「結婚せずに父になる」で問題提起 【平井久志×リアルワールド】
韓国の芸能メディア「ディスパッチ」は昨年11月24日、「モデルのムン・ガビさんが同3月に出産した男の子の父は俳優のチョン・ウソンさんだ」と報じた。ムン・ガビさんはこの2日前にインスタグラムに「私に新しい世界をプレゼントしてくれたこの小さい子どもと一緒に、今のように、こうして歩調を合わせて、一歩一歩歩んでいきたい」と記し、赤ちゃんと一緒の写真を付けて出産を明かしていた。
チョン・ウソンさんは1994年に俳優としてデビューして以来、トップスターの地位を維持してきた人物だけに、韓国で大きな話題になった。チョン・ウソンさんは2004年製作の映画『私の頭の中の消しゴム』の主演男優として日本でもよく知られている人だ。最近では23年の映画『ソウルの春』の主演でも話題になった。
そして、チョン・ウソンさんの所属事務所は「ムン・ガビさんがSNSで公表した子どもはチョン・ウソンの実子だ。子どもの養育方式について最善の方向に向かうよう話し合い中だ。父親として最善を尽くす」とコメントしてチョン・ウソンさんの子どもであることは認めたが、結婚についての言及はなかった。
自分の子どもだと認めたが、結婚をしようとしないチョン・ウソンさんは厳しい批判を浴びるのではないかと思われたが、世論の反応はそのように一方的なものではなかった。
「結婚をせずに養育費だけ負担するということで責任を負うことができるのか」という批判がある一方で、「望まない結婚をして理想的な家庭をつくることができるのか」、「非婚関係でも養育費を負担することは現実的な選択」という意見も出た。
「結婚」と「出産」が結合しなければならないというこれまでの考え方がある一方で、「結婚」と「出産」が必ずしも結合する必要はないのではないのかという意見が出てきたのだ。
韓国統計庁が昨年8月に発表した「2023年出生統計」では、婚姻外出生者が1万900人で、全体出生者23万人の4・7%を占めた。婚姻外出生者数は21年7700人、22年9800人と、少しずつ増加している。
婚姻外出生者の比率も18年2・2%、20年2・5%、21年2・9%、23年3・9%と増加している。
韓国統計庁が昨年11月に発表した「2024年社会調査」では、回答者の37・2%は「結婚しなくても子どもを持つことができる」と答えた。20歳から29歳では「結婚しなくても子どもを持つことができる」と回答した人が42・8%を占めた。14年調査では30・3%だったが、12・5ポイントも増加しており、非婚出産を認める考えが増加していることを示した。
チョン・ウソンさんは昨年11月29日、ソウルで開かれた「青龍映画賞」の授賞式に出席し「私に愛と期待をくれた皆さんに心配と失望を与えたことを心から申し訳ないと思う」とし「すべての叱責(しっせき)は私が受ける。父として息子に対する責任は最後まで果たす」と語った。さらに「私のプライベートが、映画(『ソウルの春』)の汚点になってはならないという気持ちでこの場に立った」と述べた。
キム・ヒギョン元女性家族省次官はフェイスブックで「チョン・ウソンの息子を『婚外子』と呼んでいるが、やめよう」と呼びかけた。「子どものことを、差別的用語である婚外子と呼ばないでほしい。子どもを中心にすえよう。婚外子ではなく『息子』だ」と訴えた。
トップスターの「スキャンダル」が、「結婚せずに父になる」という、韓国の家族のあり方をめぐる問題提起になったように思えた。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No12からの転載】
平井久志(ひらい・ひさし)/共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞、朝鮮問題報道でボーン・上田賞を受賞。著書に「ソウル打令 反日と嫌韓の谷間で」(徳間文庫)、「北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ」(岩波現代文庫)など。
記事提供元:オーヴォ(OvO)
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。