【沸騰! 消費税政局②】"減税策なし"でも参院選は大丈夫!? 石破自民の皮算用
消費減税に対して慎重な立場であることを強調し続けている石破茂首相
7月下旬に投開票となる参院選に向けて、野党はそれぞれ独自の減税策を発表。一方で与党・自民党も何かしらの減税策をひねり出すとみられていたが......どうやらそこからは身を引くらしい。
税金据え置きの与党vs減税の野党という構図が生まれることを受け入れた形だが、自民党内では政権維持に向けてどんな計算が働いたのか? 【沸騰! 消費税政局②】
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■幹事長の主導で減税は見送り石破茂首相が消費減税を見送る意向を固めたとの報道が流れたのは5月9日の夜のこと。ニュースを目にした自民党参議院の関係者がこう嘆く。
「参議院選挙を前に、野党は軒並み消費減税を公約に掲げている。なのに、自民だけが減税見送りとは......。物価高にあえぐ有権者の反発を考えれば、7月の参院選は厳しい戦いは避けられません」
石破首相に見送りを強く進言したのは、消費減税に慎重な森山裕幹事長とされる。
実は、自民党内では改選を迎える参議院議員を中心に、食料品などを対象とする軽減税率を恒久的に0%とするという大胆な消費減税を求める署名集めが進んでいた。
「署名集めに動いたのは党の積極財政議連のメンバーです。5月8日には国会議員69人分の署名を添えた提言を手に、永田町の自民党本部4階にある幹事長室に森山さんを訪ねて直談判に及んだのですが、幹事長の対応は強硬で、ついにうなずくことはありませんでした」
責任政党として安易な消費減税には手を出さない。自民党・森山裕幹事長はたびたびそう明言した
ジャーナリストの須田慎一郎氏も言う。
「森山さんは相当な塩対応だったと聞いています。特に難色を示したのが国債下落への懸念。減税の財源は赤字国債で賄うという議連側の提案に、『そんなことをしたら国債価格が暴落して、国の財政が危機になってしまう』と、にべもなかったそうです」
自民党執行部が減税提言を強気に拒否する背景には、4月10日に自民党が独自に実施した参院選情勢調査の影響もあったとされる。
石破首相が宣言した参院選の勝敗ラインは「参院全体で与党過半数」。参院全体の過半数が125で、自公の非改選議席が現状75もあるため、今回の選挙で自公は50議席以上を確保すれば過半数となる。
「幹事長室では裏金問題などの影響による自民苦戦の予測をしていたんですが、自公合わせて50議席という勝敗ラインの低さを基準にすれば、情勢調査ではかなり良い数字が出たんです。森山幹事長はこの数字なら減税を公約に入れなくても十分に野党と戦えると判断したのでしょう」(全国紙政治部デスク)
だが、自民党内では参院関係者を中心に、こうした執行部の皮算用に不満がくすぶる。
「良い数字が出たといっても4月上旬のデータに過ぎない。有権者の判断は刻一刻と変化するもの。自民だけ減税見送りとなれば、野党支持に回る有権者も出てくるはず。参院選の頃には自民大敗を示すデータに様変わりしていてもおかしくない。
見送り決定は、与党も減税を打ち出すことで消費減税が参院選で争点化することを防ぎたいという、自民参院側の思いを断ち切るもの。残念でなりません」(前出・自民参院関係者)
実際、直近の情勢調査では参院選での自公獲得議席を50台前半とする予測も少なくない。前出の須田氏もこう言う。
「地方を回っても自民に勢いは感じられない。支持率急上昇中の国民民主党の候補に競り負けている選挙区も珍しくありません。2007年の参院選で安倍自民は改選64議席から37議席となる惨敗を喫した。消費減税の争点化が確実となった今、7月の参院選で石破自民は07年に次ぐ大敗を食らってもおかしくない。そうなれば、自公で50議席を割ることもありえます」
自民の消費減税見送りは大敗リスクと隣り合わせのスリリングな決断だったと言える。
■やっぱり野党はまとまらないこうなると、野党にとってはチャンスだ。減税に慎重な自公に対して、「物価高にあえぐ国民の味方」と有権者にアピールでき、押せ押せムードで参院選に臨める。しかも、昨秋の衆議院選挙で野党は自公を少数与党に追い込んだ。衆院で過半数を占めているので、全野党で消費減税の法案を多数で可決することも可能なはず。
だが、今の野党の動きにそんなムードは見えない。
