"名人就任"40周年! ゲーム業界のレジェンド・高橋名人が語る「年代別推しゲー」【後編】
ファミコン体操を披露する名人。「今はあんまり指が動かせなくなっちゃった(笑)」
名人就任40周年を迎えた高橋名人のスペシャルインタビュー。1970年~80年代の"推しゲー"を語った前編に続き、後編では1990年代から2020年代に登場したタイトルについて語っていただいた。(【前編】はこちらから)
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次世代機が登場した新時代! ~1990年代の推しゲー~――先ほどは『ドラゴンクエスト』の話になりましたが、国産RPGの双璧とも言える『ファイナルファンタジー』についてはいかがでしょうか。
高橋名人(以下、名人) 時代を変えた作品という観点で言うと、1990年代の1本として『ファイナルファンタジーVII(以下、FF7)』(1997年、プレイステーション)は欠かせないと思います。もちろんそれ以前のシリーズもよく出来ているのですが、現代的なゲームの作り方のベースとなったのはこの作品かな、と。
それまでのゲームでは、例えばムービーの中でのキャラとゲーム中のキャラの表現が全く違うのが当たり前だったんですが、『FF7』ではムービーと遜色(そんしょく)ないポリゴンのキャラが、ゲーム中にぐりぐり動かせた。シリーズを重ねるたびに新しい要素が加わっていったのが『ファイナルファンタジー』シリーズの特徴だと思いますが、『7』でドット絵からCGになってシリーズの方向性も大きく変わりましたよね。
日本で400万本超、世界で1000万本超を売り上げた革新的ゲーム
――1990年代は名作と呼ばれるRPGが多く発売された年代ですよね。『FF7』以外で印象的なタイトルはありますか?
名人 やっぱり『ポケットモンスター(以下、ポケモン)赤/緑』(1995年、ゲームボーイ)も忘れられない傑作です。そこら中で通信ケーブルを持った子どもたちがうろうろしていて、ハドソン社員としては「いいな~ポケモン」って指くわえて見てるだけでしたから(笑)。それくらいインパクトがあって、子ども向けのRPGとしては抜群の出来の良さでした。
通信を使ってポケモンを交換するという新しい遊びも良かったし、友だち同士で違う色のソフトを買い合って、ゲームを通して友達の輪が広がるのもよかった。ちなみにハドソンも交換の仕組みをマネして『ボンバーマンGB』(1994年)を出したんです。でも通信ケーブルの転送速度が遅かったので、どう頑張っても同期が上手くいかない。ただ、考えてみたらひとりで両方の画面を見ながらプレイするわけではないので、多少ずれてても遊べればいいということで、発売できたんです。
――大胆な発想ですね(笑)。
名人 あとはこの時代で個人的に外せないのが、音ゲーの『パラッパラッパー』(1996年、プレイステーション)。『Dance Dance Revolution』(1998年、アーケード)と、どちらを選ぼうか迷ったんですが、やはり音ゲーの礎にもなった作品ですので。遊び方自体はシンプルですし、音楽ゲーム、リズムゲームの基礎を作ったという点でも本当に素晴らしい一作です。
やってみると見た目以上に難しいんですが(笑)、ペラペラのキャラクターも個性的で味があるし、楽曲もノリが良くて楽しい。もうひとつのポイントとしては、この作品をきっかけに女性ユーザーがかなり増えたそうなんです。ゲーム人口の裾野を広げたという意味でも、名作ですよね。
「この年になると肉体的遅延があるので(笑)、音楽ゲームとか格闘ゲームとか、シューティングとかもなかなか満足に遊べなくなったのが残念です」と語る高橋名人。とはいえ、その語り口からは年を感じさせない活力があった
――2000年代の作品についてはいかがでしょうか。
名人 当時のゲーム業界ではプレイステーションが全盛期を迎えていたんですが、2004年に任天堂がニンテンドーDS(以下、DS)を発売しました。DS初期の大ヒットタイトルといえば、やはり『脳を鍛える大人のDSトレーニング』(2005年、ニンテンドーDS)が挙がると思います。
これは本当に革新的で、DS本体をタテで持つという遊び方や、タッチペンだけで遊ぶシステムも斬新でしたが、何より子どもからおじいちゃんおばあちゃんまで、ほぼ全ての世代の人をゲームの世界に引き込んでくれたというのが非常に大きい。大人がゲームをやる機会が少なくなっていた時代なので、幅広い層のユーザーを取り入れてくれたというのが本当にありがたかったですよね。
いわゆる「脳トレ」ブームの火付け役。以後DSにはパズルや学習用ソフトのリリースも増えていく
――確かに当時、ご高齢の方がDSでこのソフトをプレイしている場面をよく見ました。
名人 まあ、あれでどれだけ脳を鍛えられたのかはわかりませんけどね(笑)。同じように、この頃にプレイヤーの世代を広げてくれたのが『パズル&ドラゴンズ(以下、パズドラ)』(2012年、ゲームアプリ)でしょう。当時のスマホゲームは、タッチだけしていればクリアできるアプリゲームが多かったんですが、その中で指をクルクル回しながらクリアしていくという面白さが新しかった。
ちなみに『パズドラ』のプロデューサーの山本大介くんは、ハドソン在籍時に私の斜め後ろに座ってたんです。ハドソンにいた頃に『パズドラ』を作ってくれていればよかったんですが(笑)。
――(笑)。この頃から、「基本プレイ無料だけど課金あり」というゲームが増え始めます。課金ゲームについては賛否が分かれますが、名人のご意見は?
