【#佐藤優のシン世界地図探索103】「BF大學」が日本を救う!?
最高に難しい大学、東京大学。しかし、ここが日本の未来を支えているのではない。BF大学こそ、偉大な存在なのだ
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
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――現在、日本国内の私立大学の約5割強が定員割れしています。なんでも、平成から令和の間に大学が約300校も開校したそうです。これ、定員割れした私大は全部、潰したほうがいいのではないですか?
佐藤 まず、日本の大学構成でいうと国立大学は80校しかなく、実は公立大学が100校と多いんです。そして私立大は600校あり、このうちのおよそ300校が定員割れしています。
――その300校を潰してしまうというのは?
佐藤 潰してはいけません。というより、そうはなりません。なぜなら、この300校の私立大学では「四則演算」を教えているからです。
――四則演算と言いますと、まさか......。
佐藤 足し算、引き算、掛け算、割り算ですね。それから、パーセントの計算や常用漢字の読み書きといったことを教えています。
――それって、全て義務教育か高校までに学ばないとならないことなのでは?
佐藤 要するに、高校まで学業をサボりまくった学生たちが入学して学んでいるのです。そういった大学はいわゆる"BF大"と呼ばれています。
――BFとは、なんでありますか?
佐藤 "ボーダーフリー"です。そして、そのBF大の学生は良く勉強しています。どうしてかと言うと、社会に出ないといけないからです。
勉強しなければ、職に就いてもそこで必要なマニュアルが読めません。それまでサボりまくっていたからですね。
――それはすさまじいことになっていますね。
佐藤 それで、彼らは計算機が使えないんですよ。
――なぜですか?
佐藤 そもそも計算機があっても、四則演算ができないからですよ。その学生たちはBF大で必死になって中学生までの勉強をし直して、社会に出て労働者になるわけです。だから、その労働者たちを供給する場として、BF大は死活的に重要なのです。
――世界情勢が風雲急を告げている中、日本国内は労働者滅亡寸前の危機に陥っていると......。
佐藤 BF大がなければ、地方の中小企業でハードな仕事に就く労働者たちが生まれません。そういう労働者を作るために、BF大は絶対に潰せないんです。
それから、いま多くの学習塾が潰れていますが、それはおじいさんおばあさんが亡くなっているからです。
――なぜ老人が学習塾に関係するんですか?
佐藤 いまの日本では、子供の教育費を親は出せません。だから祖父母が出していたわけですが、どんどん亡くなっている状況です。だから、学習塾に行けない子供が増えてきたんです。それと塾は二極化しています。例えば、サピックス。
――おっ、あの名門難関校に入れるテクニックを教える塾ですね。
佐藤 そんなところに行くと、ついていけない子も多くなりますよね?
――はい。確か、あそこは成績優秀者を中心に授業が進みますからね。
佐藤 そうすると、個人指導塾か家庭教師を追加で雇います。家庭教師はいくらかかると思いますか?
――30万円位ですか?
佐藤 大手家庭教師派遣会社で10ヵ月で国語だけで約85万円です。
――1教科だけですか?
佐藤 そうです。一括払いで割引された金額です。算数もやれば170万円となります。それに塾自体が80万円かかるから、あわせて250万円ですね。
――高値であります。
佐藤 で、受験料もかかりますよ。50万くらいですかね。だから、この受験ゲームは総計300万円かかるということです。中学受験でこの金額ですから、親はその経済力に耐えられなくなってきています。
――それだと、落ちこぼれて落第する生徒が多くなり、BF大が必要になりますね。
佐藤 そうでないと、労働者の数が埋まらない状況なんです。高卒だと就職口はすごく絞られます。中卒なら就職先はそもそもありません。となると、エッセンシャルワーカーとして正社員になるには、どうしてもBF大は必要となるのです。
しかし、正社員として使えるようになるためには、中学レベルの知識をキチンと習得しないとなりません。だから、BF大は"Z旗"なんですよ。
――Z旗とは日露戦線の日本海海戦で、連合艦隊旗艦三笠に掲げられた旗ですね。その意味は「皇国の興廃、この一戦にあり」。すなわち「後がない最終決戦」であります。
佐藤 そう、これが最後だと。そのためには心を入れ替えて、勉強する最後の場だということです。
――若者のラストチャンスがBF大。
佐藤 例えば同志社大なら、学費は年間120万円かかりますが、BF大は年間70万円で済みます。学生自身がバイトしながらでも出せる金額です。なので、一生懸命バイトで金を稼ぎながら、中学の教科書の内容を完全にマスターします。
小学校高学年で落ちこぼれて授業にずっと付いて行けなかった学生が、心を入れ替えて4年間、本気で勉強する場なんですよ。だから、BF大は日本の下支えをしている重要な大学だということです。
――そうなると、義務教育が崩壊しているわけですね。
佐藤 いや、義務教育が難しくなり過ぎているんです。
――と言いますと?
