東京工科大がNVIDIA DGXのAIスパコンを構築 国内の私大最大のAIインフラ導入により「AI大学」構想を加速
東京工科大学(東京都八王子市)は、AI教育と研究を加速させるため、NVIDIA(エヌビディア)のインフラとソフトウェアを用いて日本の私立大学最大のAIスーパーコンピューターを構築し、本年10月に本格稼働させることを予定している。
同大が今回採用したのは、生成AIや大規模言語モデルなど計算負荷の高い最新のAIワークロードに対し、非常に高精度のパフォーマンスを提供する「NVIDIA DGX B200システム」。12台のDGX B200を、NVIDIA Quantum InfiniBandの高速ネットワークで接続してスパコンを設計。システム全体のAIの学習理論性能が0.9EFLOPS(1秒間に90京回の計算)に達する、私立大学最大のAIスパコンが学内に常設されることになる。

同大の学生が制作する女性のAIデジタルヒューマン“KIANA”。3DCGで女性の外観をデザインし、リアリティーのある表情の動きができる。今後、現在ICT部門で稼働するNVIDIAのAIプラットフォームとつないで、自然言語で会話ができるように開発を進めている。同大学院生の佐藤佑哉さんは、「自分の研究した成果がこういった目に見える形で現れると、非常にやりがいを感じます。最近ではAI合成音声を使って、デジタルヒューマンに命を吹き込むという取り組みもしています」と話す。
同大は、国内でもいち早くAI教育に取り組んできた。2019年にはコンピュータサイエンス学部に「人工知能専攻」を設置したほか、全学部の学生が自主的に参加できるプログラムでAI活用に触れられる環境を用意。2023年にNVIDIAの日本法人と学術交流連携を締結して以来、AIにとどまらず、人材育成や研究のコラボレーションも推進してきた。現在、AI技術を大学の教育・研究の中核に据え、次世代の技術者育成や社会課題の解決、産業界との連携強化を目指す総合的な取り組みとして「AI大学」構想を掲げている。その中核拠点として今年4月、同大八王子キャンパスにAIテクノロジーセンターを開設。AIスーパーコンピューターは、同センターの「AI中核拠点(TUT AI CORE BASE)」に設置され、今年10月に稼働を開始する予定だ。
このような大規模のAIスパコンが学生に必要な理由について、同大AIテクノロジーセンター・ICT部門長の生野壮一郎教授は、「学生が小規模なデータや小規模なプロジェクトだけで満足していては、将来イノベーションを生み出すようなAI活用の本質を学ぶことはできません。学生が、計算資源の制約にとらわれることなく、大規模データと高性能な計算環境を活用しながら学び続けられるようにすることが、世界で活躍できる優秀なAI人材の育成につながると確信しています」としている。また、「現状、特にアメリカと比較すると、AI教育について日本は遅れていると言わざるを得ません。学生たちには、AIを使うことが楽しいと感じてもらいたい。そして、そういった技術を使うことで、想像もできない未来を自分たちが創り上げていける可能性もあるということを感じてもらえるように指導をしていきたいと思っています」と話している。

AIスパコンの導入により、教育面では、学生が次世代のAI社会に対応できる実践的なスキルを習得するための環境整備を進め、研究面では、最先端のAI技術や高性能計算資源を生かした高度な課題解決を目指していく。具体的な主要プロジェクト案(2025年度以降)の一部として、NVIDIA Omniverseのテクノロジーを用いて現実世界と仮想空間を結びつける「デジタルツイン」を構築し、ものづくりや都市設計における革新的な実証研究をすることを挙げている。
同大の香川豊学長は、「人間と人間の関係は倫理がないと成り立たないように、AIと人間の関係も、倫理性がないときちっとした関係が築けません。われわれがAIをどう使うのか、あるいはどう使われてしまうのか、その関係をきちんと決めておくことが重要です。AIという今後どんどん発展していく道具をうまく使いこなすには、自分自身も発展できるような人になるということと、発展したものをキャッチして使っていく力が必要です。東京工科大は、AIの基礎・基盤から最新の応用までをさまざまな国の人が⼀緒に学び、本学を離れた後にもそれぞれの人生ステージに合わせてアップデートし続けることを可能にします」としている。

東京工科大は、学校法人片柳学園が、1986年に東京都八王子市に開学。1999年に日本初の「メディア学部」、2003年に「バイオニクス(現・応用生物)学部」と「コンピュータサイエンス学部」を設置。2010年に大田区・蒲田キャンパスに「デザイン学部」と「医療保健学部」を設置。2015年に「工学部」を設置した。現在、6学部と大学院を有する理工系総合大学として約8000人の学生が在籍している。
記事提供元:オーヴォ(OvO)
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