熱中症寸前でつかんだ栄冠 岩井姉妹の後輩・中澤瑠来が女子アマ日本一「棄権しなくて良かった!」
<日本女子アマチュアゴルフ選手権 最終日◇20日◇名神八日市カントリー倶楽部(滋賀県)◇6462ヤード・パー72>
72ホール目には最高の景色が待っていた。1打リードで迎えた最終18番。短いパーパットを沈めた中澤瑠来(なかざわ・るな)は、自分が優勝したことに気づかなかった。
首位タイの3人で最終組から出て、5バーディ・1ボギーの「68」で回り、トータル8アンダー。仲間たちから浴びた祝福のウォーターシャワーで日本一になったことを知り、喜びがじわじわ湧いてきた。
「すごくうれしいです。緊張はしなかったし、優勝してやるとかもなかった。いつも通りを心がけました」
途中棄権も考えた4日間だった。今週に入って、全国各地は猛暑に見舞われた。会場のある東近江市の大会初日の最高気温は、34.8度まで上がった。その日は「68」をマークして首位発進を決めたが、異変は翌日の朝に起きた。
練習場で急に体調がおかしくなった。「頭がぼっーとして、体がだるい」。練習を早々に切り上げ、冷房の効いたクラブハウスで休んでいたが、体調が戻ることはなかった。
「スタートの10分前までクラブハウスのソファに座っていました。立つ元気もなくなって、(スタートホールには)やっと移動した感じでした。『棄権しようか』という話も出たけど、初日のスコアがスコアだったし、私がやめたくないと言ってスタートしました」
最高気温が36.2度と、さらに気温が上がった2日目はとにかく耐えた。日陰をさがし、時間があれば座っていた。「前半は歩くのがやっとで、頭も回らなかった」。ショットのミスに、距離を間違える計算ミス…。「75」を叩いて、10位に後退した。
だが、「スコアは一番悪かったけど、2日目に18ホールを完走できたことが、この結果につながったと思います。棄権しなくて良かった」。ラウンド後の練習も2日目はまったくしなかった。前日もごく軽め。食欲も完全には戻っていない。熱中症寸前だった体調不良を乗り切ってつかんだ日本一に、22歳は自分で自分を褒めてあげた。
埼玉栄高時代は岩井明愛・千怜の1学年下だった。「2人がいなくなって『弱くなった』と言われたくなかった」。3年時はキャプテンとしてチームを引っ張り、岩井姉妹が中心となって手にした高校日本一の座を守った。その力は誰もが認める。ただ、プロテストだけは縁がなかった。
「いつも緊張して、思うようなプレーができなくて、焦ってしまった」。昨年まで4度失敗。同じ2003年度生まれの竹田麗央、神谷そら、川崎春花らダイヤモンド世代の活躍を“外野”から見るだけで、「なんで自分はプロじゃないんだろう」と悩むことも多かった。
今回の優勝でプロテストは2次が免除され、11月の最終プロテストからの出場が可能となった。「そこがすごくうれしい。自分のプレーができないのが悩みだったけど、今週はプレッシャーがかかる位置にいても自分のプレーができた。少しは成長したんじゃないかなと思います」。
ピンチを乗り越えて女子アマ日本一に輝いた。あとはプロになるだけ。「力はある選手。全部に100点を求めるから、一つダメだとすぐにイライラする。でも、少しずつ成長していると思います」。こう話したのは、3年ほど前からコーチを務める元ツアープロで、穴井詩らのキャディも務める田子元治氏。その実力に太鼓判を押す。
苦しいときに耐えることを覚え、ミスが出ても前を向き続けた4日間。「これで変わらないとウソですよね」。最後に勝者はにっこり笑った。もう大丈夫だ。(文・臼杵孝志)
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