大阪・関西万博の来場者輸送、利用者の安全守る大阪メトロとスタートアップの挑戦【コラム】

大阪・関西万博(2025年日本国際博覧会。4月13日~10月13日)の開幕間近。前売り入場券の売れ行きが今ひとつなど関係者に気をもませるニュースは飛び交うものの、「いのち輝く未来社会のデザイン」がテーマの国際博が、2025年最大のイベントであることは、再度指摘するまでもないでしょう。
鉄道ファン注目は来場者輸送。会場最寄りはOsaka Metro(大阪メトロ)中央線の新駅・夢洲(ゆめしま)です。メトロ以外では、JRゆめ咲線(桜島線)桜島駅からのシャトルバスルートもあります。
本コラムは、主催者の万博協会が練り上げた輸送計画からファン目線の話題をピックアップ。後段では、大阪メトロが急成長のスタートアップ(ベンチャー)企業と共同開発した、鉄道の安全性を格段に高める「AI(人工知能)見守りシステム」を取り上げます。
トンネルor大橋、宇宙船ライクな400系
会場の夢洲(大阪市此花区)は、大阪湾に浮かぶ人工島です。交通手段は夢咲トンネル(鉄道)、夢舞大橋(道路)にほぼ限られます。メトロは会場東ゲート、シャトルバスは西ゲートに到着します。
報道や周辺取材によると、万博協会が想定する1日最大来場客数22万7000人。利用交通手段はメトロ中央線13万3000人、桜島駅シャトルバス2万6000人、パークアンドライド(主にマイカー)6万8000人に分かれます。
メトロ中央線の看板車両が、宇宙船ライクな400系電車。鉄道ファンには、「万博より400系が楽しみ(?)」の方がいらっしゃるかもしれません。同じ中央線には、新鋭30000A系も走ります。

パビリオンを意識したJR323系
もう一つの会場アクセス、JR西日本ゆめ咲線もお忘れなく。
パビリオンを意識した323系電車は、客席や運転席のカメラで撮影した景色をLEDパネルに投影。AR(拡張現実)技術で開放感・臨場感に浸れます。万博マターの車内空間演出は開幕当日の4月13日から。乞うご期待です。
JR西日本と万博では、大阪環状線からメトロ中央線への乗換駅、弁天町に新駅舎が開業。メトロ乗り換えが便利になりました。
会場内には公式「オフィシャルストア⻄ゲート店 JR⻄⽇本グループ」がオープン。店内には、こちらもARのフォトスポットがお⽬⾒えします。新幹線車両N700Sと万博キャラクター・ミャクミャクの記念フレームで写真撮影できるそうで、鉄道ファンは片道メトロ、片道JRがベストチョイスかも。
【参考】JR西日本が大阪・関西万博アクセス駅の弁天町に新駅舎 万博会場内にはオフィシャルストアも(大阪市港区、此花区)
https://tetsudo-ch.com/12996709.html
白杖や車いすを素早く検知
ここから話題を変えて、大阪メトロが万博も見据えて乗り出した、高齢者や障がい者も利用しやすいバリアフリーへの挑戦。
白杖(はくじょう)や車椅子利用客を素早く検知して、ホーム上の安全性向上につなげる「AI見守りシステム」、大阪メトロは2024年9月以降、長堀鶴見緑地線ドーム前千代崎など56駅に導入しています。パートナーのAIスタートアップにもご注目ください。


AIで認識するのは、駅の改札付近に既設の防犯カメラ映像です。白杖や車いすの利用客を見付け出し、駅長室(駅務室)に音とモニター表示で知らせます。
大阪メトロは、2021年秋から約3年間にわたり実証実験を重ねて検知性能をレベルアップ。検知率94.3%、誤検知の割合0.005%と、ほぼパーフェクトな水準まで精度を高めました。
創業14年目のスタートアップ
システムを大阪メトロと共同開発したのは、東京都文京区に本社を置くPKSHA Technology(パークシャテクノロジー)。
本サイトをご覧の皆さまは初耳の社名かもしれませんが、2012年に創業後、2017年東京証券取引所マザーズ、2022年同スタンダード、さらに2024年9月には最上位のプライム市場への上場を果たした、AIスタートアップのトップランナーです。
印象に残る社名は、仏教守護四天王の1人、広目天(こうもくてん)に由来。広目天のサンスクリット(インド古語)名が「ヴィルパークシャ」です。遠方の出来事や未来を見通す千里眼を持つとされ、〝鉄道駅の千里眼〟がAI見守りシステムです。
パークシャの企業ミッションは「未来のソフトウエアを形にする」。未来形ソフトは鉄道をどう進化させるのかを展望しました。
最大の難敵はビニール傘
例えて「欄干のない橋」。視覚障がい者は駅ホームの危険性をこう表現します。見守りシステムの開発でパークシャが担当したのは、頭脳部分といえる画像認識技術です。
創意工夫のポイントは……。大阪メトロの駅構内には、複数の防犯カメラが設置されます。画像から白杖や車いすを見付け出すのが、見守りシステムの基本的な仕組みです。

白杖の利用客が改札を通過すると、別掲のような画像が表示されます。目視では、比較的容易に白杖を見付け出せそうな気がしますが、システムでは試行錯誤がありました。
実証実験で白杖と誤認させた〝最強の難敵〟が傘。形状は棒状、ビニール傘は広げれば透明でも閉じれば白色に見えます。
白杖と傘を見分ける技術面のポイントは、パークシャオリジナルの機械学習/深層学習領域のアルゴリズムを用いたAIソリューション……といささか難しくなりそうですが、かみ砕けば白杖と傘(白色の棒状物体)を無数のパターンでコンピューターに学習・記憶させ、誤認をなくしたということです。
MaaSとSaaS
バリアフリーやユニバーサルデザイン(UD)は、鉄道に限らず社会全体の理想を表すキーワードで、実現の鍵を握るのがAIです。
AIと鉄道をつなぐキーワードが「AI SaaS」。SaaSは「Software as a Service」の頭文字で、「サービスとしてのソフトウエア」と訳されます。
本誌読者の皆さまなら直感的に思い付く「サービスとしての移動」を意味するMaaSとは、クルマの両輪のような関係です。
AI見守りシステムの開発過程を成功と失敗に分ければ、失敗の繰り返し、試行錯誤を経て実用化に至るわけです。
正月恒例の駅伝に例えれば、実証実験には〝途中棄権〟もあり得ますが、大阪メトロとパークシャはあきらめることなく二人三脚でゴールにたどり着きました。その粘り腰にあらためて拍手を送りたいと思います。

記事:上里夏生
記事提供元:鉄道チャンネル
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