おぎぬまXのキン肉マンレビュー【コミックス第45巻編】~ウォーズマンリベンジ! 対抗戦セカンドステージ、決着!!~
『週プレ』復活シリーズ、JC『キン肉マン』45巻をおぎぬまXがレビュー!!
今巻では、ついに作中屈指の人気を誇るウォーズマンが参戦し、新シリーズの開始から続く正義超人軍と悪魔超人軍、そして完璧・無量大数軍(パーフェクト・ラージナンバーズ)による三つ巴(どもえ)の対抗戦のセカンドステージに決着がつきます。
さらに、ここまで伏せられていた"あのお方"も登場して、物語は新たな展開を迎えます!!
●キン肉マン45巻 レビュー投稿者名 おぎぬまX
★★★★★ 星5つ中の5
冒頭の第64話では、前回語ったロビンマスクVSネメシス戦のクライマックスが描かれます。ネメシスの<完肉>バトルシップ・シンクを浴び、ロビンマスクの心音が徐々に弱まり、やがて止まってしまいます。
死してなお、闘志を見せたロビンマスク。正義超人軍の失ったものは大きいが、遺されたものもまた多い
それにしても、勝利後のネメシスの誇らしげなポーズはカッコいいですよね! バトル漫画の決着シーンって、相手を見下ろすとか、決め台詞を言うとか、そういう締め方になりがちですけど、勝者がちゃんとウィニングポーズを取るってけっこう珍しいのではないでしょうか? 何気ないことですが、このあたりも『キン肉マン』がバトル漫画ではなく、格闘漫画である所以(ゆえん)だと思います。
試合後の決めポーズは、格闘ゲームを彷彿させる
さて、前回のコラムでは収まり切れませんでしたが、これからお伝えしたいのは......新シリーズの『キン肉マン』最大の敵とは何かという点です。僕はズバリそれを「思い出」だと考えております。
『週刊少年ジャンプ』で連載していた前シリーズは日本中で社会現象を起こすほどの、とてつもない人気を誇っていました。それだけに、かつての読者の思い入れは相当なものがあり、「思い出補正」という分厚いフィルターがかかった状態で新シリーズを読むことになるわけです。たとえば、一昔前の有名映画が新作を公開すると、熱狂的なファンによって過激な論争が必ず生まれますよね。長年親しまれたコンテンツのファンとは、作り手にとっては、ある意味ではもっとも手強い難敵なのかもしれません。
それだけに、古参ファンの中には新シリーズに対して、「俺はまだ認めてないぞ」と頑(かたく)な反応を示した人もいたでしょう。連載当時を振り返ってみると、僕自身は新シリーズが開幕した時点から「超絶面白い!」と認めつつも、前シリーズの思い出をないがしろにしたくない、前シリーズの思い出を超えて欲しくない、となんとも身勝手かつ複雑な想いを抱えていた気がします。
特に僕は『キン肉マン』のロビンマスクVSマンモスマンの一戦を、人生のベストバウトに掲げておりまして、それは僕にとって、もはやアイデンティティーなのです。
このコラムでもよく話が出るおぎぬまXベストバウト(JC34巻)
だから......本当に我ながら、自分のことをつくづく厄介なファンだと自覚はしておりますが、「新シリーズは最高に面白い! だけどマンモスマンより強い敵が現れてほしくない、あの試合を超えてほしくない!」という、歪(ゆが)んだジレンマに囚(とら)われていました。
前シリーズをこよなく愛するファンとして、今から言うことは本当に、本当に、複雑なのですが......僕はこのロビンマスクVSネメシス戦を読んで、完全に新シリーズが前シリーズを超えたと感じました。思い出って本当に大切で、正直に言って未だに認めたくない気持ちもあるのですが......完敗しました! だから、僕はネメシスに叫びたい。〝厄介なファン〟である僕を完膚(かんぷ)なきまでに叩きのめしてくれて、ありがとう。僕の思い出を倒してくれて、ありがとう。
よく新シリーズは「懐かしいキャラが復活する同窓会」的な感想を聞きますが、もはやこのシリーズの面白さはそこじゃない。なぜならば、このシリーズから登場した新キャラ・ネメシスが、僕の人生のベストバウトを塗り替えてしまったのだから。懐かしさだけだったら、大好きな超人であるロビンマスクの敗北に不貞腐れてるはずなんですよ。それなのに、悲しさよりも面白さが優(まさ)っているんです。これほど複雑な心境はありません。新シリーズは数々の伝説を残した前シリーズを〝超える〟正統な続編なのです。
そう考えると、この新シリーズそのものが、過去の栄光、懐古主義に取り憑かれた者たちを相手に、現在(いま)の超人が立ち向かう構図にも見えてきます。
これが、僕の中でのロビンマスクVSネメシス戦の総括です。最後に、ロビンマスクはKO負け後、ネメシスによって砂漠の底に沈められてしまいました。
正悪連合軍の勝ち星が続き、浮かれていた読者を絶望させるこの結末に、改めて『キン肉マン』という漫画のシビアさを感じました。ここで正義超人軍がリーダーを失ったことは、物語の大きなターニングポイントになります。
多くの仲間たちから慕われた正義超人のリーダー、散る...!