名人 新しい集金のやり方ですし、あっていいと思います。メーカーの立場で言うなら基本プレイ無料のゲームで利益を出すのはそれしか方法がないですからね。ただ、ガチャの仕様やどんどん過剰になる課金システムに問題があるのも確かなので、排出率を上げるとか、上限を設けるとか、何かいいルールがあるといいと思いますけど。
個人的には、それこそ昔のゲームの定価にあたる1万円くらいを払ったらフルボリュームをまんべんなく遊べるくらいがいいと思いますが、当時と違ってバージョンアップを重ねて長く遊んでもらわないといけないですから、なかなか難しいですよね。サービスを長期間続けるならその分、収入も継続的にないと続けられないですし、あまりに収入の見込みがないゲームはすぐにサービス終了になりますから。
実際、ゲームも完成して宣伝物を用意して、さあこれから雑誌とかネットに情報を載せていこう、という矢先に肝心のアプリがすぐ配信終了してしまったこともありました。
――当時はゲームアプリが乱立していましたからね。そんな中で2012年に、任天堂がニンテンドー3DSを発売しました。この時期に気になったタイトルはありますか?
名人 シリーズ自体は前からありましたが、『とびだせ どうぶつの森』(2012年、ニンテンドー3DS)は良かったですね。携帯ゲーム機の利便性とポップな雰囲気のシナジーで女性にも訴求したタイトルでした。自分だけの箱庭が作れて、仲のいい子を招待したり。こだわろうと思えばどこまでもこだわれて、自分の考えた理想の世界を実現できるのがいい。もう無限に遊べてしまう。
あとはこの時期の携帯ゲームのタイトルで言うなら、『モンスターハンターポータブル』(2010、プレイステーションポータブル)も良かった。当時のハドソンでも「モンハン持ち」が流行していました(笑)。
PS2用ソフトのリメイクだが、マルチプレイがしやすくなったことで人気が爆発
――ちなみに名人は2011年5月にハドソンを退職されています。退職されたきっかけというのは?
名人 簡単に言うと、2011年4月にハドソンがKONAMIの子会社になったんですよ。その時に、今後は家庭用ゲームソフトを作るのか、それとも作らないのかという話になって。それで、もし家庭用のゲームソフトを作らないんなら自分が会社にいる意味はもうないな、と思ったんです。
ただ先方のご厚意もあって、引き続き「名人」という名称は使わせていただいています。なので、やっていることは今も昔もあまり変わらないんです(笑)。大きな違いは、自分で仕事を選べるようになったことくらいですかね。
退職以前と以後の違いについて、「ハドソン在籍時は仕事の依頼をしにくかったらしいんですが、今は『仕事を依頼しやすくなった』とお声がけいただくことが多いです」とのこと
――2020年代、ここ数年の"推しゲー"は何でしょうか?
名人 これはもう、『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~(以下、桃鉄)』(2020年、Nintendo Switch)に尽きます。コロナ禍の需要に後押しされたのもあるとは思いますが、400万本以上売れた大ヒット作品となりました。
「桃鉄」シリーズはハドソン時代からずっと遊んでいたシリーズですが、やっぱり子どもたちの勉強になるし、親御さんも安心して買ってあげられるタイトルなんですよね。さらに、勝つためにはただ矢印のさす方向を目指すだけではなく、ある程度テクニックを駆使する必要もあるので、そういう意味でやり込める部分もあります。
このシリーズで各地の駅名や名産品を覚えた人も多いのでは? ©さくまあきら ©Konami Digital Entertainment
ただ1点だけ、今の『桃鉄』についてKONAMIさんにお願いしたいことがあって。オンライン対戦の仕様上、3分間動作がないと強制でサイコロをふるシステムになっているんですが、これの仕様だけはどうにかしていただきたい(笑)。オンライン配信で遊んでいる際におしゃべりしていると、3分なんてあっという間なんです。まあ、待ち時間が長くなるとサーバに負担がかかるとか、そういう諸事情もあると思いますが。
――ゲーム配信者への配慮というのは、現代ならではの対応かもしれませんね。ここまで名人の40年と共にゲーム史を振り返ってきましたが、最後に、最近遊んで一番面白かったゲームを教えていただけますか。
名人 インディータイトルなんですが、ゲーム配信では人気のあるタイトルで『スーパーバニーマン』(2017年、PCほか)ですね。まあ腹が立つゲームなんですけど(笑)、ウサギの着ぐるみを着た男を動かすゲームで、どうにもコイツが言うことを聞かない。思いもよらない動きや飛び方をするので、協力プレイをしていても盛り上がるタイトルです。
クセ強めの操作で着ぐるみ男をゴールに導くが、とにかく落ちる! 刺さる! やられまくる! ©2017-2025 Catobyte Limited
あとは昔からずっと『立体ピクロス』(2009年、ニンテンドーDS)も遊び続けています。もともとピクロス(イラストロジック)が好きなんですが、2次元ではできない、デジタルだからこそ遊べるパズルという点がいいですよね。これからもずっと遊び続けると思います(笑)。
――ありがとうございました!
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●高橋名人(たかはしめいじん)
本名・高橋利幸(たかはしとしゆき)。1959年5月23日生まれ、北海道生まれ。(株)MAGES.、アミュレート、(株)ビー・セブン所属。プロゲーマー兼ゲームプレゼンター兼実業家。ゲームメーカー・ハドソン在籍時に「高橋名人」として各種イベントなどで活躍し、現在も様々なメディアで精力的に活動中。
公式X【@meijin_16shot】
取材・文/石綿 寛(樹想社) 撮影/山添 太
記事提供元:週プレNEWS
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