「風俗スカウト」巨大化・ハイテク化の裏側 全国約1800店と契約、売り上げ約70億円も!
新宿・歌舞伎町の悪質ホストが、多額の売掛金を抱えた女性を風俗店に派遣。その斡旋をしていたアクセスの幹部が摘発された
風俗スカウトといえば、ひと昔前は路上でナンパするスタイルが当たり前だった。しかし、現代のスカウトは路上からネット上に主戦場を移し、その規模をどんどん拡大させている。令和の風俗スカウトの実態に迫る。
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■全国の風俗店に斡旋するシステムを開発ナイトビジネスで金を稼ぎたい女性、そして、上玉を求めて日々あくせくする店舗の運営者たち。両者の橋渡し役を担うのがスカウトだが、その活動の場は街頭からSNSへと変わり、独自サイトの運用も行なって効率化を図っている。
また、末端構成員の数が激増しており、一部はトクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)認定されて警察も警戒を強めている。変貌を遂げるスカウトたちの実態とは――。
警視庁は今年1月、生活安全部としては実に16年ぶりに特別捜査本部を設置。構成員300人を擁するとされる違法スカウトグループ「アクセス」に対する集中取り締まりを行ない、組織犯罪処罰法違反や職業安定法違反などの容疑で、トップに君臨する遠藤和真(えんどう・かずま/33歳)ら幹部たちを逮捕。現在も摘発に力を注いでいる。全国紙社会部デスクが解説する。
「アクセスは島根県を除く46都道府県の性風俗店約1800店舗と契約。ホストクラブに多額の売掛金がある女性らをSNSなどを通じて囲い込んで店に送り込み、女性が働いて稼いだ金の15%を『スカウトバック』と称する紹介料として吸い上げ、5年間で約70億円を得たとみられます」
アクセスで出色だったのは、スカウト向けの独自サイト『2チャンネル』の開発・運用だった。前出のデスクが続ける。
「2チャンネルでは、契約店舗の報酬や求める人材などを網羅的に掲載していました。スカウトたちはキャッチした女性を体形や年齢、タトゥーやリストカットの有無などの基準に基づいて8段階に序列づけします。そしてそのランクに応じた店を2チャンネルで検索して、複数の店舗を抽出していました。
それらの店舗に女性の情報を一斉送信して、1日当たりの最低保証金で最も高額を提示した店に女性が斡旋(あっせん)される。いうなればオークション、『人身売買』のような作業をスマホ一台で行なえるスキームを確立し、組織の拡大につなげました」
組織性が高いのも特徴だ。遠藤を頂点にその下には「サブマネジャー」「ブラック」といった階層を設けてピラミッド構造を築いていた。スカウトが新たなスカウトを引き入れると、その売り上げの一部が報酬として入るねずみ講方式で構成員を膨らませ、さらには売上額をグループ内で競わせることで組織拡大を図っていたとされる。
これらのスカウトは「プレイヤー」と称され、彼らとは別に「マネジャー」という運営面の切り盛りをする役回りもあった。こちらは2チャンネルの運用や集まった金の管理などに携わったとみられ、集中と分業が効率的に図られた構造になっていた。
■別人に成り済ましてスカウトする事例もスカウト活動の場も、街頭からネット上のSNSへと移行している。その実態について、都内のスカウト会社社長のA氏が解説する。
「街頭の声かけは、つきまとい行為で逮捕されるリスクがありますからね。5~6年前からSNSスカウトが主流になりました。メインはX(旧Twitter)です。
アクセスの場合は、求人サイトに『自宅でできるPC仕事』とうたってスカウトを募っていました。女性にスカウトを送る際の文面は決まっており、機械的にXのDM(ダイレクトメッセージ)でメッセージをばらまくという作業ですから、誰でもできる。こうしてアクセスは構成員を増やしていきました。
ほかのグループでは、数千万円をかけてテレグラムのような秘匿性の高いメッセージアプリを開発して、組織内で使っているケースも。末端スカウトがパクられても、上層部への突き上げ捜査を逃れています」
SNSスカウトにおいては、見せ方も重要になるようだ。
「よくあるのが、ネカマです。例えば、男のスカウトが売れっ子風俗嬢を装ったXアカウントをこしらえて、どこかから引っ張ってきた高級レストランでの会食やタワーホテルでのパーティの様子を伝える写真や動画を投稿し、あたかもセレブライフを満喫しているように見せる。
その投稿を見て関心を持った女のコが、『私も風俗をやってみたいです』なんてDMを送ってきたら、『知り合いのいいスカウトさんを紹介するね』と返して、自分が登場するという流れです。
女のコたちからすると、見ず知らずの男のスカウトよりも、同性の先輩という属性を持つ人のほうが相談しやすい。こういう習性を逆手に取った戦略です。私の知り合いには20個もアカウントを運用して、セレブ系とか真面目系、病み系、風俗嬢、パパ活女子といった具合に女のコのキャラを使い分けているヤツなんかもいますよ。
ほかにも、ネット上で拾ったハプニング動画などを集めた面白系、あとは美容整形に特化した投稿で関心を集めてスカウトにつなげていく者もいますね。あるスカウトグループは、1万人のフォロワーをつくってからでないと加入できないそうです」(A氏)
X(旧Twitter)で検索してヒットした風俗スカウトのアカウント。現在も同様のアカウントが数多く運用されている
とはいえ、情報が氾濫するネットの世界で名前を売って多くのフォロワーを確保するのは至難の業だ。となると、選択肢は......
