄の様相に一変します。
草木一本も生えない、真実の超人墓場に降り立った悪魔将軍。さっそく襲ってきた鬼たちを蹴散らしながら悪魔将軍は"禁断の石臼(モルティエ・デ・ビレ)"をなんと逆に回し始めます。その様子を見守る鬼たちは、悪魔将軍が取っ手を持ったら「取っ手を持った!」、逆に回し始めたら「逆に回し始めた!」と、いちいち抜群のリアクションをしてくれます。
しかし、そんな将軍様にドロップキックをかます手練れの鬼が登場。その3コマ後には鬼の全身にヒビが入り、中から〝完璧・肆式(パーフェクト・フォース)〟のアビスマンが姿を現します。ミラージュマン戦から続く、怒涛の展開に息つく暇もありません...!
悪魔将軍の行動に対して、なぜか逐一解説をしてくれる地獄の鬼。ナイスリアクション!
アビスマンは無頼な印象の強いキャラクターですが、悪魔将軍とのやりとりがカッコいいんですよね。悪魔将軍を相手に「冗談が上手になったじゃねえか」と皮肉を言ったり、何気ないセリフの一つ一つに強者の風格が漂っています。搦(から)め手のミラージュマンとは異なり、小細工なしのド迫力ファイトが始まります。
当時、リアルタイムで読んでいて興奮したのは「アビスガーディアン」という能力です。「真正面からの闘いなら誰にも負けない」と豪語するアビスマンですが、それでは背後から攻撃しようとすると、どうなるのでしょうか? なんと背中から魔法陣が出現し、相手のいかなる攻撃を弾き返してしまうのです。背中を硬質化するとか、トゲが飛び出すとかじゃなくて、魔法陣というのが斬新な発想ですね。同時にこの試合のテーマは、正面が無敵で背後の弱点も塞いだ相手を悪魔将軍がどう崩すのかという、とんち的な趣(おもむき)があります。
試合中に挟まれる回想シーンも見どころたっぷりでしたね。ゴールドマン時代の悪魔将軍とアビスマンの友情を描きつつ、(なんとなくその正体を察しつつも)彼らの師匠的な何者かも登場しています。
とても1コマじゃ語りきれないアビスガーディアンを習得した経緯は、スピンオフなどで是非描いていただきたい
〝前後無敵〟と化したアビスマンに、悪魔将軍が返したのは「正面から背中を傷つける」という豪快かつ痛快なアンサーでした。アビスマンと犬猿の仲だった悪魔将軍が、アビスマンの哲学で相手を倒すというのは、なんという皮肉な結末でしょう。続けて地獄の九所封じにつながる流れも最高にカッコよくてシビれますね!
アビスマンに勝利した悪魔将軍は、禁断の石臼(モルティエ・デ・ビレ)を逆回転することで超人墓場を崩壊させます。ここは本当に好きなシーンでして、崩落していく超人墓場と鬼たちが瓦礫(がれき)に巻き込まれて死んでいくなか、悪魔将軍は最後にひとりつぶやきます。
「これでもう誰も蘇(よみがえ)りはしない」「死んだら人はおしまいなのだ」と...。思えば、『キン肉マン』ほど生死の境が曖昧(あいまい)な作品は珍しいかもしれません。でもそのおかげで今までは、大好きな超人が死んだとしても、次のシリーズが始まればしれっと復活するはずだという希望を抱けました。しかし、これからは違います。悪魔将軍の暴挙によって、今後は超人が簡単には復活できない世界となってしまったのです。
このシーンを見て、ひいきの超人がいる読者は今後の展開に戦々恐々としたことでしょう。それほどまでに悪魔将軍のセリフには、とてつもなく作品の緊張感を高める破壊力がありました。
言っていることは当たり前なのに、異様な説得力。この先死んだ超人は、もう二度と復活しない...!?
●悪魔六騎士、参戦!先陣を切ったジャンクマン!!
やがて悪魔将軍が開けた超人墓場の入り口から悪魔六騎士が侵入を開始します。リアルタイムでの登場は本当に久々ですし、彼らが思う存分に暴れ回りながら鬼たちを蹴散らして侵入するシーンはテンションがぶち上がりますね。また、これまで前シリーズのリスペクトが強かったのもあって、彼らが初登場した「黄金のマスク編」と同じようにスニゲーターが一番手かなと予想していたのですが、ジャンクマンが一番手という意外な展開。
墓場鬼をボコボコにしながらジャンクマンが一番首を宣言! ここからがジャンクマン劇場のスタート!!
ジャンクマンが対峙する白ローブの超人を攻撃すると、その下から姿を現したのは"完璧・伍式(パーフェクト・フィフス)"のペインマンでした。ペインマンのデザインはシンプルですが、ホントにカッコいいですよね。始祖(オリジン)というだけあって禍々(まがまが)しさと神々しさが同居した、底知れない畏怖を感じるデザインです。ペインマンは軽妙な語り口で1対1での闘いをするため、ジャンクマンを金網デスマッチへと誘います。
ジャンクマンといえば唯一無二の必殺技ジャンククラッシュですが、何とペインマンはそのジャンククラッシュが効かない緩衝材(クッショニングマテリアル)ボディの持ち主でした。矛が勝つか盾が勝つかというとんちの闘い再び、ということになります。ジャンクマンは様々な手口で攻撃をくり返すものの、ことごとく破られたうえに、緩衝材ボディを攻撃に転用しての反撃に遭ってしまいます。そして、決め技のテリブルペインクラッチをかけられ絶体絶命のジャンクマン、というシーンで次の巻へと続きます。
「この世で一番強い素材は鋼でもチタンでもダイヤモンドの硬度でもない」と豪語するペインマン。その言葉通り、ジャンクマンの攻撃は通用せず...
テリブルペインクラッチは非常に見応えのある技で、まだこんな肉体の組み合わせがあるのかと、ゆでたまご先生の無限の引き出しに驚愕します。もちろん迫力のある落下技も好きなのですが、新シリーズに登場する関節技メインの必殺技は特に美しいですよね!
次巻では、窮地に陥ったジャンクマンとペインマンの一戦のクライマックス、さらに他の悪魔六騎士の活躍について語りたいと思います!
●こんな見どころにも注目!悪魔将軍が侵入した超人墓場への入り口は、聖なる完璧の山(モン=サン=パルフェ)の中に隠されていましたが、そこに向かう超人たちの姿が滑稽(こっけい)で、めちゃくちゃ面白かったです。
極寒の海を揃ってクロールで泳ぐ姿も最高ですし、「あの島へ行くと最強の超人になれるんだよな?」「ああ噂ではそうだ!」という会話も、わざわざ泳ぎながらしなくても泳ぐ前に陸の上で確認しておけばいいのに、とツッコまざるを得ません。
しかもその会話の2コマ後には火にまかれて焼死してしまうというオチ。このスピード感、さすがゆでたまご先生ですよね。その直前に描写されていた聖なる完璧の山(モン=サン=パルフェ)の解説が荘厳で、幻想的だっただけにその落差もスゴいです。
こういうおバカな超人ばかりが地上に蔓延(はびこ)っていたなら、確かに滅ぼしたくなるかも、とちょっとだけ超人の神に共感してしまいました(笑)。
●おぎぬまX(OGINUMA X)
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家、小説家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン。原作者として参加している『笑うネメシス―貴方だけの復讐―』が『漫画アクション』(双葉社)にて連載中。ミステリ小説シリーズ『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』、『キン肉マン 悪魔超人熱海旅行殺人事件』が好評発売中
構成/石綿 寛(樹想社) ©ゆでたまご/集英社
記事提供元:週プレNEWS
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