「消費減税で一致しているように見える野党ですが、実際にはその規模も財源も、さらに言えば、本気度もバラバラ。これでは野党が一丸となって減税法案を提出することなど無理な相談です。自民執行部もそうした野党のバラバラさをよくわかって、減税見送りに踏み切ったフシがあります」(前出・須田氏)
というわけで、改めて野党の減税案をいくつか見てみたい。
立憲民主党は食料品にかかる消費税率を1年間、8%から0%にする。財源に必要な5兆円は赤字国債に頼らない確保策を検討するという。
ただ、前出の須田氏はこう言う。
「1年限定5兆円の減税なら、一度きりの給付金と一緒。これくらいの支出なら4年連続60兆円以上を記録している税収増で賄える。増税派の野田佳彦代表は財務省にとって大切な政治家。1年5兆円は財務省にとっても許容範囲なのでしょう。その意味で、立憲の減税案は参院選前に有権者ウケの良い公約をアリバイづくりで打ち上げただけと言えなくもありません」
その点、国民民主党、れいわ新選組、共産党は力が入っている。
国民民主は時限的ながら一律5%に引き下げ、必要な財源の年間15兆円は堂々と赤字国債を発行して賄う。れいわは「消費税廃止、最低でも5%に引き下げ」、共産は「廃止を目指し、まずは5%に引き下げ」とそれぞれ鼻息が荒い。
ただ、この3党の減税案も、参院選前の人気取りという側面は否定できない。
「いずれも小政党で、予算を伴う法案提出には衆院で50、参院で20以上の議席が必要という条件を満たせていない。だからこそ、ダメ元で財政ポピュリズム的な減税案をぶち上げて耳目を集めることができるんです。
党勢拡大中の国民民主も大政党になれば、もう少し現実的な減税案へとトーンダウンするしかなくなるのでは?」(前出・政治部デスク)
野党が一丸となって与党の自公を消費減税に追い込む―同床異夢の減税案でまとまりに欠ける野党では極めて困難なシナリオだろう。
■関心は参院選後へ?与党の関心は消費減税の成否よりも、参院選後の政権の枠組みに注がれているという声もある。参院選で自公が大敗し、衆院に続いて参院でも少数会派となれば、政権与党の組み替えが始まるからだ。
「下野したくない自公は新たな政権パートナーを探し、政権維持へと動くはずです」(前出・政治部デスク)
その際の選択はふたつだという。政治部デスクが続ける。
「ひとつは政策の近い日本維新の会か国民民主を与党に迎え入れ、3党で政権をつくる。ただ、両党とも減税重視なので、折り合いがつかないケースも想定されます。そのときに第2のチョイスとして浮上するのが、増税志向の強い野田立憲と時限的に大連立を組むというシナリオです。
1年限定で食料品0%の減税策を実行して立憲の顔を立て、1年後に0%を8%に戻すときに大連立政権の数を頼みに、消費税アップを断行する。増税が悲願の財務省も大喜びで支援に回るはずです」
野党側にもチョイスはある。
「野党各党の減税派で共同会派をつくり、玉木雄一郎氏のような"減税スター"を擁立、首班指名にチャレンジするんです。そもそも、そのときには自公は衆参で少数派に転落し、求心力が衰えている。与党から離脱する減税派議員を糾合すれば、政権交代も不可能ではないでしょう」
ただ、国民の生活に直結する減税策が政権争いや選挙対策に利用されることに違和感を抱く人も多いはず。政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏もこう注文をつける。
「かつて消費税を10%に上げる際、食品などに軽減税率を設定し複数の税率を導入したのだから、本来であれば消費税はそのときの経済状況に応じて、上げたり下げたりできるものではあるんです。事実、欧州では景気悪化時には大幅に税率を下げて人々の生活を支えました。
ところが、日本では10%に上げたときに国民の批判を和らげるために単に軽減税率を導入したに過ぎず、消費税は今回も政局や選挙対策向けの点数稼ぎの具として矮小(わいしょう)化されてしまった感がある。国民が納得する本来の税制を論議すべきでしょう」
5月13日、自公は消費減税に代わる新たな経済対策として、今秋の臨時国会で補正予算を組んで対応することで合意した。消費減税で盛り上がる野党を早くも牽制(けんせい)する動きに出たというわけだ。
消費減税で票をかき集めようと動く野党、減税なしで参院選に勝利しようという自公―軍配はどちらの陣営に上がるのだろうか?
写真/共同通信社
記事提供元:週プレNEWS
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