「アマギフ(Amazonギフトカード)を10万円分配るといったプレゼントが欠かせません。それを、自分が運用する複数のアカウントのコラボ企画と銘打って行なうんです。まったくコラボじゃないんですけどね(笑)。月に300万円を売り上げている売れっ子スカウトがいますが、そのうち100万円以上はプレゼントで消えていくと言っていました」
また、活動の場がネットへ移行したことで増えたのが若手スカウトだ。
「スカウトといえば、昔は派手な身なりをしたオラオラ系だったのですが、今は根暗な人間が増えましたね。ネットを使いこなせて、面白い情報を発信できれば風体は関係ないですから。
また、新宿のキッチンカーでケバブを売っている男も、営業の傍ら客の女のコに対してスカウトをやっていると言っていました。今のスカウトの中には、女のコもいます。ひと昔前はスカウトと縁の遠かった人間でも、スカウトビジネスに入り込めるようになったようです」(A氏)
■海外派遣がトレンド化、地下送金でサポートこうして確保した女性を、スカウトたちは日本だけでなく海外の有名都市にまで派遣しているという。東京の飲食店関係者の男性B氏が明かす。
「6月下旬の風営法改正でスカウトバックが禁止になり、著名な風俗グループは様子見をしてスカウトとの関係を一時的に切っています。そのため、スカウトたちは最近、女のコの海外派遣にかじを切っています。アメリカ、オーストラリア、カナダ、マカオあたりが多いですね。スカウト側が、現地の風俗店と提携して送り込んでいるんです。
日本人の女のコは優しくてサービスがいいから海外で人気が高いし、日本では売れないルックスのコでも外国人からは好まれることもあります。
ただ、アメリカは今、女のコがひとりで入国すると売春目的と疑われて入国できないケースもある。なので、ガイドマップを持たせていくつかのページにチェックマークを入れるなどして、彼女たちを観光客に装わせています。
また、稼いだ大金を持って出国するのはリスクがあるので、地下の送金作業が必要ですが、そういうお膳立てもすべてスカウトが担っています。ただ、海外風俗は怖いそうですよ。目の前で薬物を注射して、そのまま行為に及んできたりするそうで......」
アメリカや中国への出稼ぎなど、日本人の海外での売春行為が増えている
増長するスカウト集団に警察は警戒を募らせている。SNSで人員確保に努めている点を重視し、トクリュウと関連づけて捜査に躍起になっているのが現状だ。警察担当記者が語る。
「振り込め詐欺や強盗事件でも、実行役をSNSで募集しているケースがあります。SNSで仲間を増やすという意味では、スカウトは闇バイトのリクルーターとも作業が似通うので、兼業している者もいるようです。20年には新宿で、『ナチュラル』というスカウトグループが暴力団と乱闘事件を起こしているなど、暴力性が高いグループもあります。
警察庁は5月、『トクリュウ情報分析室(仮称)』の新設を発表するなど、トクリュウを重点取り締まり対象に位置づけていて、悪質なスカウトグループもそのターゲットとなるでしょう」
警察がスカウトグループの摘発に本腰を入れる理由について、B氏は次のように打ち明ける。
「あるスカウトグループが海外に送った女のコが、3人ほど失踪しているそうなんです。真偽はわかりませんが、その中には、政治家の娘も含まれているとの噂も......。スカウトたちの人身売買めいた斡旋が人命の危険にも及んでいることから、警察もしゃかりきになっているようです」
■水商売がある限りスカウトは消えない行動形態を変えたスカウトたちだが、彼らのサポートを必要とする女性が存在するのも事実だ。九州地方のキャバクラ店で10年ほど勤めた後に、2年前に上京して港区のクラブに勤めるCさん(30歳)が語る。
「都内のお店の相場はわからないし、私はやんちゃな人が苦手なので落ち着いた店で働きたい。そういう要望を友達の元カレのスカウトさんに話して、今の店に入りました。
ただ、最初に聞いていた報酬より安かったので、そのスカウトに相談したら、店と交渉してくれてインセンティブ(奨励金)をつけてくれることになりました。愚痴も聞いてくれるし、スカウトさんには助かっています」
スカウトは女性を特定の基準で序列づけし、全国の風俗店に情報を送る。まさしく人身売買のような仕組みだ
千葉県内のソープランドに在籍するDさん(24歳)も、スカウトを重宝しているという。
「1ヵ月のうち半分は地方に出稼ぎに行きます。同じお店に鬼出勤しても、常にお客さんがついて稼げるわけじゃない。むしろ、お店を空けることでレア感が出るので常連をつなぎ留めやすいんです。地方のご当地ホストとも遊びたいし(笑)。
しかも、出稼ぎに行けば新人扱いなのでお客さんがつきやすい。でも地方のお店のことはわからないので、スカウトさんに紹介してもらって、アパートの契約まで段取りしてもらっています」
スカウトと女性の切っても切れぬ関係について、元スカウトの男性E氏が説く。
「女性が自らお店を探しても、リスクがつきまといます。悪質なスカウトもいますが、全員がワルというわけではありません。水商売が社会に必要とされる以上、スカウトという存在は消えないでしょう」
時代の変化に伴い、手段を変容させながらナイトビジネスを下支えするスカウトたち。暴発の危険性をはらみつつ、夜の世界でその存在感は高まっている。
取材・文/武田和泉 写真/時事通信社 Adobe Stock
記事提供元:週プレNEWS
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