あの電撃発表から2年 LIVとPGAの統合問題は今、どうなっている?【舩越園子コラム】
今週6日は、「あの電撃発表」から2周年を迎えようとしている。
2023年6月6日。PGAツアーのジェイ・モナハン会長とLIVゴルフを支援するサウジアラビアの政府系ファンド・PIFのヤシル・アルルマヤン会長が水面下で秘かに交渉を進め、突然、「統合合意」を発表した。ゴルフ界関係者の多くが呆気に取られ、PGAツアー選手が「聞いてないぞ」と怒声を上げるなど、てんやわんやの1日だった。
以後、PGAツアーはタイガー・ウッズ(米国)を筆頭とする理事や選手会が主体となって、PIFとの交渉を開始。「交渉は進んでいる」「選手たちが納得できる統合や合意は近い」といったセリフを何度も耳にした。
しかし、あれから2年が経過しようとしている今、両者の統合は何も進展していない。一体、あの統合合意は何だったのだろうか。そして、PGAツアーとPIFの関係は今、どうなっているのだろうか。
最も直近で見られた動きは、トランプ米大統領のアレンジによって、今年2月20日に実現したホワイトハウスでの会合だった。PGAツアー側からはモナハン会長とウッズ、それにアダム・スコット(オーストラリア)が出席し、PIF側からはルマイヤン会長が参加した。
トランプ氏は両者の統合を「15分で解決できる」などと豪語していたが、この会合は物別れに終わった。詳細は明かされてはいないのだが、一部の米メディアによると、PGAツアー側がある提案をしたところ、ルマイヤン会長が自身に対する「リスペクトがない」と感じて激怒し、提案を拒絶したとのこと。
米欧メディアは、「ホワイトハウス会合は、統合交渉をbreakthrough(ブレークスルー=突破、解決)するどころか、breakdown(ブレークダウン=崩壊、破壊)した」と揶揄(やゆ)し、その後、ルマイヤン会長は沈黙を続けている。結局、両者の統合は何も進んではいないというのが現状である。
そして、PGAツアー側には、もはやPIFとの統合の必要性を感じなくなっている様子が垣間見える。
SSG(ストラテジック・スポーツ・グループ)と新たにパートナーシップを結び、大きな「財源」を得たことで、今ではLIVゴルフのマネーパワーを脅威に感じる必要がなくなっている。最近ではスター選手のLIVゴルフへの移籍も見られなくなっている。
そのため、かつてのようにLIVゴルフと張り合う必要もなくなりつつあり、「敵」にばかり向けていた視線を、ようやく自分自身の手元足元へ戻し始めている。
米欧対抗戦「ライダーカップ」の今年の米国チームキャプテン、キーガン・ブラッドリー(米国)は、チーム入り候補選手らを招いて、5月初旬にディナーを開催した。「PGAツアーの選手か、LIVゴルフの選手か、私は意識しないし、そんなことはもはや誰も意識していないと思う。ベストなチームを作るのみだ」。
その翌週、メジャー今季第2戦「全米プロ」の優勝争いは、スコッティ・シェフラー(米国)とジョン・ラーム(スペイン)の競い合いとなり、最後にはブライソン・デシャンボー(米国)も加わって、見ごたえある最終日になった。その戦いは、もはや「PGAツアーとLIVゴルフの戦い」ではなく、純粋に「彼らの熱い戦い」だった。
先週の「メモリアル・トーナメント」開幕前には、フェデックスカップ最終戦「ツアー選手権」のフォーマットが今年から変更され、あらかじめストローク差を付けるスタッガード・スタート方式が廃止されることが正式発表された。
この1年ほどの間、シェフラーをはじめとする多くの選手たちから上がっていた「複雑難解なシステムはファン離れにつながり、逆効果だ」という声にPGAツアーが真摯(しんし)に耳を傾けた結果、4日間72ホールで純粋にスコアを競い合う従来のゴルフに戻されることが決まった。
どこかで何かが狂い、少々ずれてしまった進行方向を、修正して元に戻そうという動きが見られるようになったことは、ゴルフ界全体にとっての朗報である。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
<ゴルフ情報ALBA Net>
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