映倫 次世代への映画推薦委員会推薦作品 —「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」
青春の空を滑走した先で、痛みの重さを知る
理想とは程遠い大学生活を送る小西徹(萩原利久)。それでもバイト仲間のさっちゃん(伊東蒼)、ポジティブな友人の山根(黒崎煌代)と過ごす日々はそこそこ楽しい。そうした中、学食でひとり蕎麦をすする凜々しい桜田花(河合優実)と知り合い、急接近。それを感じ取ったさっちゃんは、意を決して小西に告白するが、その想いは実らず。やがて桜田は小西の前から姿を消す――あらすじに何気なく目を通し、大学生の青春と恋愛に、ちょっとミステリーを利かせたヤツだとわかった気になる。だがその慢心は、観始めてすぐに砕かれる。若者らしく尖った挙動と斜めに切り込むおしゃべり、それに呼応した突発的カッティングとカメラアングル。ジャルジャル福徳秀介のデビュー小説を映画化した「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」は、ありきたりでない世界を立ち上げていく。
そうした刺激が上滑りすることはない。ベースは若者たちのシリアスな葛藤だ。それぞれの関係が曇り出す中、それでも映画は独自の感性を行く。小西と桜田がおかしなメニューの喫茶店をめぐって交わすやりとり、小西と山根が仲直りしてすするカップラーメン、悲しみを受けて小西に怒鳴りながらも実は自分に怒っているバイト先の主人(古田新太)。その流れと振幅の妙が、まだ名付けられていない情動となる。苦悩や挫折の定番劇という認識で入ると、思いがけず遠くへ、深くへ連れていかれる。縦横無尽にして、きちんと痛い。大九明子監督の懐の深さを思い知る。
柱となるのは、さっちゃん、桜田、小西にそれぞれ用意された長い長い語りのシーン。その表情と、乱高下しながら押し寄せる思いに、こちらの疎遠だった感情のフタも開けられてしまった。その日の空を、覚えておきたい。
文=広岡歩 制作=キネマ旬報社(「キネマ旬報」2025年4月号より転載)
「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」
【あらすじ】
冴えないながらもそれなりに楽しい大学生活を送る小西。ある日、お団子頭で凜とした桜田花に目を奪われ、思い切って声をかけたところ急速に意気投合する。桜田は「毎日楽しいって思いたい。今日の空が一番好き、って思いたい」と口にするが、それは小西が亡き祖母から聞いた言葉と同じだった。こうして世界が開けた矢先、衝撃の事態が襲う──。
【STAFF & CAST】
監督・脚本:大九明子
出演:萩原利久、河合優実、伊東蒼、黒崎煌代 ほか
配給:日活
2025年/日本/127分/Gマーク
4月25日より全国にて順次公開
©2025「 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」 製作委員会
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記事提供元:キネマ旬報WEB
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