佐藤 難関中学校の受験問題で、最近こんな問題が出たそうです。「辺野古に関しては、移設<容認>となっていますが、なぜ反対ではなく容認なのでしょうか?」。
――俺が答えるならば「知ったこっちゃないです」となります。
佐藤 不正解です。この場合の回答は、「積極的に受け入れる人がいないから」です。だから、容認となるということです。
――そ、そんなに難しいんですか?
佐藤 それから、こんなのもあります。「熱力学第二法則があるため、どのような古い建物でも崩れていきます。それが無い形にするためには、どんな方法がいいと著者は考えていますか?」。
――「気合と根性で崩れない」。
佐藤 正解は「式年遷宮のような形で、同じ設計図のところで建て直す」です。
――容認できません(笑)。
佐藤 こういう問題もあります。「ヴィンデルバルトは、『科学には2つあり、人文社会科学に関しては、個性記述的だ』と言っていますが、個性記述とはなんでしょう?」。
――知りません。
佐藤 いまの中学入試は、40年前とは全然違うんです。もう大学生レベルです。現代思想を小学生用の教科書で勉強しているくらいですから。
――そりゃ、それ以外の子供は落ちこぼれて、真剣に勉強しようと思わないですよ。BF大学は絶対に必要です。
佐藤 しかも、いわゆる詰め込み教育ではなく、ちゃんと思考する訓練をしていますからね。だから、中学入試で勉強したことが一生残ります。
となると、中学入試でラ・サールのような難関校に入った子供と、そうでない子でバーンと格差が生まれます。難関校に入った子は中学生になった時点で、もう大学レベルの教科書や社会人が読む本を理解できる子供になっているんです。
――ということは、全く理解できない子供たちがたくさんいる。定員割れの私立大学300校がそうだとすると、半数近くになるわけですね。だから、BF大学が最後のチャンスで、義務教育を勉強し直して、社会に出る。
佐藤 そうです。それができるようになってハードな仕事もできるようになります。
――介護もできますね。
佐藤 ちゃんと毎日、報告書が書けるようになるとか、そういったレベルの力が付いているので、介護職に就くこともできます。
繰り返しますが、日本の労働力を確保するうえで、BF大ほど重要な装置はありません。子供たちは17~18歳まではチャラチャラして、社会に出ることを本気で考えたりしませんよ。飯を食っていくのが大変だという意識を持つのは、高校生では無理なんですよね。
――楽しいことがたくさんありますからね。
佐藤 そんな中で意識の高い子たちは、工業高校、商業高校、農業高校に行きます。将来を考えて手に職をつけようとします。しかし、チャラチャラしている子たちには、工業高校は「地獄」みたいなイメージになっているから行きません。だから、今度はチャラチャラした学生しかいない普通科は、教育困難校になるんです。
――どんな「チャラチャラ普通科高校生」になるんですか?
佐藤 アルファベットが読めないとか、IとJの区別が付かないとかですね。
――マジですか?
佐藤 ある教育困難校に勤務していた知り合いが言っていました。8年間勤務した最後の年に、「卒業するんだから靴箱だけは整理しよう。皆が一度に行くと混雑するから、出席番号で偶数の人が先に、その後に奇数の人が行こう」と言ったら、たむろしていた十数名の生徒が「センセー、俺はグースーっすか? キスーっすか?」と聞いてきたそうです。
――偶数、奇数すら知らない......。日本に未来はあるのでしょうか?
佐藤 あります。BF大の学生が真面目に勉強しているからです。そんな子供たちがBF大に行って、初めてやる気を起こすんです。「ヤバい」とね。
――日本の未来にわずかな光明が差してきました。
佐藤 だから、私立大のBF大を潰すわけにはいかないんです。学費と生活費を自分でバイトして稼いで卒業していく学生はたくさんいますからね。
――すると、国民民主の「103万円の壁」というのは?
佐藤 BF大の学生には、103万だと年間30万円くらいしか余裕はありません。さっき言ったように一般の大学と比較して学費が70万円と安くても、生活費で精一杯です。
――結局、実現はしませんでしたが、国民民主の178万円案では税収が7~8兆円なくなる。つまり、それだけ金がかかる。一方、大学まで無償化だと5~7000憶円で済むらしいです。すると、大学までの教育費を無償化したほうが、日本の未来には有用なんじゃないですか?
佐藤 維新が昨年、法案を提出していましたね。就学前から大学までの学費の原則無償化を目指す法案ですね。そのほうが効果はありました。結局、高校無償化で自公と合意しましたけどね。
――最近、成人式が大荒れしないのは、このような理由があるからですね。
佐藤 そう、荒れてる余裕なんかないんですよ。皆、食っていくのに大変ですから。世の中、厳しくなりました。だから、BF大の存在は重要なんです。
次回へ続く。次回の配信は4月11日(金)を予定しています。
取材・文/小峯隆生
記事提供元:週プレNEWS
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