ギャラリーの心もわしづかみ グッドルーザー・堀川未来夢に見たプロの“真の強さ” 【現地記者コラム】
8日まで行われていた国内メジャー今季第2戦「BMW 日本ゴルフツアー選手権 森ビルカップ」は、蝉川泰果の劇的な優勝で幕を閉じた。今年2月に明かされた疲労骨折という苦境を乗り越え、2023年「ゴルフ日本シリーズ JTカップ」以来となるツアー通算5勝目。これで史上最年少で日本タイトル三冠を達成し、会場は大きな感動に包まれた。その強さを改めて目の当たりにしたのだが、惜しくもプレーオフで敗れた堀川未来夢の姿勢に、プロフェッショナルとしての“真の強さ”を感じた。
堀川はツアープレーヤーであると同時に、登録者数40万人に迫るYouTubeチャンネルなどを通じて男子ゴルフ界を盛り上げる活動も行っている。最終日には、そんな想いがファンに確かに届いていることを感じさせるような場面が多く見られた。
最終組で迎えた堀川のスタートホールには「みくむ~! がんばれ~!」と声をそろえるファンが大勢詰めかけ、ティイングエリアの周囲は人で埋め尽くされた。その声援はティショットを放ったあとも続き、“未来夢コール”のなかホールへ歩みを進めた。そして、その応援を力に連続バーディを奪うと、ファンの熱気もさらに高まっていく。
プレー中も終始笑顔を絶やさず、バーディやガッツパーが決まると力強いガッツポーズを繰り出す。一打、一打に“勝ちたい”という強い意志が込められているように見える、まさに気迫のプレーが続いた。
その姿はファンを楽しませるパフォーマンスでもあり、同時にプロとしての覚悟の表れでもあるように感じた。堀川がバーディパットを外せばファンも悔しがり、決めれば歓声があがる。堀川のゴルフには、見る者と一体になる魅力がある。“ファンとともに戦う”。そんな光景が印象的だった。
優勝争いを繰り広げた“ライバル”の蝉川泰果、米澤蓮がスコアを伸ばす時には、グータッチを交わし、そのプレーを称える。優勝できるか、できないかの瀬戸際では、相手のミスを願っても不思議ではない。だが、堀川は心から、相手のファインプレーをよろこんでいるようにも見えた。自分の器の小ささを恥じてしまうような清々しい姿だ。
ここには、堀川なりの信念がある。「自分がいいプレーをできるのは、組全体の流れがあるから。終盤はもちろんライバルになるけれど、誰も脱落しないようにという意識もある。最終組から優勝者を出すぞ、という気持ちでプレーしていた」。その空気感すら力に変えようとしている。
最終日、勝負が大きく動いたのは終盤だった。そして、ここからはただただハラハラ、ドキドキする展開になる。残り3ホールを迎えた時点で、堀川はトータル10アンダーの単独首位。しかし、2打差で追っていた蝉川が16番、そして最終18番でバーディを奪い、試合はプレーオフへともつれ込んだ。『やられた』と言わんばかりの表情を浮かべた堀川は、それでも爽やかな様子で蝉川と握手を交わした。
18番パー4で行われたプレーオフ1ホール目。セカンド時点までビッシリのギャラリーが、その結末を見守っていた。堀川は2打目でグリーンをとらえたが、バーディパットを決めきれず。対する蝉川はウイニングパットを沈め、熱戦は決着した。敗戦が決まった瞬間、堀川は静かにボールを拾い上げ、この日2度目となった蝉川と握手を交わした。
これにてノーサイド。悔しさを抱えながら迎えたであろうその後のインタビューだったが、そこでも清々しい表情で勝者を称える言葉を並べた。「蝉川選手、うまかったですね。途中で勝負の流れがこちらに傾いた感覚もありましたが、彼は最後まで攻める姿勢を貫いた。それが優勝につながったんだと思います。1打ではありますが、2枚も3枚も上手でした」。こんなところにも、“強さ”を感じた。
取材終了後。敗れはしたものの、熱戦を繰り広げた主役のひとりを、多くのファンが待っていた。堀川は記念撮影やサインに丁寧に応じ、ひとりひとりに「来てくれてありがとうございました」と感謝の気持ちを伝える。日頃から試合中であっても、子どもから「頑張ってください!」の声をかけられれば、「ありがとう」と返し、ボールやグローブを手渡す姿が印象的だ。この4日間も、ファンの期待に全力で応えようとする“堀川未来夢のスタイル”は変わらなかった。
今大会のギャラリー数は、2万16人だった昨年を上回る4日間計2万180人だった。最終日は6000人を超える観客が詰めかけ、男子プロの迫力あるプレーを楽しんだ。これは同じ茨城県を舞台に5月に行われた女子のメジャー大会「ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ」の4日間2万2751人と比較しても、そん色ない数字だ。
ファンを大切にする気持ちや、自らのプレーでゴルフの楽しさを伝えようとする姿は、きっと多くの人々に届いたはず。結果は惜しくも2位。それでも堀川が見せたような“プロフェッショナル”としての在り方が、男子ゴルフの盛り上げにつながる、ひとつの要因になって欲しい、そんなことを感じた最終日だった。(文・高木彩音)
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