スティーヴン・キング原作 ホラー映画史上、最凶最悪の女性が登場! 『ミザリー』
飯塚克味のホラー道 第117回『ミザリー』

『キャリー』(1977)の大ヒット以降、ある時期のホラー映画はスティーヴン・キング抜きには語れないほど、その映画化作品は多くなった。『シャイニング』(1980)に『クリスティーン』(1983)、『デッドゾーン』(1983)など今でも愛されている名作がある一方、『死霊の牙』(1985)、『炎の少女チャーリー』(1984)、『キャッツ・アイ』(1985)や、キング自身が監督に挑んだ『地獄のデビルトラック』(1986)など首をひねる作品も多かった。そんなホラー一辺倒の中、非ホラー作品として大ヒットしたのが『スタンド・バイ・ミー』(1986)だった。監督のロブ・ライナーはキング原作との相性が評価され、次に本作『ミザリー』を手がけることとなる。
物語は極めてシンプル。ベストセラー作家ポールが山のロッジで書き上げた原稿を持って運転中、吹雪による視界不良で事故を起こしてしまう。目覚めるとベッドの中。瀕死のポールを、たまたま側を通りかかった女性アニーが救出してくれていたのだ。半身が動かず、ベッドから出ることができないポールを献身的に世話するアニー。だが、彼女はポールの作品の熱狂的なファンだった。お礼に彼の新作『ミザリー』シリーズの原稿を読ませてもらったアニーだが、予期せぬ展開に豹変し、ポールを追い詰め始める。
主人公の作家ポールを演じるのは、『ゴッドファーザー』(1972)のジェームズ・カーン。身動きを封じられた中で、表情と限られた動きで、怪我をした作家という難役をこなしている。そのポールを助ける女性アニーを演じたのは、まだ当時は無名の存在だったキャシー・ベイツ。感情の揺れ動きが激しい役で、これ以上はないストーカー演技を披露。その年のアカデミー賞主演女優賞を受賞し、その後、驚異的な活躍を見せてきた。
この当時、スティーヴン・キングの作品は出たらその時点で映画化権が売れている状態だったが、自伝的要素も含む内容のため、キング本人が売り渋っていたようで、そこに『スタンド・バイ・ミー』で信頼を得たロブ・ライナーが出てきたため、映画化を託すことになった。ロブ・ライナーによると、「作家役には有名な人物に演じてもらいたかったが、アニー役は有名な俳優にしたくなかった」らしく、当時、舞台女優としてブロードウェイで活躍中だったキャシー・ベイツに白羽の矢が立ったそうだ。

このキャスティングによって本作の成功が決まったと言っても言い過ぎではないだろう。人当たりのいい女性として登場し、徐々にその異常性がむき出しになり、恐怖の対象になっていく彼女の演技は、舞台で鍛え抜かれた演技力をいかんなく発揮する絶好の機会となった。結果、このジャンルとしては珍しく、アカデミー賞主演女優賞を獲得する。
『アダムス・ファミリー』(1991)や『メン・イン・ブラック』(1997)で知られるバリー・ソネンフェルドの撮影も映画の怖さを上げるのに貢献している。室内という限られた空間での画作り、レンズの選び方からカメラワークまで、彼の撮影監督として積み重ねてきたものが集約されている。特にキャシー・ベイツがキレた瞬間のクローズアップは、大画面で見ると、目前で怒鳴られているようで、観客も恐怖のどん底に落とされてしまうはずだ。
現在、リリースされているブルーレイは4Kレストアの高画質を採用。最初の内は、人物の顔の赤みが強く見えるかもしれないが、これは高色域の効果が出たもの。しばらくすると極めて自然なタッチに見えてくる。少し動けるようになったポールが、部屋を見回る場面では、細部からアニーの暮らしぶりが見えてきて、興味深い。また中盤、アニーが、ポールの足を粉砕する驚愕シーンでは、その痛さがこちらまで伝わってくるような衝撃を感じた。4Kテレビなどの対応機器でアップコンバートしてみると、細部の表現が変わって見えるので、ぜひ試してもらいたい。
設定だけ聞くと地味な作品に思えるかもしれないが、二人の名優の駆け引きが、これ以上はないスリリングな瞬間を、体験させてくれる恐るべき一本となっている。じっくりと向き合って、鑑賞してほしい。
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飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
【作品情報】
『ミザリー』4Kレストア版 Blu-ray 6,380円(税込)
発売・販売:KADOKAWA
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記事提供元:映画スクエア
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