この恐怖と面白さ 映画遺産として次世代にも知ってほしい! 『ターミネーター』
飯塚克味のホラー道 第116回『ターミネーター』

『ターミネーター』(1984)という映画が世に出た時は、本当に衝撃的だった。当時は、未来から来たサイボーグが暴れるアクション映画くらいの情報しか入ってなかったが、アボリアッツ国際ファンタスティック映画祭グランプリという冠が、映画ファンを刺激した。すでに終了して久しいこの映画祭は、それまで芸術肌の映画ばかり賞賛する他の映画祭と違って、エンターテインメントに徹した娯楽映画をスキーリゾートの地であるアボリアッツにある数館で連日連夜上映し、最高の作品を選び抜くというものだった。第1回のグランプリがスティーヴン・スピルバーグ監督の『激突!』(1971)だったことからも、そのカラーがうかがい知れるだろう。
そんな箔が付いた本作。1985年当時、日本で配給したワーナーも「これはいける!」と踏んだのか、ホールを使った試写を何度も開催する。ちょうど大学受験が終わったばかりの自分は3月、ヤマハホールでの試写会でこの傑作に出会った。冒頭の近未来シーンからハートをわしづかみにされ、最後まで異常に短い体感時間を過ごす。その後も試写会は当たり続け、何と公開前にすでに3回も観ていた。ロードショーは5月25日から、東宝系最大の日劇チェーンでスタート。
自分の中では大ヒット間違いなしだったのだが、そう簡単にはいかないのが映画の面白いところ。配給収入は5億3000万円と記録にあるので、興行収入は12億程度だったのだろうか?大した成績ではなかった。だがそこから逆襲が始まる。当時、ブームのはじまりだったレンタルビデオで火が付き、テレビの洋画劇場でも何度となく繰り返し放送される。また、当時はあちこちにあった名画座でのオールナイトでは『ターミネーター』『ブレードランナー』『遊星からの物体X』というベスト3にもう一本が加わる番組が大人気。じわじわと人気が拡散し、やがてアーノルド・シュワルツェネッガーはシュワちゃんになり、監督のジェームズ・キャメロンも『エイリアン2』(1986)で更なる飛翔を果たす。それ以降の展開は説明不要だろう。

近未来、核戦争が起こり、機械と人類の戦争が勃発する。未来で人類の指導者となるジョン・コナーの母親サラ・コナーを抹殺すべく、機械は現代に殺人サイボーグ、ターミネーターを送り込む。だが人類もサラを守るため、一人の兵士カイル・リースを送り込む。というのが物語だ。単純な追いかけっこ映画と言われてしまえば、それまでだが、シュワルツェネッガーが演じるターミネーターは感情を一切封印した機械そのもので、捕まったら即、死という怖さを体現している。冒頭ではパンクスから服を奪うために腹部に手を突っ込み、臓物を引っ張り出すし、別のサラ・コナーを殺す時も一切迷いがない。前半の見せ場であるクラブでの戦闘では、カイルにショットガンを何発も撃ち込まれても、無表情で起き上がる。そんな姿に、誰もがゾッとしたのではないだろうか?
低予算で映画を大量生産するロジャー・コーマンの下で映画作りを学んだキャメロンは、数々のB級ホラーに参加し、そうした恐怖描写をどう見せたら効果的に活かせるかを学んだはず。共に映画作りを学び、一時はキャメロンの妻にもなったプロデューサーのゲイル・アン・ハードは、この手の映画作りに長け、追加撮影のための予算もしっかり確保し、キャメロンの手綱を握りながらも、彼が望むイメージを実現しようと先読みして動いていた。
そんなキャメロンの想像力をビジュアル化した立役者と言えば、特殊効果を担当したスタン・ウィンストンだろう。キャメロンが夢に見て、本作の発端となったスケルトン・ターミネーターの創造から、気持ち悪い目玉や腕の手術シーンなど、彼なしにはこの映画はあり得なかったはず。当初は『エクソシスト』などのディック・スミスにオファーが行ったそうだが、彼がスタン・ウィンストンを紹介。40年経っても色褪せない特殊メイクをフィルムに焼き付けた。
昨年、KADOKAWAからリリースされたブルーレイは日本語吹替版を4種収録し、キャメロンの潔さが分かる未公開シーンやインタビューなどの特典を収めている。同時期に北米などで4K UHDがリリースされたことから、4Kマスターが採用されるかもという声もあったが、フィルム感が漂うHDマスターでのリリースとなった。自分も観たが、4K UHDは確かに素晴らしいのだが、HDマスターも決して劣ってはいない。何より映画の面白さは全く損なわれていないことは強く訴えておきたい。
かつては洋画劇場の華だった本作。最近はベッドシーンや先に述べたホラーチックな描写があるせいか、テレビではあまり見かけなくなってしまった。是非とも、この問答無用な面白さを次世代につなげて頂きたいと、映画ファンの皆様にはお願いしたい。
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飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
【作品情報】
『ターミネーター』 Blu-ray 6,380円(税込)
発売・販売:KADOKAWA
(C) 1984 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.
記事提供元:映画スクエア
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