正義超人軍と完璧・無量大数軍、両陣営の最大戦力の闘いの後は、団体戦セカンドステージのラストとなる第7ステップにて、ロビンマスクの弟子・ウォーズマンとポーラマンの闘いが本格化します。
ウォーズマンは人気投票で1位を取ったこともある人気超人ですが、作中では強敵に当たってやられたり、襲撃に遭って試合に出られなかったりと不遇な目に遭うことが多く、バッファローマンやマンモスマンのようなパワーファイターのかませ犬にされることもしばしば...。
今回のポーラマンもそういう不遇な目を想像してしまうような相手だったのですが、師であるロビンマスクの弔(とむら)い合戦ということもあって、ウォーズマンも鬼気迫る勢いで立ち向かいます。さっそく序盤からロビンから学んだテクニックを駆使して攻め立てるのですが、ポーラマンはその猛攻をものともしません。
この試合には、パワーかテクニックか、機械か野生か、といった格闘技らしいテーマも見え隠れしています。圧倒的パワーと体格差で猛攻し続けるポーラマンと、的確に関節技でダメージを蓄積させていくウォーズマンという対比は、緊張感がありますね! スクリュー・ドライバーと見せかけてアンクル・ロックに入るシーンなど、要所で光る関節技に痺(しび)れます。
試合直後は怒りのあまり、単調な攻撃が目立ったウォーズマン。だが冷静さを取り戻すと、ロボ超人らしいクレバーな闘いで攻め立てる!
『キン肉マン』の試合って、キン肉バスターやバトルシップ・シンクをはじめとする、上空から落下して相手をキャンパスに激突させるようなド派手な必殺技の応酬が、やっぱり醍醐味というか、人気があると思うんですよね。でも、ウォーズマンのロボ超人らしい計算高さというか、的確に相手の弱点やスキを突いてジワジワと潰していくような闘いぶりも、渋くていいんですよね。試合中盤のシベリアン振り子落としからの脇固めとか、もうたまらないですよ!
ウォーズマンはその実力とは裏腹に、負け姿の印象が強い超人ですが、それに拍車をかけているのが試合中の尋常じゃないダメージ描写でしょう。ベコベコに凹むヘルメット、一本を残してブチ折れるベア・クロー、全身からは火花が散ったり、煙を吹いたりと徹底的に痛めつけられます。
それに加えて30分という活動制限時間に、ロボ超人という切ないバックボーン。なんだか、漆黒のマスクの中から毎回引き立て役に甘んじてしまうような哀しさを感じます。そういう部分に、読者もつい応援したくなるんでしょうね。
試合後半では、制限時間が近づくものの正義超人軍の仲間たちから激励を受け、友情パワーが覚醒。自身最大のハンディキャップである30分制限がスーパーユウジョウモードで5分間延長されるという、パワーアップを果たしました。怒りによって8000万パワーの超人強度を見せたバッファローマンとは、また違ったベクトルの強化に胸が高鳴ります!
オモイヤリ+ヤサシサ+アイジョウ+シンジルココロで、スーパーユウジョウモード発動! 発動限界時間が5分延長!!
そして、師匠の必殺技・タワーブリッジ ネイキッドから、自身の決め技パロ・スペシャルへと怒涛の必殺技ラッシュ! パロ・スペシャルは初期の決め技ということもあって、バッファローマンやネプチューンマンなど何度も破られてきましたが、やはりその超人の代名詞である必殺技が炸裂するのを見られるのはうれしいですね。
最終的にはパロ・スペシャル ジ・エンドでフィニッシュとなりましたが、この終わり方もテクニックVSパワーという闘いの結末にぴったりで、団体戦のセカンドステージのトリを飾るにふさわしい熱い闘いでした。ちなみに、終了直後にキン肉マンが「マンリキ戦以来の勝利じゃーっ!」と言っていましたが、本当に長かったですね...!
