5メートル! 6メートル! 5メートル! 佐久間朱莉が初Vを手繰り寄せた神セーブ連発の極意「別に死ぬわけではないから」
<KKT杯バンテリンレディス 最終日◇20日◇熊本空港カントリークラブ(熊本県)◇6565ヤード・パー72>
ピンチを乗り越えた先に夢見た最高の景色が待っていた。長かった道のりのゴールまで、あと20センチでたどり着く。最終18番の短いパーパット。リードは2打。もう誰にも邪魔されることはない。ツアー123試合目で悲願の初優勝を決めた佐久間朱莉は両手を突き上げ、よろこびを全身で表現した。
「やっと勝てました。ありがとうございます」
コロナ禍で約8カ月遅れの2021年6月に実施された20年度の最終プロテストにトップ合格。その年のステップ・アップ・ツアー最終戦でプロ初優勝を飾った。ツアー本格参戦1年目の22年にメルセデス・ランキング(MR)33位でシードを獲得し、昨季はMR8位に躍進した。順風満帆のプロ人生。唯一足りないものがレギュラーツアーでの「優勝」だった。
「私より下の子たちが初優勝していくのを見て、正直うらやましいと思うときもありました。勝ちたい思いは強かったです。それでも、自分を信じてやってきたことが、きょう実を結んだと思います。うれしい。本当に幸せです」
23年はプレーオフで敗れた「リシャール・ミル ヨネックスレディス」の2位などトップ10入りは8度あった。昨季は3度の2位などトップ10入りは14度。だが、勝てなかった。初Vに最も近い存在と言われながら、立ち位置は常に勝者を祝福する敗者だった。
そして迎えた運命の日。首位と1打差の2位から出て、前半だけでスコアを4つ伸ばした。6番のバーディで単独首位に立つと、そのまま逃げ切り。5バーディでボギーなしの「67」。結果だけを見れば、強さが際立つ勝ちっぷり。だが、バックナインはピンチの連続だった。「ショットがうまく打てなかった」。勝利の女神は何度も最後の試練を課してきた。
1打のミスに泣いてきた。一つのボギーが致命傷になることは誰よりも知っている。同じ轍は踏まなかった。13番は5メートル、14番は6メートル、17番も5メートルをねじ込む神がかり的なパットの連続でパーを拾い続ける。インの9ホールだけで1パットのパーは5度。パー5の11番はティショットがフェアウェイ左にある大きな木の真後ろについた。スイングすればフォロースルーでクラブは木の幹に当たる。それでも「出すだけ」の選択はなかった。「消去法で選んだ」という、もし折れてもその後のプレーに最も支障が少ないと判断した7番アイアンで2打目を打ち、ここでもパーをセーブした。
冷静な判断と豪胆な決断。これまでの悔しい経験は心の強さに変わっていた。「くらいついていかないといけない。でも、(外しても)死ぬわけではない。そう思いながら、いいストロークをしようと思っていました」。神セーブ連発のパットも必然と思えてしまう迫力を、穏やかな性格の22歳はいつの間にか身につけていた。
前週は男子メジャー「マスターズ」のローリー・マキロイ(北アイルランド)の初優勝にもらい泣きした。史上6人目のキャリアグランドスラムを達成したマキロイが口にした「夢は叶う」を胸に刻んで戦った3日間。「夢は叶うことをマキロイが見せてくれた。自分もきょうは最後まで自分を信じてプレーできたと思います」。
待望の初Vで現在97位の世界ランキングは確実にアップする。5月15日からの「Sky RKBレディス」(福岡)終了時の19日に発表される世界ランキングで75位以内に入れば、同29日開幕の「全米女子オープン」に出場できる。22日に千葉で開催される全米予選会は当初から回避。「国内で頑張って世界ランクを上げていこうと思っていた」。昨年の「AIG女子オープン」(全英)に続く海外メジャー挑戦を実現させるまで、チャンスはあと3試合。「1つ勝つと2つ勝ちたくなる。やることは同じ。勝ちにこだわっていきたい」。もちろん、次も、その次も夢は叶えるつもりだ。(文・臼杵孝志)
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