コミックスでいうと第27巻以来、年数では約19年ぶりの勝利...!
完璧・無量大数軍との団体戦では、各陣営のイデオロギー、思想を語る場面がいくつかありました。例えば正義超人はリング上で闘う目的を、共に研鑽(けんさん)し、わかり合うためと提唱しています。絶対君主制度の悪魔超人は「あの方」のためならば捨て駒になることも厭(いと)わない忠誠心が求められます。
一方、最強を追求する完璧超人には敗北したら自害しなければならないという、厳格な掟(おきて)があります。他陣営である正義超人からすると彼らの「敗北=死」という観念は到底理解できません。
それがポーラマン戦後、ネメシスとウォーズマンの会話から、彼らが不老不死だという事実が明かされます。つまり、彼らは敗北したら死なねばならないのではなく、敗北によって初めて死ぬことが許されるのです。正義超人が真っ向から否定した完璧超人の風習は、永遠に修羅の道を極め続ける彼らからしたら、ある種の救いだったのかもしれません。
今にして思えば、ポーラマンが試合中にウォーズマンのことを何度も「機械野郎」となじるのも皮肉が効いているじゃありませんか。完璧・無量大数軍こそ、古(いにしえ)の時代に何者かが夢見た理想を実現するため、永遠に闘い続け、スクラップ&ビルドを繰り返すマシンのような存在だったわけです。その一員であり、かつては生身の超人だったポーラマンが、ロボ超人のウォーズマンに温かみを感じたというセリフ......彼らの哀れさを感じ取れる名シーンでしたね。
ラストは、半日前へと遡(さかのぼ)りつつ謎の六人組のシルエット姿、そしてついに"あのお方"による「悪魔超人軍による超人墓場への侵攻」を宣言するわけです。
余談ですが、Web連載(2011年~)へ移ってから、ゆでたまご先生もスマホやパソコンで読みやすいように比較的見開きページを抑え気味にしていたと思うんです。
でも、この巻の終盤では、キン肉マンとネメシスの対話で上半分を見開きで使うという、初期の『キン肉マン』でよく見かけた構図を使っていたり、悪魔将軍を見開きで登場させたりと、ページの使い方の意識が若干変わったように感じました。
これは僕の穿(うが)った見方だと思いますが、「ここから先はWeb連載じゃ収まらないぞ!」「いずれ必ず雑誌連載に戻ってやるからな!」といったような、ゆでたまご先生の強い意志を感じました。実際に『キン肉マン』はその後、雑誌連載が復活するわけで、不言実行とはまさにこのこと。面白いモノを作り続ければ、必ず世の中は変わる......そんな不確かな言葉を『キン肉マン』は信じさせてくれる偉大な作品です。
次巻の第46巻では、ついに復活した悪魔将軍と悪魔六騎士が活躍する新展開を迎えます!
悪魔将軍に仕える謎の六人組の正体は次巻で明らかに...!!

『キン肉マン』の魅力のひとつに、個性的な効果音の数々があります。作中で描写される大体の音は僕も理解しているつもりなんですけど、どうしてもわからないのがひとつだけあるんです。それは、ウォーズマンの活動時間限界を伝える際に鳴っていた「キンカキンカ」です。
一般的な警告音だと「ビー ビー」などといったデジタル音が使われそうなものですし、実際、スーパーユウジョウモードでは「ピコン ピコン」という効果音が使われていました。でも、この「キンカ キンカ」という音だけは全く想像がつかなくて...。
もしかしたら昭和の家電などで、そういう警告音がするものがあったのかもしれませんが、もし思い当たる節がある方がいれば、ぜひ教えてほしいです!(笑)
「キンカ キンカ」って、なんなんですか〜!?
●おぎぬまX(OGINUMA X)
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家、小説家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン。原作者として参加している『笑うネメシス―貴方だけの復讐―』が『漫画アクション』(双葉社)にて連載中。ミステリ小説シリーズ『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』、『キン肉マン 悪魔超人熱海旅行殺人事件』が好評発売中
構成/石綿 寛(樹想社) ©ゆでたまご/集英社
記事提供元:週プレNEWS
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